第10.5話 side:
枕に頭を預け、こちらを向いてスヤスヤと眠る亮の頬をつつく。寝ているから別に何か反応があるわけではないけれど、ぷにぷにしていて気持ちいい。
「りょーう。」
小さな声で名前を呼んでも気づきやしない。可愛い。
彼女は寝つきが良い。スヤスヤとすぐに眠りに入る。
一年も一緒に過ごしているから、君のことをずいぶんたくさん見てきた。
—亮と暮らすことになったのは本当に偶然だった。
高校を卒業したら一人暮らしをしようと思っていて部屋を探したら意外と高かった。
家を出たいというだけなので、ルームシェア物件でもいいから手が届きそうなところを探したらちょうどいい物件があった。
速攻でここにしようと決めて、不動産屋の担当者と話をつめさせてもらっていた。
そんな大学入学前のある日、不動産屋の担当者に言われてもう一人のこの部屋に住みたいと希望している人に会いに行ったら、それが亮だった。
高校にいたときは、亮と話したことはあまりなかった。ただ、「
彼女はきっと気づいてない。新渡戸さんや江戸崎くんとよくつるんで、楽しそうに笑う彼女のことを私がぼんやり観察していたことなんてきっと知らない。
と、いうか知らないでいてくれたほうがいいと思う。見つけるたびに彼女のことを目で追っていたというのは、少し気持ち悪いんじゃないかと、自分でも思う。
高坂亮は、陸上部の長距離パート所属。女子長距離が少ないのかいつも男子と走っていて、それでも遜色ないくらい速い。
私の所属していた美術部は教室がグラウンドに面していていろんな体育会系の部活が活動しているところを見ることができる。たまに、陸上部のも。
後、高坂亮はあまり人と関わろうとしなさそうだと思っていたけど友達は多い。
凛や江戸崎をはじめ皆と仲が良いイメージで、クラスメイト達には何かと可愛がられていた。しかもその可愛がり方が小さい子や赤ちゃんに対するそれで、中々微笑ましい。
本人もそれを苦にしているわけでもなく、何というか「来る者拒まず、去る者追わず」という少し淡々とした感じがクラスメイト達と笑っている姿と少しギャップがあるところも、面白い。
案外突拍子のない言動が多くて、見ていて飽きない。
それが私の亮に対する総合的な印象だった。きっと彼女は私のことをクラスメイトくらいにしか認識していないだろうけど、私からしたら立派な興味の対象だったわけである。
だから正直、今一緒に暮らせているのはラッキーだ。
そういった背景もあって、今回の三週間は中々寂しかった。
…今日の反応を見たら亮も同じように思っていてくれたのかもしれないと思う。
そうだったら、うれしいなぁと思う。
……高校の頃、私はあまり笑わなかった。20になった今、笑えるようになったかどうかは自分でもわからない。けど、少なくとも高校の時よりは笑ってると思う。
亮のことを考えると、面白いことがあった時とは違う笑いがこぼれるのが自分でもわかる。
どうしてか、最近亮といると胸が苦しくなって、同時にすごく温かい気持ちになる。
本当はその気持ちが少し分かりかけている気がする。
でも、まだ確信が持てなくて知らないふりをしている。
いつかちゃんと分かったら、伝えさせてほしい。君は、どう思うだろうか。
心の中で呟きながら、亮の手に自分の手をそっと重ねて目を閉じた。
…これくらいならバレないだろう、多分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます