第1話(3時間前)

「おい!聞いてるのかルーブル!!」

「…………はっ!何が起こって………」


 突然まばゆい光が辺りを覆う……目が慣れてくると太陽と雲一つない青空だった?

 外??そういえば空気も全く違う……ここは、ダンジョンの入口か??


「だからどうしたってんだよ、いい加減にしやがれ!」

「ひぃぃぃぃぃっ!」

 先程の光景を思い出した俺は一目散に逃げる。今度こそ殺される!とにかく逃げるんだ!!


………

……


「はぁはぁ………こ、ここまでくれば……」

 ダンジョンから拠点にしているクトファの町に一気に戻り、町外れの教会の裏へ隠れた。ここで一息入れて自分の状況を確認する。


 まずリーダーに刺された右肩にセレに撃たれた左足の腱は何ともないし、蹴りを入れられた腹も全く痛まない。いつの間に回復したんだ?


       リィーン、ゴーンゴーンゴーン…………


 突如教会から鐘が鳴る。確かこれは正午を知らせる鐘……ダンジョンの入り口にいた事と考えるとクエストをする前に戻っている?どういうこった、今までのアレは夢だった??


 そうだな、いくら俺がチャチな念動力スキルしか持たない荷物持ちでもダンジョンの中で殺されるなんて悪い夢だって。


「おいルーブル!どこ行きやがったんだアイツぁ!?」

「ルーブル、さっさとしないとクエストできないでしょ!」

「パーティーの結束を乱す者は許さん、早く出てこい」

「時は金なり、ですわ。罰金を頂かないと」


 仲間たちが俺を探しに来る声が聞こえてくる。良かった、いつも通りの皆だ。早く合流しないと。


 ふと気が付くと…………俺の左腕には地味な例のブレスレットがつけられていた。


 あのダンジョンでの出来事は夢ではないという事か?ヤバイ、やはりアイツらに同行するのは危険だ!

 しかしこのままジっとしていても見つかるだけだ。何かいい手は………??


 咄嗟に思いついた俺は数個の小石を教会とは反対方向の茂みへ投げる。その際に念動力で投げるスピードをバラバラにして変化をつける。これで人が走っている感じが出るハズ。


「エル、向こうから足音が!」

「ったく、手こずらせる野郎だなお前の幼馴染は!いくぞ!!」

 ふぅ、なんとかアイツらをまく事ができた。とはいえグスグズしていると今度こそ見つかってしまう。急いで冒険者ギルドに戻る事にする。


◇◇◇


 ビーストハートのメンバーに見つかることなく問題なく冒険者ギルド「ダタン」に到着した。勢いよくドアを開け突撃する。


                どんっ!


「いでぇっ!」

「ぃたたた…な、何すんだよ!」


 甲高い声が飛ぶ、出会い頭に誰かとぶつかったようだ。相手は…見た事もない兄ちゃんだな。髪は短くさっぱりしていて割と細身で手足が長い。


「すまない、急いでたモンでつい…ほら」

 俺が手を差し出すと掴んで立ち上がる兄ちゃん、随分きれいな手をしてるモンだ。顔もイケメンというよりは可愛らしい………俺に男同士な趣味はないが。


「ぅん、あ~ぁお陰で荷物全部ぶちまけちゃったじゃないか!」

 ギルドの床に散乱した私物。ポーションなどの薬や地図にコンパス、後はやけに小物が多いような?


「悪いわるい、すぐに俺がカタづけてやるから」

「ちょ、人の物に気安く触るんじゃ…え?何これ??」

 散乱していた彼の物であろう私物がふわふわと浮いている。俺の念動力スキルだ。半径1m以内の小さな質量のものなら複数個操れる。

 難点は射程範囲の狭さに大きい質量の物や人や生物には無効なので使い勝手は非常に悪い。当然モンスターへの攻撃には不向きだ。


「俺のハズレスキルってとこさ、カバンを貸してくれ…よし、これで全部だな?確認してくれ」

「OK、ちゃんと揃ってるよ……どさくさにまぎれてくすねてもないようだし」

「そんなセコイまねするか!とにかく俺が悪かったよ、すみませんでした」

「うん、ぶちまけた物も拾ってくれた事だし許してあげよう!これからはちゃんと前みて突撃しないように!」


 そう言って兄ちゃんはギルドから出て行った。俺もグスグズしていられない。すぐさまカウンターに行き受付嬢に取り次ぐ。


「あれ?あなたはビーストハートの荷物持ちさん……」

「今すぐビーストハートからの脱退手続きを頼む!」

 そう、ここでパーティーから脱退してしまえばアイツらに殺されずに済む。後の悲劇はなかった事に!


