決死のタイムリープ

naimed

プロローグ

「がはあぁっ!!うぐっ…………」

 腹を蹴られて血の味がこみ上げてくる。ヤベぇ、今ので内臓やられたかも。激痛に転がりながら上を見るとここがダンジョン内だった事を思い出す。何でこんな事になった?


「けっ、このくらいじゃまだまだくたばらねぇなぁ!もっとヤキ入れてやるぜ!!」


 そうだ。すべてはこいつの、パーティーリーダー・エルカートの身勝手な言いがかりから始まった。


◇◇◇


 5分前の出来事。

 このエリアに住み着くモンスターを全滅させている。リーダーのエルカートが叫ぶ。


「よぉし、モンスターは全部カタづけた!おいルーブル、さっさと宝箱開けやがれ!!」

「……」


 このパーティー「ビーストハート」のリーダーであるエルカート、長髪の剣士で電属性をもつスキルの使い手だ。外面はいいもののリーダー故か横暴で人使いが荒く、人の成果は自分のもので自分の成果は自分のものタイプ。

 それにどういうワケか俺に突っかかってくる。


「てめぇ、返事ぐれぇしろよ!」

「……ああ」

「声が小せぇ!はっきり喋れやオラっ!」

 つま先で脛を蹴られる。結構効くんだが仕方ない、いつまでも蹴られるの面倒だし返事だけしておくか。

「つっ…………はいっ!」


 俺はルーブル。このビーストハートの荷物持ちをやっている。すでにビーストハートには冒険者パーティーを構成する人材が揃っている。


 リーダー兼剣士のエルカート

 斥候役のセレ

 盾役のザラム

 回復役のフィス

 それぞれが戦闘に長けていてこれ以上のメンバーは不要とも言えるレベルだ。 


 この中で斥候を務めているおさげ髪のセレが俺の幼馴染だ。俺がこのパーティーに入ったのは彼女の推薦があってのこと。セレは弓が得意で俺より早く故郷から出て冒険者を始めている。


 彼女が町に出た後を追って俺も冒険者としてデビューした。2カ月前まではあちこちのパーティーに荷物持ちで臨時参加していた。町中でばったり再会したセレはそんな状況にいる俺を気の毒がってビーストハートに正式加入させてくれた。


「ルーブル、早くしなさいよ!次のエリアに行けないじゃない!」

「ああ、わかってるって」


 セレに怒鳴られる俺。現状では俺が至らないせいで彼女にまで迷惑を掛けてしまっている。リーダーはブラックではあるが、俺は彼女が好きだしパーティーに入れてくれた恩を少しでも返したい。


 この世界では「七鬼学(セプテム)」という、人体の生命エネルギーである「鬼力(きりょく)」を扱う技術がある。その力は光・電・火・風・水・土・念の7種類の属性を元にしたスキルがある。

 俺の属性は……7つの中でも使えない「念」だった。他の冒険者のような攻撃に防御、回復などは全く不可能で出来る事といえば手を使わず小さな物体を動かす事ぐらいだ。

 偉い人曰く「対象周囲の分解と結合を司る禁断の力」とか言う話だったが何の事かさっぱり解らん。


 とにかく戦闘に有利なスキルを持たない俺が冒険者として生きるには、荷物持ちなどの雑用をする以外にない。



 宝箱に向かって鬼力をこめる。手を触れずに念動力でトラップや鍵を解除して開けると入っていたのは…………ブレスレット?


「どけ!なんだこりゃ?ブレスレットみてぇだが…………宝石が付いてるワケでもデザインが良いわけでもねぇ、金にならねぇな。こんなモンいらねぇ!」


 エルカートに無造作に捨てられたブレスレット。一か所だけ細長い長方形の台座のようなものがあり細かい幾何学模様が描かれている。

 確かに装飾が綺麗とも言えないが…………何か惹かれるものがある。いらねぇと言ったものなら俺がもらっても問題ないだろう。左手にはめた瞬間をおかっぱ頭である回復役のフィスが見ていた。


「エルカート様、ルーブルさんがさっきのブレスレットをくすねてますわよ??」

「んだとぉ!?おいルーブル、いつ俺が手ぇつけていいと言ったぁ?」


「いや、これは要らないってさっきリーダーが」

「俺がいらねぇって言っただけで盗っていいたぁ言ってねぇぞコラぁ!」

「そんなムチャクチャな……」

 あまりの暴論に即座に言い返せない。ふわふわ髪の盾役たるザラムがすぐさま俺の横に立つ。


「パーティー内での窃盗は許さん、スクェア・ボンバぁぁぁ!」

「ぐはぁああああっ!」


 ザラムが盾を突き付けて俺を3メートルほどふっ飛ばす。理由は解らないが直感が告げている、これ以上いたら殺される!無様に転げた俺は起き上がりなりふり構わず逃げ出す。


「フォトンナイフっ!」

「ぎゃあっ!」

 光をまとった矢が走り出した瞬間を襲う。見事に左足の腱を撃ち抜かれてしまった。これじゃもう走れない。しかしこの光の攻撃はまちがいなく


「そうよ、私がやったの」

「セ、セレ……どうして俺を」

「アンタとは幼馴染だったけどもう今日で終わり。私はもうエルのモノだから」

「そ、そんな…俺達小さいころからの」

「昔の話なんか忘れたわよ。戦闘能力のないお荷物の面倒なんかお断り」

「ハハハ、そういうこった。長年の恋も冷めるってか?」

 そう言ってエルカートは見せつけるようにセレのあごを持ちあげて唇を交わす。

絶望が俺を襲う………小さい時は「ルーブルのお嫁さんになる」って言ってたのに。


◇◇◇


 グサッ!

 右肩にエルカートの剣が突き刺さる。


「な、なんでここまで……俺が何したっていうん………がぁあああ!!」

 エルカートが剣から電流を流してくる。しかしながら即死しないことから鬼力をワザと微弱に調整しているのか。


「けっ、それをテメーが言うかぁ?自分のやった事忘れるなんざ身勝手もいいトコだぜ。おいフィス」

「かしこまりました。ルーブルさん、今となっては懺悔も無用です。私が貴方の魂を天国へと導きましょう」


「ま………待ってくれよ、何も解らないままで死ぬなん…て……」

「問答無用、フリージングブラッド」


 そういって俺の胸に杖を軽く当ててスキルを使う。これは確か、血止めに使う治療のスキルだったハズ。

 あれ?苦しい……身体が重くなってきた??


「最後にお教えしましょう、ご存知の通りこれは血止めの能力……しかしそのまま体内へ使うと血液を凝固する事も出来ます。」

 血液が凝固?それってまさか……血が止まる??


「そうだよ、お前はこのままここで死ぬんだよ!まったくこんなヤツ加入させてどうしようかと思ってたんだが、最後にウサ晴らしにはなったぜ!ははははは……」

「これでわがパーティーに巣食う寄生虫はいなくなったというワケだ」

「貴方がいなくなれば足を引っ張る者はいません、どうか安らかにお眠りを」


「ァ…や、やめてくれ………たすけ…てセレ」

「ルーブル、アンタと過ごした時間は全くの無駄だったわ。その分エルに補ってもらうから……さっさと死んでちょうだい?」


 セレの言葉が終わったのと同時に力が抜けてくる。こんなみじめな死に方をしなきゃならんのか……これが使えない属性を授かった者の最期……ダンジョンの中で人知れずに死んでいくなんて。


……「やり直したい、もう一度」


辺りが白く輝く中、俺の意識は途絶えた。

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