幕間 ウィルマsideA

 ボクはアルクア村で育った。どこにでもある村人同士が助け合って生きる村だ。

その中で一つ変わった掟がある。


「念属性は悪魔の力なり」


 どういうワケかこの文言を死守し世々代々受け継いでいる。人は七鬼学セプテムのスキルに目覚めると7種類の属性が判明する。

 もし村の中に念属性がいた場合家族ごと村八分にされる。何より村外からの援助が全くあてにできないこの村で差別されることは、生活ができず死に追いやられるか村を出ていくしかない。


 自分のスキルが発現した日、ボクは自分の運命を呪った。

 聞いた話ではスキルに目覚めて鬼力をこめると土・水・風・火・電・光の要素が現れる。なのにボクが鬼力をこめてもどの要素も現われないのに強力なバリアーが出来てしまう。

 ボクの属性はこの村では忌むべき「念属性」だった。このままじゃボクだけじゃなく家族にまで迷惑をかけてしまう!



 この村では男達が狩りに行っている間女たちは畑を耕す。女でもボクのような若者は荒れ地の開墾を任されることになった。うっかりスキルを使えないが全部手作業のみで行うのは途方もない仕事だ。


 ボクの念属性はバリアーで守る事しか出来ない。じゃあこの力を農作業に使うとどうなるんだろう?試しにボクは土に向かって鬼力を発動する。


  ボコボコボコボコッ!!!


 瞬時に荒れ地が畑に向いている柔らかい土壌になった。砕け切れていない石も外に出てきているから持ち運びは簡単だ。村の同じ歳ぐらいの娘達が聞いてくる。


「アンタすごいねぇ!一瞬で柔らかい土になったじゃない!」

「へぇ、アンタもスキルに目覚めたんだねぇ…属性は?」

 聞かれると一瞬考えこむ、でも答えは簡単だ。


「ボクのは土属性だよ、これで開墾も簡単さ!」


 咄嗟についた嘘だけどバレる心配はなかった。何せボクのお蔭でツライ作業が無くなったんだから他の娘達は大喜び。誰もボクの力を疑う人はいなかった。


 この半年間ボクは開墾作業を任された。実は自分から村長に頼んだのだ。この村では念属性は禁忌、だったら村を出て生活すればいい。その前に開墾できる所をなるだけ増やしておけば村の役には立つ。村長には村を出る事を含めて了承済みだ。


 念属性といっても無限大のエネルギーじゃないから正直ツライけど、ボクは村のみんなのために頑張った。

 作業の合間に一息ついた時、アークがそばに来る。


 村の中でボクよりも2つ年上であるアークハイドとは幼馴染だった。アークは常に落ち着いていて何をするにも丁寧な性格でボクに優しかった。

 その反面真面目過ぎるのが珠に瑕で、村長に指示された仕事ですら愚直にやり過ぎて逆に周囲を困らせる事もよくあった。


 アークはいつもボクを気にかけてくれて、ボクもアークを頼りにしていた。この時までは。


「大丈夫かウィルマ、開墾作業を一人でやるなんて無茶だ……私が村長に話をつけてこよう」

「心配しないでよアーク、ボク村のみんなのためになれるんだから……土属性だしピッタリだよ」


 そういって両腕を上げて伸びをするボク。不意にアークがボクを抱きしめてくる。


「ちょ……アーク、やめてよ!恥ずかしいじゃないか!」

 そう訴えるボクに抱きしめたまま耳元で恐ろしい事をささやくアーク。


「……君の属性は土なんかじゃない、念属性だよ」

「なっ!」

 どうしてそれを知っているんだ!家族にさえバレていないのに。ここにはボク達しかいないけど大きな声で話せばバレることもある。ボクは無言で彼の言葉を待っていた。


「私の前で隠し事はできないよ、それに私は君が好きだ……念属性だろうとなんだろうとね」


 誰にも気づかれなかった事実をアークに知られた事でガタガタと震え始める。そんなボクの背中をアークは優しく撫でてくれる。


「ああ、心配しないで………誰にも喋らないしウィルマを脅迫するつもりはないんだ」


 ボクを宥めるアーク。彼の声はいつものように優しく言葉にもウソが見えない。でもボクは彼を信じ切れなかった。手をアークの肩において無理矢理引きはがす。


「やめてよ!ボクはここに居られなくなる事ぐらいわかってる!だから村の外に……」

「…どうしてわかってくれない?私の何がダメなんだ?どこにも行かせない!私だけのウィルマ!!」

 再びアークがボクを捕まえる。手を振りほどこうとするも凄まじい腕力がそれを許さない。アークの普段と全く違う形相に驚いてボクは咄嗟に力を使ってしまう!


