第10話

 氷の中に……何かある??


「許せん、ゆるせんのだ!属性が2つもある私がこんな能力の低いヤツにウィルマを奪われるなんて!!クソっ!」

「ぐ……ぎゃぁあっ!」


 腕で防御しても腕ごとダメージを入れてくる。どうやら左腕が折られたようだ。

 殴られ過ぎて跪きそうになるが足元の氷が支えているのでそれもできない。完全にサンドバック状態だ。


 ヤツの攻撃をこらえるために下を向く……足を包む氷の中には……粒があるのが見える?粒がぎっしり詰まっている。


「私のウィルマぉぉぉ!返せよぉぉぉ!!私のものなんだぁああああ!!!」

「ルーブルっ!…………るぅぶるぅ!!」


 うつむいている俺の胸倉を掴み再び殴りまくるアークハイド。衝撃は伝わるものの空気が冷た過ぎて皮膚の感覚が鈍っている。

 おまけに心なしかヤツの殴るパワーがだんだん弱くなっている。俺もツラいがこれだけ殴ればヤツも肩で息をしているようだ。


「はぁはぁ……もういい、最後は私の槍でとどめを刺してやる、スピア!!」

 アークハイドの右手に1mほどの三角錐状の槍が形成される。あれで刺されたらもう………。


「や、やめてぇアーク!ボク……キミについていくからぁぁ!ルーブルを殺さないでぇぇぇ!!」

「ダメだ!それじゃウィルマの中のルーブルを消せない!ここで完全に消してやるんだ!」


 巨大な槍が俺の心臓めがけて走ってくる………おかしいぞ、世界がゆっくり見えてくる。

 向かってくる槍を右手で触れる。槍の中にも粒が入ってるのが見える……これを動かせばどうなるんだ?


  パァン!


「な!私の槍が……砕けた??」

「……え?るーぶる…?」


 何だ今の感覚……槍の中の粒を動かしたら氷が砕けた??だったら足元の氷も砕けるハズ、手をついて氷の中を見る。この粒を動かして、


  パァン!


「バ、バカな……私の氷が破られる……?火属性を持たない君がなぜ??」


 足元が自由になった俺はふらふらになりながらも氷漬けにされたウィルマとクローデュ達の元に向かう。

 分かってきたぞ、世の中の物質はブンシとかで出来てるって話だ。さっき見えた粒はそのブンシってヤツか。だったらそのブンシを俺の念動力で動かせば氷はその形を失う。


 ウィルマの手足を拘束しているドーム状の氷に手を触れて意識を集中……粒が見えた!


  パァン!


「大丈夫かウィルマ?遅くなってすまない!」

「る、ルーブルぅぅぅぅ!!」

 氷から解放されたウィルマは俺に思いっきり抱きつく。遠慮なく抱きしめてくるのでケガしたところが痛い、どうやら痛覚も戻ってきたようだ。


「ぅぐぅぅぅぅ!!私のウィルマから離れろぉぉぉ!!!」

 先ほどの巨大槍よりも大きな氷の流れが俺達を襲う。対する俺は右手の掌を向けて防御。やはり大きくても氷は俺に触れると砕け散った。


 続けてクローデュ達も氷から解放する。


  パァン! パァン! パァン!


「ウィルマ、彼女達の世話を頼む……俺はアイツと決着をつける!」

「う、うん!気をつけて…ルーブル!」


 俺はアークハイドに対峙する。またもや氷のナイフが襲ってくるが全て俺には効かない。ブレスレットを失った事でムーヴメントエリアの範囲も失った、しかし対象に接触すると念動力は使用できるようだ。


 そして自分の左腕を見ると折れている箇所が分かる。激痛を堪えながらしっかりと右手で固定した上で念動力を加えると見事に骨折が治る。氷を砕く時とは逆にブンシをくっつける事も可能なようだ。


