第3話(3週間前)

「というワケでB級クエスト、サンドワーム50体の駆除に向かうぞ!」

「いよいよ憧れのAランク昇格も見えてきたわね!」

「これを成功させれば我がビーストハートの戦歴が上がる」

「お金もたっぷり入りますし…楽しみです!」


 またまた気が付くと冒険者ギルド「ダタン」内の酒場にいた。

自分の状態を確認するとやはり胸と右足は無事だった、左手のブレスレットは変わらずにだ。3度もタイムスリップしているのはこのブレスレットの効力と考えて間違いないか。俺にとっては都合がいいのか悪いのか分からん。


 そしてサンドワーム駆除…今度は三週間前に戻ったか。セレ・ザラム・フィスはそれぞれ武器の点検を行っている。


「ルーブル、アイテムの準備しっかり頼むぜ!」

 リーダー・エルカートの表情が何時になく爽やかだ。思えばこのクエストの後からメンバー全員が俺に対して辛辣になってきたな。


 当時このサンドワーム駆除のクエストは失敗で終わり、Aランク昇格がCランク降格一歩寸前にまでなった事を思い出す。そうか、入念な復讐計画まで立てて俺を殺したがっていたのはこの件が原因か。


「……わかった、今からアイテムを購入してくる」

 クエスト契約中での脱退は難しい。この状況を変えてパーティーを脱退してやる!


◇◇◇


 クトファの町の北にある砂丘にてクエストを開始。


「くそっ…なんだよザコのクセに、ヘンな連携使ってきやがる!」

「はぁはぁ…私の矢が当たらないぃ……」

「ぐっ!3体以上連続でこられると…防ぎきれんぞ!」

「こ、攻撃しようにも杖が当たらないと……ああっ!」


 このクエストが失敗した理由、戦闘中で荷物持ちたる俺のポーション受け渡しのミスもあったが、状況を好転できず焦りまくったメンバーの連携不足が原因だ。


 さすがの状況にエルカートも指示を出せずにいる。ここは俺が指揮を代わるか。


「みんな深追いするな!俺を中心に外に向かって円陣を組むんだ!」

「な、ルーブル??お前何を言って」

「それじゃワームに攻撃できないじゃない!」

「しかし……防御には専念できるか」

「仕方ありませんわね、臨時ボーナスはもらいますわよ?」


 メンバー達は俺を取り囲んで陣形を組む。こうすれば追撃は出来ないが防御には強くなりポーションの受け渡しも簡単になる。着実にワームを確固撃破していく事で劣勢だった状況を少しずつ変えていく。


 後から聞いた情報だと、確かサンドワームの中には一体だけ色違いで知能が人間並みの指揮官ワームがいたんだった。あの一群の中に潜んでいるようだ……ザラムとセレに指示を出す。


「ザラム、あの群れにスクェアボンバァを!セレ、ワームが飛ばされたらピンクのヤツを頼む!」

「心得た、スクェアボンバぁぁあああ!」

 ザラムの盾でふっ飛ばされるワーム、舞い上がった褐色色をした10体余りの中にピンク色のワームが混ざっている。


「来た!アイツね?フォトンナイフ!」

 そしてピンクの指揮官ワームをセレの矢が撃ち抜く!落ちてきたピンクのワームは急所に当たったのかもう虫の息だ。

 弓使いのセレは光属性の力で矢を光子でコーティングし発射速度を速めている。加えて光属性にて視力をコントロールしているのであの程度の的なら簡単に撃ち抜ける。


「リーダーはアイツにとどめを!フィスはセレとザラムとで残りのワームを撃破してくれ!」

「ぉ、おぅ!任せとけ!」

「わかりました!」


 エルカートのチェインソード。剣自体も無銘ながら切れ味が良く、接触している部分から電属性のスキルにて電撃を流す事ができる。剣の攻撃と電撃を兼ね備えた恐ろしい技だ。エルカートがピンクワームにとどめを刺すと途端にワーム達の連携が乱れる。


 そしてセレ・ザラム・フィス達は難なく残りのワームを殲滅した。クエスト成功だ!!


