第8話(誤差0分:冒頭と同じ日付)

 ギルドのクエスト依頼書の掲示板でウィルマと一緒にクエストを物色中。


「んークエストどうしようかルーブル?何か希望とかないの?」

「俺はあんまりキツいのはお断りなんだが……なんだこりゃ?俺達ライオネスへの指名依頼だぞ?『水辺に発生するゴブリン退治の手伝い募集』で参加人数は2人のみか……依頼者は『アルクア』?」


「!!ちょっとそれ見せて!!」


 依頼書を俺から奪うようにして受け取ったウィルマ。顔が真っ青になっている……こんな彼女を見るのは初めてだ。


「この依頼………受けよう、名前はルーブルとボクにしておくけど参加しなくていいから」


 俺の返事を聞く前に契約を済ませるウィルマ、明らかに様子がおかしい!ふらふらした足取りでギルドを出ていく彼女を追いかける。


「ちょっと待てよ、何をそんなに焦っているんだ?普通じゃないぞ!」

「依頼者のアルクア……そんな名前の人はいない、だってこれはボクの故郷アルクア村の名前なんだから!」


「な……あのハズレ属性を迫害してるっていう…」

「うん、ボクが力を隠しながら村を出たことは話したよね?アルクア村の名前を知っていてボクをわざわざ追いかけてくるのは……アイツしかいない!!」


「アイツって……おい、だから少し待てよ!」

「ダメなんだよ!今ここで決着つけておかないとこれからもずっと付け狙われる!君には関係ない事なんだ、家に帰って!!」


 そう言って全く歩みをとめないウィルマの前に無理矢理回り込んで両肩を抑える。少し乱暴だがこうでもしないと今の彼女は俺の言う事に耳を貸さないだろう。


「曲がりなりにもクエストだ、俺も行く。必要な道具を取ってくるからここで待っててくれ!先走って一人で行ったらお前とは絶交だからな!!」

「あ……それは困るなぁ!ふふふ、安心して?ちゃんと待ってるから」


 急ぎ自分の部屋に戻った俺はアイテム類をバッグに詰めて持ちだす。途中でクローデュ達の部屋に寄り事の次第を説明した。


「ホントに真っ青だったのか?あのウィルマが??」

「ああ、俺も初めて見る顔だった……みんなはウィルマの過去を知っているのか?」


「いえ……私達はお互いのプライバシーには触れなかったから詳しくは……」

「しってるのは……ろうぜきものをワンパンでふっとばしたことだけなのぉ」


 狼藉者?ウィルマと知り合いの人間か、恐らくそれが依頼者の正体だろう。とは言え情報が足りないのでこれ以上の推測は不可能だ。


「とにかく何があったのかは知らんがタダごとじゃない、一応2人参加のクエストだから依頼者にもウィルマにも気づかれないように後からついてきてくれ。俺はウィルマについていく」


「分かりました、では私達は後から向かいます」

「ウィルマが心配だが……大将も気をつけろよ!」

「ちゃんとまもってあげるからしんぱいないのぉ」


◇◇◇


 俺とウィルマは現場の水辺に向かう。いつもなら騒がしいくらいに喋りかけてくる彼女がずっと黙り通しなので聞きたい事が聞けなかった。そこまで因縁のある相手と対峙するのか。


「目的地にはついたようだが……誰もいない?」


「そこにいるんだろ、アーク!アークハイド!!」

 聞き慣れない名前を叫ぶウィルマ、それが村での知り合いの名前か。


 「ヒャッハァァアアアアアー!!」

 いきなり剣を振りかざして飛んでくる人影、俺達は二手に別れて攻撃を避ける。


「お前は……」

「残念だったなぁ愛しの彼じゃなくってよぉ……ルーブル、一対一の勝負だ逃げんじゃねぇぞ?」


「エルカートか…こんな事して何になる?リーダーがいないとビーストハートは」

「ハッ!そんなモンはもう無ぇ!テメェらのせいでセレもザラムもフィスもアリエも俺から離れていったんだ……だから俺が始末してやったよ、全員な?」


 そういえば今朝4人の殺人事件があったとかいってたな……殺されたのがセレとザラムにフィス、それにアリエってのはあの受付嬢の事か、コイツが自分のパーティーを??