「な、何を言ってるんですか荷物持ちさん…あなた方ビーストハートはダンジョンマッピングのクエストの最中じゃないですか!クエスト契約中の勝手な行動は認められてないんですよ!!」

 ぐ……そういやそうだった、ダンジョンの入口にいたという事はクエストを契約しているって事だ!


「し、しかし!ここでパーティーから抜けないとアイツらにころされちま

「誰が誰に殺されるだって?ギルドん中でガタガタ騒ぎやがって………」


 いつの間にやらエルカートを始めとしたパーティーが俺の後ろにいた。もう嗅ぎつけてきやがったのか?


「アリエ、コイツにはちゃんと言い聞かせとくんでマスターには黙ってくれないか?」

「はいっ!リーダーのエルカートさんが仰るのでしたら……」

「悪いな、今度ちゃんと埋め合わせするから……じゃあ行ってくる」

「お気をつけて、埋め合わせ楽しみにしてますね!」


 そういって俺はエルカートとザラムに両脇を抱えられ引きずられていった。こんなに早く追いついてくるとは予想外だった…。


◇◇◇


「おらっ!勝手に抜け出しやがってどういうつもりだテメェ!?」

「ぐぁ!………」

「統率を乱す者は許さんと言ったハズだ、ふんっ!」

「ぎゃあっ!」


 ダンジョンに向かう道の林でエルカートとザラムから殴られまくる。セレとフィスは俺が殴られても黙って見ているだけ……いや、見かねてセレが口を出す。


「ねぇもうやめなよ、クエストの時間無くなっちゃうよ」

「不本意ですがセレの言う通りです」

 やはり俺を助けるために声を掛けたワケではなくクエストを優先しているようだ。


「けっ、もういい。今日はシラけちまったからクエストはやめだ!」

「待ってください、契約中のクエストを辞めると違約金の支払いが」

「そんな安金、俺が出しといてやらぁ。どうせコイツをダンジョンん中で始末するためだったんだしよぉ」


 な………クエスト中に殺すつもりだった?初めから計画されていたのか!!俺がこのブレスレットを盗ったからじゃなかったのか!


「な、なんで」

「あ?」

「なんで俺が殺されなきゃならないんだ?一体俺が何をして」

「それを聞いてどぅすんだよ、今更ゴメンナサイと言われてももう遅ぇんだよ!ザラム!」

「心得た、スクェアボンバぁぁあああ!」

 再びザラムの盾が俺を襲う。屋外なので手加減がないせいかダンジョン内の時とは威力がケタ違いだ。上空に飛ばされて地面に叩きつけられる。もう動けない。


「ぁが…………」

「見事に虫の息だなぁ、テメェのやったしくじりの他にも理由があんだよ……セレ」

「うん……チュっ」

「ぁ………」


 再度見せつけられる光景、一度見せつけられた行為ながら心臓を掻きむしられるような痛みを感じた。


「アンタが悪いのよ、せっかくうちのパーティーに入れてあげたのにハズレ属性しか持ってないし荷物持ちのクセに失敗続きだし良いトコ無し……エルなら私を幸せにしてくれるから」

「テメェが生きていると邪魔なんでな、セレは俺が頂いてやるから安心して死にな?」

 剣を高く構えるエルカート……ダメだ、逃げようにも身体が全くいう事を効かない。今度こそ終わりか。これがクエスト受注前に戻っていたら。

 

……「やり直したい、もう一度」


再び辺りが白く輝く中、俺の意識は途絶えた。

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