「いやぁっ!!」

「ぅが!……ぐぁ・・・…」

 アークがふっ飛ばされる。しまった、スキルを…それも念属性の力をアークに使ってしまった!


「こりゃいかん、すぐに治療するんじゃ!ワシの家に行くぞ!!」

 そう言ったのはこの村の村長だった。村長と一緒にアークを抱えていく。



 村長の家でアークのケガの経過を聞くことに。


「心配いらん、命に別状はない……骨が幾つか折れとるから全治3ヶ月といったところかの」

「そんな……」


「お前さんが気に病む必要はない、実はお前さん達のやり取りの時に通りかかっていたんじゃ……どうみても嫌がるお前さんをあやつは無理矢理押さえつけた、お前さんに非はない」

「でも…ボク、どうすればいいか分からない…」


「ふむ、少し早まったが村を出るがいい……開墾作業はもう十分にやってもらったし、ケガが治ったあやつがお前さんに何をするか分からん……それにお前さんの属性の事もあるしな」


 !そうか、さっきのアークをふっ飛ばした時の力を見られていたか。このまま村に残っても家族にまで迷惑を掛けることになるだろう、それだけは何としても避けたい。

 その晩、ボクはこの村を出ることになった。



 村を出て2ヶ月後、ボクはアルクア村から一番近い町ゼルベにて冒険者となった。土属性を名乗って直接的な攻撃力を持たないボクは盾役となった。


 この町には盾役専門の冒険者は少なく、パーティーに所属するより臨時参加の雇われ冒険者の形をとった方がいいとギルドに勧められた。右も左も分からないボクはそれに従い色んなパーティーの間で活躍することになった。そうしていた時に。


「良かった、元気そうじゃないか!私のウィルマ!」

「あーく…??」

 ゼルベのギルド『ラジム』に現れたのは…アルクア村にいたハズのアークだった。全治3ヶ月だったハズのケガが最初から無かったかのような快復ぶりだ。


「さぁ私と一緒に帰……いや、一緒に暮らそう!ウィルマのいないあんな村に価値はない」

「だ、ダメだよ!ボクはアークに大ケガさせたんだよ?」

「あんなのは問題にはならない、というよりあのケガのお蔭で君への愛情が更に深まったと言える……さあ、私と一緒に来てくれ!」


 自分を傷つけた相手をより深く愛せる……アークの執念とも見える愛情に恐怖してしまう。

 そこへボクたちのやり取りを見かねた冒険者達が口を出す。


「なんだテメェ!」

「俺らのウィルマちゃんをかっさらおうなんざ……」

「おととい来やがれってんだ?!」


「ダメ!みんな止めて!アーク、お願いだから!!」

「私とウィルマの間に立ち塞がる者は容赦しない…ロォォォドっ!!」


 一瞬でギルド屋内が水のプールと化す……ボクと近くにいた冒険者3人は無事だ、ボクの念属性のバリアー「リパルジョン」で水に溺れずに済む。ここは室内だから土を使ったバリケィドは使えないし土壁だけでは室内満杯の水を防ぐ事はできない。


「なんだこりゃあ?」

「これもしかしてウィルマちゃんが…」

「ぬぅ、凄まじい反発力だ」


 無関係のギルドで暴れて他人をも巻き添えにする……やっぱりアークはボクを捕えるためなら手段を選ばない。ボクがアークに従えば問題ないのかも知れないけど、この行動を見ていると彼にはついていけないと確信する。ここで止めなきゃ!


「はは、さすがに強いなウィルマは!私の水属性のロォドが形無しだよ!しかしそのバリアーもいつまで持つか?」


 どんな攻撃をも防いで反射するリパルジョンだけどアークが諦めない限り埒が明かない。よし、イチかバチかだ!

 バリアーの左上の部分にワザとヒビを入れる、そこへ無理矢理アークがこじ開けて入ってくる!


「そこだぁ!さぁウィルマ、私と一緒にぃぃぃっ!!」

「アーク、ごめん!はぁぁあああああっ!!」


 周りのバリアを展開しながらボクは左手に手の平サイズのバリアーを展開、掌底突きをアークの顔面に叩きこむ!


「ぐあっ!!……あがあぁぁぁぁぁあああ!!!」

 ボクの攻撃はアークの右目に見事に決まった……本気でやってしまったから失明させたかも知れない。


 ギルド屋内を満たしていた水が引いていく……アークが意識を失ったようだ。

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