「はぁはぁ……自分の腕を治すなんて……くっ……負けるものかぁ!!」


 アークハイドは氷の攻撃で鬼力を使い過ぎたのか先ほどよりも疲れた顔をしている。諦めずに攻撃を続けるも威力がどんどん弱くなってきている。


「わ、私の氷属性が効かないのか?こちらには2つのブレスレットもあるのに……き、君は何者なんだ??」


 ウィルマの力すら抑えた氷の攻撃を全て破る俺に問いかけるアークハイド。答えは簡単だ、念動力の範囲を犠牲にした事で逆に鬼力は増大しているからだ。

 しかしバカ正直に答えてやる義理はない、これだけで十分だ。



「俺はルーブル、属性は…………………念属性だぁ!」



 アークハイドを素手で殴りまくる。装備している鎧ごとふっ飛ばすつもりで。否、白い鎧は粉々になった。


「ぐふぁあああっ!がふぅ!ぅぐ!ぐぁあああああ!!」


 倒れるアークハイドは激痛により転げ回る、そしてそれを立って見下ろす俺。拳に念動力を込めて殴ったのが原因か内臓や骨にまでダメージを与えているようだ。


「はぁはぁ、も、もう骨までボロボロだ……参ったよルーブル君……そうか、君も念属性だったのか」

「……………」


「道理で……ウィルマが君に……懐くハズだ、納得はできないが理解はしたよ」

「アーク………」

 いつの間にか俺の横に来ているウィルマ。


「ブレスレットも役に立たなかった……敗者はこの世を去るのみ………さぁ私にとどめを………」

「……いいだろう」


 アークハイドの身体に手をかざす。念動力を全身に行き渡らせる。


「ぐぅ……っつぁ…………な、何をした?」

「悪いが人殺しは勘弁だ。とりあえず息ができるぐらいにまで骨をつないでおいた」


「な、何故死なせてくれない……私は君を……殺そうとしたのに!」

「お互いに一人の女が好きになっただけだ。俺もお前も大差はない。」


「そ、そんな………私を許すというのか?」

「しかし無罪放免ってワケにはいかん、そこに倒れているエルカートと一緒に警備兵に突き出してやる」


 不幸中の幸いというべきか、右手を切断されたエルカートはかろうじて生きている。アークハイドの氷属性の攻撃の影響を受けてナイフの傷や切断箇所が凍らされ、結果的に血止めされていたようだ。


「今日の件はクエストだ……依頼主の目的が冒険者との戦闘である……という言い訳はできるぞ?」

「忘れているようだがそのブレスレット……エルカートに貸しただろう?そしてヤツの殺人には手伝わなかっただろうが止めもしなかった……共犯と同じだ、2人で仲良く罪を償うんだな」


「……ははっ、そうだったな……私とした事がウィルマのことばっかりで後先の事を忘れていたよ」

「そして勝者の特権だ、そのブレスレットは2つとも没収させてもらうぞ………これ以上付きまとわれたらたまらんからな」

 俺が動く前にアークハイドは自ら両手のブレスレットを外して投げ渡してきた。


「こんな物に頼っていた私が未熟だったという事だ、持って行きたまえ……今度は自力で勝って見せる」

「まだ諦めないのか、しつこいヤツだな」

「それが私の取り柄さ……それに生身の君がブレスレットを2つも装着した私を倒した、君に出来た事を私もやって見せるだけの事だ………ふぅ、久しぶりにしゃべりすぎて……少し疲れたよ」


 そういうとアークハイドは意識を失った。敗北したにもかかわらずそこには戦闘前の暗い顔は無く安らかな顔があった。


「アーク………ルーブル、助けてくれてありがとう」

「俺達はパートナーなんだろ?当たり前じゃないか」

「ぅ、うん!やっぱりルーブルは最高だよ!!」

 そういって抱きついてくるウィルマ、戦闘で冷えていたお互いの身体が溶かされていくようで心地いい。堪らずお互いに見つめ合いそして


「……ったく、いつでもどこでもラブラブが止まらねぇなぁお2人さん!」

「も、もう諦めてますけどね!」

「いちゃらぶでおなかいっぱいなのぉ」

 いつの間にか回復していたクローデュ達3人。


「こ、こんな時になんで起きてくるのかなぁ3人とも!ちゃんと空気読んでよね!!」

「は、ははは…」

 やはり今回もお預けのようだ。



 ライオネスの全員が回復した後、意識を失っているエルカートとアークハイドの2人をギルドに突き出した。事情聴取にてエルカートの証言を報告するとギルドは治安当局と連絡を取り2人の身柄を引き渡した。


 ちなみにエルカートの右手は俺が念動力でくっつけておいた。右手が切断されたままだとまた逆恨みされそうだ。いや、両手が揃っていても俺に対しての殺意は消えないか?正直微妙なところだ。

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