第7話(三週間前)

「おい、Aランク様のライオネス達だぜ?リィロちゃんかわいー!」

「おお!クローデュの姉御だぁ!今日もイカしているぜ!」

「い、癒されますよシルさん……」


 俺達がギルド内に入ると空気は一転、酒場にてたむろしている連中がざわつく。リィロ、クローデュ、シルの3人に人気があるようだが、視線は俺とウィルマに集中している。その理由は。


「ちょっとウィルマさん!いい加減にしないと!」

「まったくだ、大将が男どもからやっかみ受けるぜ?」

「らぶらぶなのですぅ」


 ウィルマはリーダーだってのに俺の腕を抱きしめて離さない。嬉しい反面動きにくい上に男どもの視線が恐ろしくなっている。


「いいじゃないか!ボクはルーブルのパートナーなんだから!ね、ルーブル?」

「ぁ、ああ……」


 情けなく曖昧に頷くしかない俺。あれ以来ウィルマはクエスト中では片時も離れず俺と一緒に行動している。ボーイッシュな外見とは裏腹にかなり俺への依存度が高く一人でトイレにいくのも難儀だ。これで同じ部屋で同棲したらもうヤバい事になる!


「もうはしたないです……せっかくAランクになれたのに」

「まぁ仲がいいのは悪かねぇが……もうちょっと周りの目をだなぁ」

「これじゃあおふたりともライオネスをやめてハニムーンにいきそうですぅ」


「うーん、それいいかも!なんてね!!」

「それはシャレにならんって、それより今日のクエストはどうするんだ?」


「どけよお前ら!……よぉ色男!まっ昼間からお盛んだなぁ!」


 ギルド内の空気を破ったのは…ビーストハートのエルカートだ。ザラムとフィス、おまけに以前ギルドの受付嬢やってた女がいるぞ?全員見るからにやつれているというか。


「人のメンバーブタ箱にぶちこみやがって…何が幼馴染だちくしょう!」

「セレの仇は討たせてもらう」

「貴方がたのせいでこちらは商売があがったりです!」

「はぁ、冒険者なんてブラックだ………受付の方が良かったぁ」


 そういえば昨日のサンドワーム駆除で失敗したんだなコイツら。俺が指示した戦術や指揮官のピンクワームの事は覚えてなかったようだ。タイムスリップで記憶を持ちこせるのは俺とウィルマだけだし。初回の時よりも被害がひどかったためかCランクに降格したようだ。


 そして受付嬢の方はエルカートがセレの抜けた後に無理矢理パーティーに引き入れたってコトか。そういやセレがいるにも関わらず名前呼びし合ってたな、どっちがお盛んなんだか。


「表でろやルーブル、俺達ビーストハートとケリをつけ」

「断る」

「な、なんだとテメェそれでも男か?」

 すげなく勝負を断る俺と更に妙な言いがかりをつけてくるエルカート。どう言い返すべきか迷っているうちにウィルマが間に入る。


「何ワケ分かんないこと言ってんだよ!そっちのメンバーがボク達を殺そうとしたんじゃないか!仇なんてお門違い!さっさと帰れ!!」

「ちっ……だったらこれはどうよ?隣町のザルクで仕入れたネタだ、お前のハズレスキルの念属性は持ちこみ禁止の属性だったよなぁ!それも犯罪者レベルのよ!!」


 こ、コイツ!どこでその情報を!そうか、ウィルマの他に俺が念属性だと知っているのはセレか。以前違う町に行ってたらしくどこかで得たその知識をひけらかしているんだろう。


 しかしウチのパーティーはおろか辺りにいる冒険者達も唖然としている、どうやらこのクトファの町も俺の村と一緒で念属性に対しては関心度が低いようだ。


「相変わらず失礼な方々ですねビーストハートは」

「大将が犯罪者?自分達のヤってる事棚にあげてひでぇモンだ」

「いいがかりなのですぅ、ルーブルさんのぞくせいは……なんでしたっけぇ?」


 そう言えば荷物持ちだからメンバーにも明かしてなかったな。いい機会だ、ここでウィルマから教わった属性隠しを試してみよう。


「ああ、みんなには黙っていたが俺の属性は………風だ」

「な、フカシこいてんじゃねぇ!セレがそう言っ……」


 喚くエルカートの左右に投げナイフを投擲。2本のナイフは顔の皮膚すれすれを通り抜け後ろの壁に突き刺さる。あまりの素早さに二の句が告げないエルカート。

 俺に代わってウィルマが説明する。


「ネタバレすると風属性は空気を操るのさ、物体をコントロールするのもお手の物ってコトなんだよおバカさん?」

「く、くそぉあの女……俺に恥かかせやがって!」


 ウィルマの講釈を聞いてうなだれるエルカート。もう一度スキルを使って2本のナイフを回収する。俺の念動力は手を介さず物体を操る力、空気を操る風属性でも同じ事ができるって理屈だ。意外と上手くゴマかせたな。