「最低だな、思い通りにならないからといって簡単に人殺しなんて…」

「うるせぇ!元はといえばお前が悪ぃんだよ!ろくに会った事もねぇのにお前のツラを見てると何かムラムラ殺したい気分になってくる………テメェもここで終わりだぁ!」


 会ってもないのに顔を見ると殺したい気分になる……どうやら俺のタイムスリップは記憶を持ちこせなくとも、スリップ前の感情は共有・蓄積されていくようだ。

 道理で時を巻き戻しても俺への殺意が消えなかったワケだ。


 セレが殺された事にはもう感傷は湧かないが逃げる事は出来ない、ここでコイツとの因縁も断ち切っておこう。



 俺は静かに手を上げる、兼ねてから決めておいた合図だ。クローデュ達がウィルマを取り囲む。


「え?みんなどうして??」

「ウィルマさん、酷いです……私達、そんなに信用ないですか?」

「まったくだ、ウィルマの護衛頼んでくれた大将に感謝しろよ?」

「ライオネスだよ、ぜんいんしゅうごう!なのですぅ」


 クローデュは俺にサムズアップを送る。これでウィルマは安心だ。


「てめぇ、女どもを助太刀に使うたぁ男の風上にもおけ」

「あれはギャラリィだ、お前をぶっ倒すところを見せるためのな?お望み通りの一対一だぞ、かかってこい!」

「カッコつけやがってクソ荷物持ちがぁ……いくぜオラぁっ!!」


 再び剣を振り回すエルカート、しかし問題はない。距離をとっていれば当たる事はない。ヤツの電属性の力は剣と接触しなければ電撃が流れないからだ。


「チョロチョロしやがって……ロングチェイン!!」

 剣に帯電していた電撃が剣から雷のように離れて俺を襲う!間一髪かわせたが着弾した地面は30cmぐらいの穴が開いている。撃たれれば黒こげだな。


「俺は飛び道具を使えるようになったんだよ、アイツからもらったこのブレスレットでなぁ!」


 剣を持つ右手首には…俺と同じデザイン、いや同一のブレスレットがはめられていた。俺のはある、という事は同種類のアイテムか!しかしブレスレットと遠距離攻撃にはどんな関係が?


「こいつはいいぜぇ、はめているといつもより力が湧いてきて今みたいな新技も使えるしよぉ…」


 話を要約するとブレスレットには鬼力のパワーアップを促すものという事か。なら俺のつけているこれは?エルカートのとは違うのか?


「ぼぅっとしてんじゃねぇ!消し炭にしてやるぜぇ!!」

「考えるのは後だ、よし戦術通りにいくぞ!ふっ!!」


 投げナイフを2本投擲するもエルカートの剣撃により弾かれてしまう。


「ハッ、お前がナイフ使いなのは知ってるぜ!ほら、もっと撃ってきてみろよ!」


 続けてナイフを投げ飛ばす。色んな角度をつけて投擲するが全部弾かれてしまう。もう投げナイフ全20本を使いきってしまった!


「ああ?もう撃って来ないのか?品切れのようだなぁ!」

 じわじわと近づくエルカートに対して後ずさる俺、後ろの大木に足が当たる。もう逃げられないか。


「ハズレ属性でも風属性でも結局は変わりねぇってこった、ぶっ殺してやる!」


  シュババッ!


「ぃで…何じゃこれは……さっき弾いたナイフ??」


  シュババッ!


「ぃでで…何で俺の方に返ってくる?!ぎゃあああ!!」


  ザクザクザクッ!


「みぎぃゃああああああああ!!」


 甲高い叫び声を上げて膝を折り倒れ込むエルカート、勝負ありだ。ヤツの身体に突き刺さったナイフが俺のところに戻る。全部回収。


 念動力スキル改めムーヴメントエリア、半径5mの物体なら自由自在に操作が可能。つまり弾かれようが避けられようが範囲内ならいつでも自由に飛ばす事が出来る。


 もちろんこの程度のナイフでは人間相手でも大したダメージにはならない。しかしナイフの刃には痺れ薬と眠り薬が塗られている。これでしばらくは動けないハズ。後で警備兵に突き出してやろう。



「全く使えない男だったな、まぁここで君に倒れられたら私の仕事がなくなってしまうからちょうど良かったがね」


 そう言いながら現われたのは、長身で顔の右半分を髪で隠した全身白ずくめの男だった。

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