File:3-15_決死の一撃=RESOLUTION/
『脅威判定更新・対象を直ちに排除してください』
機械音を混じらせた男性の声。No.340の右腕がドロリと溶解すると、中から機械的にデザインされたカノン砲が展開された。
「っやべ」
インコードは撃ってきたこぶし大以上の大きさをした白い砲弾を咄嗟に避ける。ヒュン! とカーブを起こしながら過ぎ去り、建造物に被弾する。
連鎖的な大爆発が起きる。爆風でガラスを打ち砕き、震災対策されている建物を容易に粉砕しては奥の鉄塔をガラガラと崩していった。地鳴りが足裏と肌に伝わってくる。
「ひゅー、あっぶな」
「……」
逃げたい。超逃げたい。
私の知っている都市伝説じゃない。
そう思った矢先、No.340はその腕の砲口を私に向けた。
「避けろ!」
わかってるって! 言われなくても避けるよ!
発射した一瞬。演算を行った私の脳は、無駄に等しい一種の反射ともいえる現象を引き出していた。
弾速、弾丸軌道、結晶の光の反射、音より弾丸の来る方向、角度、着弾時間、座標……あらゆる条件を
早く早く早く!
さっさと体動いて!
「――っ!」
頭の中で叩き出した解答。それを数値化するよりもさきに、私の身体が動いた。
間一髪。まさに髪の毛一本分の差で私の顔は吹き飛ばされずに済んだ。バリン、と建造物に突っ込んでいった弾はガス状の巨大な赤い爆発を起こし、建造物を四散させる。まるでプリニー式噴火。チリチリと熱い熱波が肌を殴る。
「ナイス回避だ」
No.340が私の方を狙ったおかげ……とは言いづらいが、その隙を狙い、インコードは黒い刀剣を
続けて斬られた胴体。だがそれが炭化する前に、背中が破け液体が噴き出す。アメーバ状にも見えるそれの中に微かに見えた何かの光。いや、光を反射している何かが喉元に入っている。「やっと顔を出したか」
「あの白い球を狙え! それが
インコードは叫ぶ。咄嗟に私は手に持った駆動拳銃を構え、撃ち放つ。ゲームセンターでは体感できないような衝撃が手に伝わる。
だが、冷静でない頭では案の定、弾丸を外した。被弾した結晶柱は液状化し、溶血した赤血球のように破裂する。
不幸なことにその奇襲は失敗したどころか、No.340は10体に一斉分裂し、獣のように駆けては私に迫ってきていた。
「……っ、ヤバいってこれ」
思わず口に出てしまう。
とてもじゃないが、拳銃一丁では捌ききれないと解答が脳内に出ている。
「カナ! おまえの
インコードの声が聞こえてくる。
「……っ」
そういえば、私は何の為にここにいる。何の為に、命を張っている。
一度に大量の記憶がフラッシュバックしてくる。死の直前であるが故に、走馬灯のようにも感じ取れた。
私があの青年についていったのは、必要とされたいから?
腐った生活から抜け出したかったから?
それもある。だが、それ以上に。
新しい道を選んだ私の意義。償い。責任。
今までの自分を斬り捨てる為、今までの自分を愛するため、今ここにいる。
大切な家族と共に暮らす人生を望み、あの子の人生を見届けるために。
過去を殺し、未来を手にするために。
過去を救い、未来を壊すために。
こんなくそったれな今を生きるために、武器を握っている。
「私は――」
自由に羽ばたく現象という蝶の群れを捕まえ、愚かな人間なりの加工・変換・同定を行うことで自然現象は数値情報として記録・導入される。口では言い表せれない演算がレコードのように高速で回転し続け、音という別の形となって私の意志という鼓膜に伝わっていく。
世界はデータ化される。
温度、13.3 ℃
気流、0.04。
風速、168.2度より秒速0.002 m。
気圧、1522.8 hPa
湿度、48.7%
重力、12.9 N/kg
大気成分比率、13.7%
必要範囲、半径54.3 m
推定弾速、秒速2020.1 m
方角、x94.4、y62.9
182:331:440:539
空間座標を特定。
筋出力、シナプスの僅差調整。固定。
焦点、84度、フォーサーズ12 mm
パースペクティブの最終調整。
視力倍率3.0
3.41秒後の対象の位置座標を推算。
対象速度、秒速6021mと推定。
目標、対象の甲状腺。尚、人体部位として変換したものとする。
死の牙を剝き出し、一斉に迫りくる九のアメーバの獣。そのどれもが本物であり、偽物。
核を持つ真のそれは――臆病にも私から逃げている一体のみ。
どうやらこいつは、FPSをやったことがないらしい。
……変動係数0.00112。直ちに訂正。
標準化、完了。
成功率――100%
「撃て!」
目に映るのは
発射された一発の弾丸。それが一筋の光線のように見える程、金属光沢のある弾丸の速さは凄まじいものだった。
銃弾型
金切り声と電力の出力が低下する音が混じった断末魔を最期に、破裂した核。同時、目の前のアメーバ体が凝固したかのように結晶化し、ぼろぼろと崩れ落ちていった。地面に落ちた破片は瞬く間に跡形もなく蒸発していった。
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