それでも雨は落ちてくる
琥珀エン
それでも雨は落ちてくる
幼稚園の頃から、好きな男の子が居た。
彼は幼馴染の女子の事が好きで、側から見たらバレバレなのにそれに気づかない鈍感で可憐な女の子と、愛おしそうに大切そうに隣に立つ彼をいつも眺めていた。溢れないように関わらずに遠くから。
これが僕らの運命なら、いつか忘れられるのかなって思ってた、のに。
梅雨。さっきまで降っていた雨の所為で、傘から水滴がポツリっと緩やかに落ちていく。高校2年生の現在でも、自然と目で彼を追っていて、そんな自分に気づいて女々しくなる。まだ、忘れられていないのだ。この気持ちに負けを認めて、区切りをつけることが楽なのはわかってる。けど、いっそ立ち直れないほど傷ついてしまいたいと思う、あんな男に捕まらないでよかったと思えるほどにメチャクチャにされたいと思う。
まぁ彼のことを遠くから見るだけで、関わってこなかったのだから、彼には僕の存在すら認知されていないだろうけど
「あの、すみません」
いつの間にか下駄箱の前に立って物思いに耽っていると、目の前に制服のシャツが居た。いくら平均より身長の低い僕でも、正面に立たれて相手の胸元しか見えないって、どんな大男だよ。
「あ、今退きますね。変なとこで突っ立っててごめんなさい」
「ちが、っと。名前、名前教えてもらえませんか」
「はい?」
聞き間違いだろうか、僕は疲れているらしい。この身長の高い男の声が彼の声に聞こえるなんて。というか、初対面でいきなり名前を聞いてくる人なんて絶対あやしい...。舐められているのかもしれないし、面と向かって断ってやろうと思い首を上げて相手の顔を見て、僕は固まった。
「伊東...」
そう、ずっと目で追いかけていた彼が立っていた。
「伊東? マジ!? 俺も一緒...です!!」
驚いて出た彼の名前、それを勘違いしたのか、とても嬉しそうにはにかむと彼は急に赤面しだした。
「いや、ごめん。君のこと知ってたから咄嗟に名前が出ただけ...僕の名前は
夢じゃ、ないだろうか。どうしてって疑問なんかよりも、喜びが全身を巡って、現実なんだと気づく。
もし、これが運命がほつれて奇跡が起きたと言うことなら、夢じゃないこの出来事を、僕は絶対離さない。
しばらくすると、また雨が降り始めた。
それでも雨は落ちてくる 琥珀エン @kohaku-osaru
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