2021年12月

お湯を入れ、5分。

在宅勤務の昼休み。買い置きの 『赤いきつね』。


 あれから10年、郷里に帰り、月日は流れて、世の中はウイルスで様変わり。旧態依然なうちの会社も、週に1~2日は在宅勤務ができる。ウイルス真っ盛りの時は、週に2,3日は在宅勤務だったが、落ち着いてくると出社させたがる。迷惑な。

 

 時計の針が、5分の経過を告げる。

 出来た。在宅勤務でも、昼休みは1時間だ。

 さっそく頂こう。


 2021年12月。

 ヨーロッパでは、鉄条網の向こうあるいはこちら側で、寒さに震えてる人がいる。子供もいる。これが本当の光景なのか、TV用なのか、遠い日本では本当のことなど分からないのだけど。

 日本では、ウイルスの影響で家も仕事も失った人がいる。必要ない人にも金を渡し余計な経費を使うくらいなら、今困ってる人に渡してほしい。

 どうか皆の手に、今晩温かいスープがありますように。


 そう思いながら、ふたを開け、小瓶を手に取る。

 小瓶の横には、『一味唐辛子』と書いてある。

 東京生活では、結局一味は見なかった。今はあるのかな。

 七味と違ってほぼ赤ばっかりの、粉末というにはやや大きめの粉。


 ふんわりおあげと澄んだ琥珀色のスープ、生成りの麺の上に、小瓶を振る。

 ぱらりと散る赤い粉を、ほかほか湯気をまとったキツネ色が優しく受け止めてくれた。粉末スープの溶け残りが、ふた裏に固まっているのは愛嬌。


 いただきます。

 ずぞぞ。


 終

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幸せの、唐辛子ひと掛け 紫風 @sifu_m

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