第6話
「頂きまーす。」
「…頂きます。」
出来上がったカレーとレタスとトマトと胡瓜のサラダ。それから、八つ切りのオレンジ。
品数が少なかったから、二人で作ればそう時間は掛らなかった。
二人でと言っても私はお風呂を洗ったりご飯を作る以外のことをしていたから、実質ほぼ彼女がやってくれた訳だけれど。
早速、メインメニューであるカレーを一口食べる。
「ん。やっぱり美味しいね。」
この味だなぁ、と思う。何だかんだ二週間に一度くらいはこのカレーが出てきていた。
彼女の得意料理というか、彼女が作れる料理はあまり多くないからしょっちゅう出てくるのだ。
いつも私が『美味しいね。』というと、彼女は『市販のルーだよ』と言って少し笑う。褒めているのに冷たく感じるかもしれないけれど、照れ隠しだと分かっているから特に気にならない。
今日の彼女は
「うん…ありがとう。」
と言ってはにかんだ。それはそれで可愛いのだけど、やっぱり遠慮されているみたいで少し寂しい。
いつもよりさらに静かだったから、なんとなくテレビをつけるとニュースが始まったところだった。
「へぇ…。光樹、この漫画知ってる?今度アニメ化されるらしいよ。」
何となくテレビを眺めていたら、そんなニュースが流れた。彼女の部屋には漫画が結構置いてあるから、この漫画も知っているかもしれない。
話題を何か提供しようと思って、そう話しかけると彼女は画面を見て少し動揺したようだった。
「あ、うん…知ってる。」
少し困ったように目をそらし、頬をかく。
彼女は表情に出にくいようで、案外出やすいと思う。表情というか雰囲気で伝わってくるのだ。
今も、「知ってるけどあまりその話はしたくありません」という感情がなんとなく伝わってくる。
そんなに彼女が反応を示すこの漫画が少し気になるけれど、
どうしたものか少し迷って、結局別の話をすることにした。
「そっか。…そういえば光樹が好きそうなスイーツ買ってきたんだけど、見た?」
「あ…うん。カレー作ろうとした時に、冷蔵庫開けたから。……すごく、美味しそうだった。」
今日帰ってくるかどうかはわからないのに、二個買ってしまったけど結果的には良かった。
つい彼女の分までご飯を作ってしまうことととか、何かを買ってしまうことがこの三週間の間によくあったから、きちんと受け取ってくれる相手がいる感覚は久しぶりだ。
「でしょ!あんまりスイーツとか買わないけど、美味しそうだったから思わず買っちゃったんだよね。」
核心には触れず、当たりさわりのない話題を探りながら話す。
それでも楽しくないということはない。けどなんか、物足りない。
きちんと話して早くいつも通りに戻りたい。こんなぎこちないままは嫌だ。
「じゃ、私先にお風呂入るね。ごちそうさまでした。」
「はい。」
とりあえず食べ終わって皿をシンクに下げる。
いつもならどちらかが先に食べ終わってもなんとなく両方食べ終わるのを待つけど、今日はそうしていたら彼女のほうが気詰まりかもしれないとなんとなく思う。
パーカーにシャツ、ズボンを脱いで洗濯機の横の籠に入れる。下着類と靴下は小物なのでその横に置いてある小さな籠のほうに入れた。こうしておけば後で小物のほうはネットに入れて洗えるから楽だ。
風呂場においてある小さな椅子に座ってからシャワーのハンドルを温水の方向にひねる。すぐには暖かくならないから、手を当てて確認する。
あ…レポート書かないとなぁ、とか
凛たちに光樹が帰ってきたって報告しないと、とか
ぼんやりと考え事をしながら水に手をかざしているとだんだん暖かくなってきたので、少し椅子を前にずらしてシャワーを浴びた。
母から遺伝した癖っ毛でいつもはふわふわしているから、シャワーを浴びた瞬間ストレートになるのが自分でも面白い。
私はお風呂に入る時間が結構好きだ。
ぼんやりしながら、何となく決まっているルーティーンに体が勝手に従って1日活動した体を清め、湯船に浸かる。
大抵の場合は一連の行動中ずーっと考え事ばかりしていて、気づいたら浴槽で寝ていたりするから近しい人には危なっかしいとよく言われるけど。
今も、湯船に浸かって目を閉じると意識が別の場所に向かおうとしているのを感じる。
でも今日は、ふわふわと断片的な意識が彼女が帰ってきたという一つのトピックに集結していて、嬉しいなぁとか、寂しかったし怒ってるんだから、とかそういうことばかり考えている。
それくらい、彼女は私にとって大切な存在なのだ。
高校最後の一年だけ同じクラスで、一年ルームシェアをする程度の。
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