 まさかタイムスリップする前に経験していた記憶がこんなに役に立つとは思わなかったな。


◇◇◇


「それじゃあサンドワーム討伐成功と俺たちのAランク昇格に、乾杯!」

「「「かんぱぁい!」」」


 ギルドに戻ってきた俺達は見事Aランクに昇格した。何でも指揮官であるピンクワームの存在はギルドの情報にも無かったとの事。報酬金とは別にビーストハートには特別褒賞が与えられた。


「おぅ、さっきからチビチビやりやがって…もっと飲めって!」

「そうよ、今日の戦果はあなたのお蔭なんだから…ルーブルをビーストハートに紹介した私の鼻も高いわ!」

「ふむ、見事なる戦術だった。荷物持ちの評価も変えなければならんな」

「ふふふ、ルーブルさんは金のなるき…もといサブリーダーを張ってもらっても問題ありませんわね?」


 仲間達の賞賛に取り囲まれる俺。悪くはない気分だがコイツらはつい最近まで俺を殺しに掛かってきた連中だ。素直にはしゃげないのは当然。


「おー盛り上がってるねー!さすがAランク様は格が違うっていうか……お疲れー、これ差し入れだよ」


 突然俺達のテーブルに割って入ってくるヤツがいる。エルカートに差し入れたるツマミを二皿渡して……あれ?これはギルドでぶつかって次に道具屋で買い物に苦戦してたあのヤサ兄ちゃんじゃ?


「おぅゴチになるぜ、アンタどこのパーティーだ?」

「ボクは『ライオネス』のウィルマっていうんだ。何でも新種のピンクワーム見つけたとかで一躍有名になったって話だから一言ごあいさつを……ってあれ?君は……」


 俺をじっと見つめるヤサ兄ちゃん、もといウィルマだったか。俺は3回目だが彼にとってはやはりこの時点では初対面だ。


「……どうした?俺とは初対面のハズだが??」

「う、うん……それはそうなんだけど君とはどこかで会った事あるってか、思い出せないなー『でじゃびゅ』ってヤツ?」


 俺と会った記憶がある?タイムスリップで時間が巻き戻っているからそれはあり得ないハズだ!その証拠にビーストハートのメンバーが俺を殺そうとした事は覚えてないどころか無かった事にさえなっている。このヤサ兄ちゃんが覚えているワケがない。


「ちょっと!ウチのメンバーにちょっかい掛けないでちょうだい!用がないならさっさと戻りなさいよ!」

 いきなりセレが喚き立てる。酒が回っているのか異常なテンションだぞ?


「あ、ああゴメン……別に彼を引き抜きにきたワケじゃないんだ、これ以上怒らせたくないからボクは下がるね!おじゃまー!」

「もう勝手に入って来ないでよね!ルーブル、あんな女についてったら身ぐるみ剝がされるわよ!」


 え?あのヤサ兄ちゃん、女だったのか??道理で手や顔がキレイ過ぎると思った。にしても何でセレがここまで怒るのか分からん、俺の知らない所でエルカートとデキてるクセに。


 ともあれ仕切り直しだ、本来の目的を遂行しよう。

「リーダー、話がある」

「あ?何だよ藪から棒に…いいぜ聞いてやるよ、みんな!ちょっと俺たち席外すからな?」


「早く帰ってこないとお酒にお料理全部頂いちゃうわよー!」

「安心しろ、まだまだ軍資金は大丈夫だ」

「そんな、無尽蔵に使っては勿体ないですわっ!」

 エルカートとギルドを出ていく。



 着いたのは人通りの少ない池のほとりだった。いやな予感がする。しかし今から場所を変えるよりはこのまま実行しよう。


「そんで?一体俺に何の話があるんだ?早くしねぇと酒が抜けちまうぜ」

「悪いが俺は今日限りでビーストハートを抜けさせてもらう、今まで世話になったな」


「何を仰ってるんですかサブリーダー様?さぞかしおだてられて気持ちいいんだろうな?」

 コイツ、今度はやっかみか?まぁいい、どちらにしろビーストハートを抜ける俺には関係ないか。


「今日の事はたまたま上手くいっただけの話だ、もうAランクになったんだからお荷物の俺の居場所なん…でぇっ!」

 腹に熱い感覚が…剣で刺されている?


「ムカつくんだよお荷物野郎が。セレどころかザラムにフィスまでがお前をおだてやがって……誰がリーダーなのか思い知らせてやる!」

「お、おま…話聞いてなかったのか?俺はパーティー抜けるって言ったんだぞ?後はもう好きにしてくれていい………ぎゃああああ!」

 またもや剣から電撃が走る。


「俺のパーティーだ、もう好きにしろとか何勘違いしてやがんだ…テメェがパーティーに居ても抜けても一回ついたイメージは変えられねぇ、ここでブっ殺してやる」


 剣を引き抜いた途端に血があふれ出し倒れ込んでしまう。チェインソードによって痺れている上に出血多量で完全に動けない。

 エルカートの自分勝手で残虐かつ嫉妬深い性格……クエスト失敗から俺にあたってたのではなく、元々これが本性だったのか……コイツの性格を甘く見ていたな。


 せっかくパーティーを勝利に導いたのに何も変えられなかった………やっぱりビーストハートに加入した事自体が間違いだったのか。


……「やり直したい、もう一度」


 四度、辺りが白く輝く中、俺の意識は途絶えた。

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