 ウィルマへ顔を向けるとウィンクしてくれた。


「人に言いがかりをつけてくるヒマがあったら自分達の事を考えた方がいい、みんな行こう」

 そういい捨てて俺達はギルドを出る。


◇◇◇


「くっそおおおおっ!ンだあらぁ?!セレのヤツ、俺に偽情報掴ませやがって…」


 ギルドの酒場よりも格上のバーで喚き立てるエルカート。同じビーストハートの面々ザラム・フィス・アリエもただただ冷めた目で見るばかりである。フィスが堪らず声をかける。


「エルカート様、そのぐらいにしておいた方がいいですよ」

「うるせぇ!お前らに俺の気持ちが分かるか!セレは捕まるわクエストには失敗するわランクはCに下げられるわ偽情報で恥かかされるわ……」


「分からないでもない、だがセレの拘留期限が今日で終わる。明日セレと一緒にこんな町とはオサラバしてもう一度違う所でやり直せば、Bランクぐらいすぐに取り戻せるハズ」

「けっ、あんなクズ女はもういらねぇ!身体はそれなりだったがクエスト抜け出して勝手にルーブル暗殺しようとして失敗するわアイツの属性を騙されて信じやがって

………どこにでも飛ばされてろ!!」


「………そのつもりなら仕方ない、我輩はビーストハートを抜けさせてもらうぞ」

「な、何言ってんだザラム!盾役のお前が抜けるなんて正気か??」

「アンタがセレを捨てるのなら我輩が拾ってやる。味方をないがしろにするリーダーは認められない、さらばだ」

「テメェ待ちやがれ………ぐはっ!」


 盾でふっ飛ばされるエルカート。店の中なのでさすがにスキルこそ使わなかったがダメージは十分だ。すかさずフィスも立ち上がる。


「私もそろそろお暇致します、今までお世話になりました」

「ぉ、お前もかよ!回復役がいねぇと誰がケガ治すんだよ!!」

「現在Cランクですがリーダーがこの有様ではクエスト達成なんて夢のまた夢。特別にここのお代は置いていきます。」


「わ、私も…ギルドの受付に戻る!もうこんなブラックパーティーはたくさんよ!!それじゃ!!」

 フィスとアリエに立ち去られるエルカート。


「ち、ちくしょぉおおおおお!ルーブルのヤツ!全部俺から奪って行きやがったのか!何かツラ見てると殺したくなってくるヤツだったがとんでもねぇ野郎だ!!」


「お客さん、他の方達に迷惑です…これ以上騒ぐなら出ていってもらいますよ」

「何だテメェら俺を誰だと思っ…げふっ!!」


 ギルドと違い格上のバーにはこうした泥酔して暴れる客に対処できる用心棒が置かれている。普段なら上級実力者であるエルカートも泥酔状態では逆らえず叩きのめされた。そのまま表に放り出される。


「くそったれが!二度とこんな店来てやるか!!ルーブルにウィルマって女……絶対ブっ殺してやる!」


 土まみれになりながらもプライドだけは失わずに叫ぶエルカート。


 そんな彼の元に長身で顔を髪で半分隠した男が近づく。その全身には透き通るような白さの鎧やガントレットにグリーブが装備されている。


「ほぅ、ウィルマか……ようやくその名前を聞けたぞ」

「ンあ?誰だてめぇは?!」

「人に名前を聞くときは自分から名乗るものだが……仕方ない、私はアークハイド……ウィルマは私の恋人だ……詳しい話を聞こうじゃないか」


・・・・・

「セレ、早く逃げ…ぎゃぁああああ!!」

「ザラム!アンタよくも仲間を…ひぎゃあああああ!!」

「ここは女性せんよ……ぅぎゃああああ!!」

「な、なんで私がこんな目に……ぃゃぁあああああ!!!」

・・・・・


 その翌朝、クトファの町の出口近くで2人・女性専門宿屋で1人、ギルド「ダタン」の裏口で1人のそれぞれに4件の殺人事件があった。

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