幕間 ウィルマsideB
ギルド「ラジム」での騒動後、ギルドマスター・イレーヌさんに呼び出される。
「目撃者の証言により事件を速やかに解決してくれたウィルマちゃんには……ギルド『ラジム』からの除籍とこの町からの追放が決まったわ」
「!……わかりました、今までお世話になり」
「もぅせっかちね!あなたがこの町にいると危ないのよ、あの彼が戻ってくる可能性が高いから」
ギルドは冒険者同士のトラブルには無関係。しかしアークは冒険者ですらないのでギルドがアークを訴える形になった。ここから遠い監獄に移されたようだ。
しかし罪状としてはギルド内の器物破損にギルド職員の軽傷といったものに過ぎないので、長期間の拘留などの重い刑罰にはならないだろうとの事。
「今までみたいな雇われ者じゃ身を守れないから、これからあなたに冒険者を3人紹介するわね…クローデュ、入ってきなさい」
「うっす……おぅアンタか、変態水浸し野郎をパンチでふっ飛ばした豪傑は!」
「しょ、初対面の方にそんな言い方失礼ですよっ」
「パーティーくむのはじめてなのぉ、よろしくねぇ」
「さぁウィルマちゃん、この娘達と一緒にパーティーを組みなさい!この娘達をしっかり守って……自分の身も守るのよ!」
これがクローデュ達との出会い……ボク達「ライオネス」の誕生だった。
「ライオネスのリーダーはウィルマがやってくれねぇか?」
「私も賛成です、ウィルマさんの実力や人気ぶりは知ってますから」
「わたしのヒートサークルとのあいしょう、ぴったりなのぉ」
みんなの意見でボクはライオネスのパーティーリーダーとなった。
お互い詳しくは聞けないけれど、彼女達も全員ボクと同じくゼルベの町やギルドで問題を起こして処分を待っていたり、実力が発揮できなくてギルドではあぶれていたりしていたとの事。これって体の良い厄介払いじゃないか。
でも追放された身同士だから性格が違っても意気投合するのには時間がかからなかった。
とりあえずボクは得意のバリケィドでみんなを守る事にした。結果として損傷も少なくなりクエストを危なげなくこなせるようにはなったけど、今ひとつ彼女達の持ち味を活かせてない感じ。
回復士のクローデュは腕力が抜群なものの細かい事は苦手。
戦士のリィロは実力があるのに慎重すぎるきらいがある。
後衛のシルは最大の攻撃力を持っているが素早い動作は期待できない。
クエストでは彼女達の長点と欠点を考えながら戦略を立てなければならない。今まではボク一人の事だけ考えていれば良かったけどこれからはそうはいかない。
ボク達は色んな町を転々としながらクエストをこなしていき、ライオネスをなんとかDランクにまで昇格させた。そして比較的治安の良いクトファの町に辿り着くことに。ギルド「ダタン」に行きパーティー登録を済ませた。
町に落ち着いてから一ヶ月経った時、ギルドの掲示板で荷物持ちらしい男の人と出会う事になった。
「ソロで出来るクエストはもうないから今日は出直すつもりだ」
依頼書に書かれている5人参加のクエストが諦めきれなかったボクは彼・ル―ブルに参加をお願いすると快く引き受けてくれた。承諾の握手をすると変な気分になる。
今日初めて会ったのに彼の事をうっすら覚えているような気がする。
-こうやって手を引いてもらって立ち上がり、ぶちまけたボクの荷物をぷかぷかと浮かせて元通りにしてくれた?-
「ルーブル、やっと見つけた!ほら、ブレベス村で幼馴染だったセレよ!」
突然ル―ブルの幼馴染という女の子が横から入ってきて、彼を自分のパーティーに無理矢理引き抜こうとする。先にルーブルと約束したボクは当然反発するけど、女の子も幼馴染の特権を利用して譲らない。
-そう言えばこの女の子も前にこんな感じでボクに突っかかってきたような気がする。その時もボクがその場にいたルーブルに声を掛けた事が原因だった?-
これ以上言い合うとケンカにまでなってしまいそうなところでルーブルが一言。
「さっそくだがパーティーのトコに連れてってくれ、ウィルマ」
幼馴染の女の子よりライオネスを選んでくれた事にボクは嬉しくなってしまう。しかもルーブルはボクの手を引っ張っていく。しっかりと握っているのでドキドキしてしまう、正直恥ずかしい。
