第2話(3日前)

「ぅがぁぁぁぁ!…………はっ!ここは……」


 気が付くとクトファの町の商店街、辺りを見ると昼間のようだ。

 また自分の身体を確かめると傷やダメージは全くなく変わったところはない、左手についている例のブレスレットを除いては。

 どうやらまた過去にさかのぼったらしい。一体どのくらいの時間が巻き戻ったのか。


「何をぼさっとしておる、3日後のマッピングクエストに使う備品を揃えておくのだ!我輩は盾の整備をしに鍛冶屋へ行ってくる、後は頼むぞフィス」


 そういって反対方向に歩きだしたのは盾役のザラム。ご存じ盾を使った「スクェアボンバァ」なる必殺技で俺を2回に渡って痛めつけてくれた男。風属性を持ち1mほどの盾をひっ下げて盾役に似合わず縦横無人に走りまくる豪傑だ。リーダーエルカートに心酔しているらしい。


「いきますわよルーブルさん、エルカートさんからバイト料ももらってますし」


 音もなく現れたのは回復役のフィス。土属性を持ち、初回にて血止めのスキル「フリージングブラッド」を悪用し俺を殺そうとした女だ。その正体は守銭奴でエルカートに媚びを売っているのは金のためだけのようだ。


 そしてザラムの発言を思い出すと現在はクエスト3日前という事になる。

 クエストは未契約中だからすぐさまギルドに行ってパーティー脱退手続きをしたいところだがフィスがいると面倒だな、とりあえず言われた通りに道具屋にアイテムを買いに行くか。



 行きつけの道具屋へ行き回復ポーションから毒消し薬を手に取る。後は状態異常を治すキュアリキュールを買いたいのだが…商品の前でしゃがんでいるヤツがいる。ただでさえ狭い店内なのに。


「そっちの棚に行きたいんだが、少しどいてくれないか?」

「ああ、ゴメン。お金と相談してたらどれ買っていいのか分からなくなって…よっと」


 そう言って立ちあがったのは…この前にギルドでぶつかったヤサ兄ちゃん?いや、タイムスリップして来たんだからこの時点では会った事はない、初対面だ。


「なに?ボクの顔に何かついてる??」

「い、いや何でもない………あれ?最上級ポーション20本も買い込んでるのか?」

 ヤサ兄ちゃんの買い物カゴを見ると回復薬の最上級ポーションが入っていた。飲んだ途端に体力を完全回復できる代物だが値段が高すぎる。一個人やパーティーが買い占められるモノではないぞ。


