エピローグ

 5日後、ギルドからエルカートとアークハイドの2人の処分についての報告を受ける。


 エルカートが治安当局の拘置所から出所したセレと彼女を待ち受けていたザラム、宿屋にいたフィス、ギルドにいた受付嬢アリエの4人を殺害した事を認めたため40年間のイラザス鉱山での強制労働となった。


 イラザス鉱山、犯罪者を労働させる鉱山で発生している地熱が原因かスキルが従来通り使えなくなる恐ろしい場所との事。加えて警備も厳重なので刑期を終えるか死ぬまで出られない事から犯罪者の終着地点と言われている。


 一方のアークハイドはエルカートの殺人には手を貸してなかったものの強化ブレスレットを貸与して殺人行為を制止しなかった事、加えて2つのブレスレットを手に入れた際に行われた違法取引の罪状があり、エルカートと同じくイラザス鉱山で10年間の強制労働となった。


 ちなみにアークハイドのブレスレット2つは治安当局に没収されたままだ。



 報告を受けた後、ウィルマとレストランへ行く。


「大丈夫か?いやケガの具合もだが…ギルドと治安当局のヤツの処置は」


「体調は問題無いしアークハイドの場合は自業自得さ、何せ後先考えずに強化ブレスレットを手に入れたくてヤバイ商人と取引したんだからホントにバカだよ……それよりルーブルが勢いでアークハイドを殺さなくて良かった、正当防衛でも何かのペナルティをつけられるかもだしね」


「まぁ我ながら甘すぎるかもとは思ったけどな、10年後にはまた追いかけてくるかも知れんが」

「そこも問題なし!ルーブルがちゃんと守ってくれるから!それより君のブレスレットは結局壊れちゃったよね?没収されたブレスレットの片方でもいいから返してくれないかなー」


「それこそ問題はない、タイムスリップは出来なくなったがブレスレットの力が無くなった事で逆に新しい境地に目覚めたからな」


 そう、ブレスレットの破壊で今まで使っていた半径5mのムーヴメントエリアの有効範囲や精密動作は従来の半径1m範囲内のものとなってしまった。


 しかし力の減少と共に範囲を狭める事を覚えて、物質の粒であるブンシなるものを視る事が可能となった。ブンシの組み合わせを念動力で動かせば物質をバラバラにする事や、逆に骨折を治す程度に再構築する事も容易である。


「え?何それ、ボクにも教えてよ!同じ力を持ってる仲間だしパーティーだしパートナーじゃないか!」

「それは……秘密だ」

 説明が難しそうなので割愛する。ウィルマは小難しい話は苦手なタイプだし。


「もぅ!恋人の仲で隠し事は厳禁だよ!教えてくんないとこうだ!うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ…」

「ちょ、くすぐったいって……やめれぇぇぇ!!」


「あの、お客様…他の方々にご迷惑ですのでお静かにお願いします」


 そこには俺達を険しく見つめる無数の目があった。店員に支払いと謝罪をした後足早に店を出る。


◇◇◇


 更に一週間後、ギルド『ダタン』内の酒場にて。


「おぉ!リィロちゃんがウチの『カルムード』に入ってくれれば百人、いや千人力だぜぃ!」

「クローデュの姉御、俺ら『ウィンドーサ』の命はアンタに預けたぜ!」

「シルさん、『オーンブロスト』と共に歩みましょう!」


 カルムード・ウィンドーサ・オーンブロスト、それぞれのパーティーにリィロ・クローデュ・シルを預ける。3つとも1~2回ほど俺が一時参加したことのあるパーティーだ。勝手知ったる他のパーティーってか。


 Aランクパーティー・ライオネスは事実上解散となった。その理由は、


「あ、あの……お2人を見てると私も恋愛したいかなぁって考えて……恥ずかしぃです」

「あはは、大将達が悪ぃんだぜ?あたしらの居場所が無くなっちまったじゃねぇか!」

「だからわたしたちもおむこさんをさがしたのぉ、ぜんいんキープずみなのぉ」


 何と俺達2人がくっついてる間に3人ともそれぞれパートナーを見つけたようだ。そういうトコはしっかりちゃっかりしてるっていうか。


「3人ともお幸せに!じゃあボク達はこのままハニムーンでも行こうよルーブル!」

「そうだな……働き詰めだったしちょうどいいか!」


「あ、そんなのズルいです!わたしも!」「リィロちゃん、もっと稼がないと旅費が……」

「ちくしょう、次のクエストが無けりゃお邪魔虫してやるのに!」「ははは、逃がさねぇぜ姉御!」

「わたしのよげんどおりなのですぅ、うらやましぃ~」「こっちも負けてませんよシルさん、スイーツ店で予約取ってますから!」


 その場が笑いに包まれる……パーティー解散ってのはもっとしんみりしたものじゃなかったか?


◆◆◆


 3日後、なだらかな山の上を歩く俺とウィルマ。そろそろ国境沿いだ。


「ねぇルーブル、この旅の目的は……念属性の調査だよね?」

「ああ、クローデュ達にはハニムーンと言ってゴマかしておいたが……実はアイツらも気づいているんじゃないか?俺達がただの旅行に行くワケがないってな」

「うーん、意外にそうかも……クローデュって鋭いトコあるからねぇ」


 念属性についてクトファの町では大した情報は得られず終いだった。情報の少ない俺の故郷は言うに及ばず、ウィルマのアルクア村では迫害の対象なので危険過ぎて近づけない。


 それに加えてアークハイドに壊されたこの「強化ブレスレット」の正体も知りたい。俺の持っていたこのブレスレットだけにタイムスリップする能力があるのか、それともただ鬼力を強化するに過ぎないのか。

 前者であればすでに破損しているためそれほど問題はないが、後者である場合だと念属性には時を超える力があるという事になる。


 しかし情報集めの副産物として、大陸の向こう側に「七鬼学セプテム」のスキルを学習・研究する『エーゼスキル学園』という教育兼研究機関がある事を突き止めた。ここになら俺たちが求めている念属性の詳細やブレスレットの情報を得られるかもしれない。


 周囲を気遣いながら属性をひた隠して暮らすより、自分達の力の正体を知ってこそ安泰な生活を送れるハズだ。


 大陸を出るまでにはいくつかの国を超える必要があるので5~6ヵ月はかかる。

のんびり2人で旅をしながら目指して行こう。


「ふふふっ、目的はどうあれこれはやっぱりハニムーンだよね!つぎはロザリスの町に行って遊びまくろうよ!」

「おいおい、ほどほどにしないと旅費まで無くなっちまうぞ?」

「だいじょーぶっ!その時は2人の『ライオネス』でクエストやればいいんだよ!何せボク達は同じ属性で最強のパートナーなんだからさっ!!」


 とびっきりの笑顔で俺の手を引くウィルマ、同じ力を持つ彼女と共に過ごしたい。

 ビーストハートの殺意を乗り越えた今、俺の人生が始まろうとしている。



 -終-

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