ルーブルの落ち着いた雰囲気はどことなくアークに似ているものの、自分の実力にはあまり自信がなさそうだった。加えて他人に強要したりはしないタイプだ。
しかし戦闘では道具の受け渡しや陣形の指示と全てにおいて的確であり、ボクを始めクローデュ・リィロ・シルの長点を見事に活かしきった作戦を立ててくれる。あっという間にCランクに昇格する事が出来た。
時折ハィウォーン・カルムード・ウィンドーサ・オーンブロストといった中堅ランクパーティーのリーダーがルーブルを高給で引き抜こうとする。
そんな提案をルーブルは丁重に断ってくれている。取り分も大したことのないライオネスを選んでくれる彼にボクは感謝すると同時に不安でいっぱいだ。こんなに有能な彼ならいつボク達から離れて他のパーティーへ行ったっておかしくない。
ボク達のランクがCからBに昇格する時、またもや例の幼馴染が割り込んできた。
「小さい時は『ルーブルのお嫁さんになる』って言ってあげたのに!!」
その言葉を聞いてボクの胸は張り裂けそうになるが、一方ルーブルは唖然としている。幼馴染の言葉に罪悪感を覚えているというよりは……呆れている感じ?
「アイツの方がすでに約束破ってるようなモンさ。何せ俺には一言も言わずに故郷を出て冒険者やってたんだからな」
町の展望台の上でルーブルはそう言ってコボす……彼にスキルが発現した時、いつも一緒だった彼女がいつの間にかルーブルから離れていたという事。属性が分かって彼を捨てたという事は彼の故郷にもボクの村と同じ掟があるのだろうか?
彼は荷物持ちだから別段言いふらす事はないけど同じ属性のボクには分かる。
そう、ルーブルは念属性だ。初めて会った同じ属性の人。いつの間にかボクはそんな彼を好きになってしまっていた。
「それじゃあボクをもっと安心させてよ?……んっ」
ルーブルに向かって目を閉じて唇を突き出す、こんな不意打ち反則なのは分かってるけどボクはもうガマンできない!
突然背中に熱い感触が生まれる。
力が抜けたボクはもう立てない……
涙でグシャグシャになっているルーブルの手を掴む、あったかい手だ
……もう眠いよ
………
……
…
「あぶない!」
気がつくとルーブルがボクを押さえつけた!
「次はどこから矢が飛んでくる…」
突然の光景に判断が追い付かないボク。さっき確かに力が無くなって死んでいったハズなのに身体は何ともない?
視線を変えた瞬間、右方向から3つの光が見えた。ここはボクがルーブルを守らないと!
「ルーブル、動かないで!リパルジョンっ!!!」
次の瞬間、ボク達の周りを無色透明なバリアーが張られる。そして飛んできた光の矢はバリアーを突き抜けられず弾かれた。
その後町の警備員2人がルーブルの幼馴染を連れてやってきた。
「あ、ルーブル!助けてよ!!私警備兵に言いがかりつけられて……ほら、未来のお嫁さんが困ってるじゃない!」
何を言っているのか分からない。自分からルーブルの元を離れたクセに幼馴染だのお嫁さんだのと言ってルーブルを引き止めようとしている。
こんな自分勝手な女にルーブルは渡さない!
「いいえ、こんな人仲間じゃありません、さっさと留置所にぶち込んで下さい」
自分でも驚くぐらい冷たい声が出た。事情を説明しようとするルーブルを目で抑える。喚き散らす幼馴染が警備兵に連行されていく姿を見てホっとする。
………ボクの中にはこんなドス黒い心があったのか。
その後、ルーブルからタイムスリップの話を聞くことに。ルーブル曰く、ボク達はすでに4回出会っているとの事だった。にわかに信じられないけど時折浮かぶ彼との記憶がその証拠だ。
ボクも念属性だという事を告白した。このクトファの町もそうだけどルーブルの故郷では念属性はハズレ属性の印象が強く迫害される事はないらしい。
とにかくボクとルーブルは同じパーティーで同じ属性で同じ時間を共有してきたパートナーだ。もう絶対に離れないし離れたくもない、ずっと一緒なんだから!
………たとえアークが再び戻ってきたとしても。
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