「あーそれ?せっかく買うんだから全部いいヤツにしたんだけど、そうするとお金が足りなくなっちゃってね…他のアイテムをどうやって節約しようかと考えてたんだ」

 そりゃこんな最上級モノを揃えりゃ誰だって金は無くなるわな……この兄ちゃんに貸し借りはないがアドバイスしてやろう。


「金に余裕のない時は最上級をメンバー1人一本ずつにして後は下級ポーションを多い目にすりゃいいぞ。」

「なるほどー!最上級のはヤバイ時だけに使ったらいいのか!君ヤケに詳しいね、荷物持ちとかやってるの?」

「ご名答、といってもハズレスキルだから荷物持ちとしても上手くいってないというか……」


 「ちょっとルーブルさん!遊んでないでさっさと終わらせますわよ!」


 不意にフィスの声が飛んでくる、時間を掛け過ぎたか。


「悪いな、パーティー仲間が呼んでるから俺は行くよ」

「うん、アドバイスありがとう!君も気をつけて!」


 支払いを済ませて店を出た俺はフィスから待たせた分の罰金をむしり取られた。


◇◇◇


 宿屋に戻り購入したアイテムをまとめる。一息つくため用を足しに行く。


 ザラムとフィスが着いていたお陰で結局ギルドに寄る事は出来なかった。強引に行くとまたエルカートにチクりそうだし。しかし何としてでも殺される運命だけは回避しないと。


 用を足して自分の部屋に戻ろうとすると怪しげな声が聞こえてきた。ここは確か、セレの部屋?俺はそっと聞き耳を立てる。


「…んぅ!それじゃルーブルを………ぁん」

「ああ、ここいらでアイツをカタづけて置かないと足手まといになる……早くAランクにのし上がらなきゃならんからな」

「はあはあ……じゃあそのためにわざわざクエストを引き受けるのね?何か大げさっていうか」

「へっ、どうせDランククエストだ。Bランクの俺たちが失敗するハズもねぇしミスったところで痛くもかゆくもねぇ……アイツさえ始末しちまえばな?」

「うふふ、ようやく幼馴染なんてウザイヤツから解放されるのね?まだまだ時間もある事だしもっと………」


 コイツら……以前からこんな関係だったのか、というよりこの時点で俺の抹殺計画を立ててやがった?エルカート曰く俺のミスが原因らしいが思い当たる節はない、


 いやこんな事を推理してる時間はねぇ!すぐさま逃げないと!!


◇◇◇


「はぁはぁ………ここまでくれば大丈夫か、ふぅ」


 町の中央を流れる川沿いまでくると疲れて腰を下ろしてしまう。恐怖に駆られて走ったせいで普段より息が切れているようだ。急いでギルドに行って手続きしなきゃならんのに。


「こんな夕方からどこへ行く?さっさと戻るのだ!」

「まったく次から次へと!罰金上乗せですわよ!」


 な、ザラムとフィスが追いかけてきた?なんで俺が逃げ出した事に気づい………そうか、買い出しにザラムと、道具屋でわざわざフィスと行動させていたのは俺の行動を監視していたというワケか!そこまで用意周到にして俺を殺さなきゃならんとは……いや、だったら尚更逃げるべきだ!!


 逃げ出す俺を追いかけてくる2人。よし、ここは川辺の利点を使ってやる!

 俺はその辺の小石を数個ザラムとフィスめがけて投げる。しかし飛距離が足りず数m前で落下。


「なんというノーコンで弱肩、これでは役に立たなくて当たり前」

「私でももう少し当てられますわよ?」

 俺をバカにする2人。足を踏みかえる瞬間に鬼力を込める!


「くっ!足がもつれ」

「きゃあ!いたた…こんな場所でコケて来ないで下さい!」

 見事に倒れ込むザラムとそれに巻き込まれるフィス、2人同時の足止めに成功!


 さっき投げた石に鬼力を込めることで念動力を発動させた。石が不意に動けば小石だらけの足場は簡単に変形し当然バランスが崩れるという寸法だ。小さい物なら範囲指定をしなければ射程範囲外でも多少はコントロール出来る。ハズレ属性の面目躍如ってトコだな。


 2人がコケている間に全速力!場所も決めてないが一気に逃げ切ってやる!


            キィィィィィィィン!


 突如として光の束が俺の横を通り過ぎた、右足に激痛が走ってその場に倒れ込む。


「ぁがぁっ!!何がおこって……」

 光の束が俺の右大腿部を貫通している、おまけに全身が痺れて動けなくなっていた……この攻撃はまさか?


「フォトンナイフ、そしてエルの電撃を付加させたからライトニングレーザーってトコかしら?」

「…お前、俺たちの話を聞いてやがったな?」

 エルカートとセレが歩いてくる…逃げなきゃならんのに身動きが取れねぇ!


「ねぇエル、もう私がヤっちゃっていいかな?3日後のクエストは4人で十分だし」

「そうだな、3日後に殺すのも今ヤるのも変わらんか、頼んだぜ」


 冷たい目をしたセレ、容赦なく俺の心臓めがけて光の矢を放つ。二回もチャンスがあったのに殺される運命からは逃れられないのか。俺が殺されるほどコイツらを怒らせた原因は何なんだ?



……「やり直したい、もう一度」


三度、辺りが白く輝く中、俺の意識は途絶えた。

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