第4話
柊はそわそわしたまま土日を過ごし、その間は部活も勉強もろくに手につかなかった。金曜日、陽人にガツンと言われて今まで目を背けていた自分の気持ちにようやく向き合うことができた。聖にちゃんと謝りたい。そして、自分の気持ちを伝えたい。覚悟はできていた。もう柊に迷いはなかった。ただ、この状況で堂々としていられるほど柊はオトナじゃなかった。そのため、なんとなくそわそわした気持ちが胸のあたりをくるくる回っていた。
12月22日月曜日。まず、聖にきちんと謝るのが先決だと思い、昼休みに呼び出して謝ろうと思っていた柊だったが、廊下でたまたま会った顧問の石岡(名前の通り石のような顔をしている)に職員室までプリントを運ぶように言われてしまった。顧問の命令を断れるはずもなく、そのまま昼休みが終わり、結局謝るタイミングを失ってしまった。
放課後、柊は何としても聖が帰る前に話をする必要があった。それなのに、選択科目の授業が終わって教室へ戻ると、もう聖の姿はなかった。(その日はHRがなかったのだ)柊は急いで下駄箱へ向かった。忍びないと思いつつも、聖の番号の扉を開けた。そこにはあの日、柊を動けなくしたローファーがあった。
「まだ、いる」
柊は再び走り出した。廊下の突き当りまで行ったところで、クラスメイトの
「あ、千田さん。笹木見なかった?」
「聖ちゃん?あっ、さっき渡り廊下の方で見たよ」
「ほんと?ありがと!」
柊が渡り廊下に着いたとき、奥の方に人影が見えた。聖だ。柊はゆっくりと一回、深呼吸をした。そして、声をかけようとしたその時だった。聖の奥に誰かもう一人いることに気づいた。柱に隠れてさっきまでは見えなかったが、今は柱から男子の制服が見え隠れしている。二人はなにか話しているようだった。
(聖のやつ、こんなところで誰と話してんだ……?)
柊はその生徒の顔を確認しようと静かに動いた。一歩、二歩。渡り廊下のコンクリート部分と土の境目ぎりぎりまで動いて、柵の後ろに隠れた。
「え……」
そこにいたのは松井だった。柊は驚いた拍子にバランスを崩して、土の上にそのまま転んでしまった。それに気づいた聖と松井が驚いた顔で柊の方を見た。
「柊!?何やってるのこんなところで……」
「い、いや別に……。お、お邪魔しましたー」
「あっ、柊!」
柊は逃げるようにその場を走り去った。下駄箱で靴を履き替えて、そこからも無心で走り続けた。ついに肺に限界が来たところで柊は膝をついた。
「……はあ、はあ……」
(思わず逃げてきちゃったけど、あれって告白の返事……だよな?)
「結局、謝れなかったし……」
聖と松井が二人で笑っているイメージが頭に浮かんでくる。聖が松井になんて返事をしたのか、そのことで柊はいっぱいになっていた。胸が苦しい。こんな気持ちで胸が苦しくなるなんて、ドラマや漫画の中だけだと思っていた柊だったが、自分でごまかしきれないほどその痛みははっきりしたものだった。そんな痛みを追い払うように、柊は立ち上がりとぼとぼ歩き始めた。
ぼーっと歩いていると、いつの間にか懐かしい公園に行き着いていた。そこは、小学生の時よく二人で一緒に遊んだ公園だった。柊は引き寄せられるように公園の中に入っていった。一人、ブランコに座ってさっきのことをまた思い出す。
「ほんと、なにやってんだろうな俺は……」
柊の決心は大きく揺らいでいた。今更何を言っても、もうすべてが遅いのではないのか。聖はもう松井と付き合うことにしてしまったのではないか。考えれば考えるほど不安は募るばかりだった。
その日の月はやけに明るく、泣きそうな気持ちで家まで歩く柊の影をアスファルトの上に濃く落とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます