第4話
たまには良いよね、と誰も見ていないのに言い訳して、コンビニの新作スイーツを一つ手に取った。
いつもはあまり甘いものは食べないけれど、今日は疲れたからご褒美。
バイトの帰り道にあるコンビニに私はいる。大手チェーンのコンビニはそれなりに広くて品揃えも悪くない。
新作スイーツはいくつかあるようだった。何も考えずに買うのももったいない気がして、手にとったスイーツの以外のスイーツも見てみる。
かぼちゃプリンか、さつまいものロールケーキか。季節限定のものが食べたくて、二択になった。
どうしようかな、と考えてまた彼女が頭に浮かぶ。
彼女はこっちが好きだから、と思ったついでについ二つ手にとってしまった。
「ありがとうございましたー。」
夜も更けてきて、レジに立っているのは若く、背の高い男性一人だった。髪と髭がやたら長くて少し老けて見えたけど、丸くて黒目がちな瞳だけがアンバランスに幼く見える。
会計をしてもらって、気の抜けた挨拶に会釈してからコンビニを出て歩く。外はもう真っ暗で、点々と街灯がついてはいるがほぼそれだけだ。
外が暗くなるとなんだか急かされているような気持ちになる。子供の頃はもうとっくに家にいなくてはならない時間だったからかもしれない。
小さいときは夜に外に出てみたいと思っていたけれど、いざそうできるようになったら私は早く家に帰ることを求めてしまっている。
よくあることだと思う。
望んでいたことがいざできるようになったら、できるようになる前のほうが楽だったかもしれないことに気づくのだ。
大人によくそう言われていたけれど、小さい頃の私には意味が分からなかったのだ。私が大人になって子供に伝えても、きっと伝わらないだろう。
住宅街に差し掛ったとき、不意にズボンのポケットに突っ込まれていたスマートフォンが震えた。
取り出して画面を見ると『
驚いたけれど、意外と冷静だった。応答ボタンを押して耳に当てる。
「もしもし?」
『…………いまから、帰る。』
久しぶりに生存確認以外の連絡をくれた光樹は、こちらを伺うように少し緊張した様子でそう言った。
その声を聴いて、なんだか気が抜けてしまった。
連絡が来てから思う。
まあ、過ぎてみればたかだか三週間だからなぁ。
一人で焦って、不安になってバカみたいだ。
だって、光樹は普通に帰ってくるし。
気持ちに余裕ができた私はどう返そうか、少し考えた。あまり、会いたかったというのを前面に出すのは悔しい。自分ばかり会いたいみたいで。
けど、別につっけんどんにしたいわけじゃない。彼女が帰って来ることがうれしい。
「……おかえり。」
どう返すかちょっと迷って、結局ありきたりな返しになった。
電話を切って、ポケットに突っ込む。思わず早歩きになった。
たった三週間。されど三週間だ。私にとっては長かった。
帰ったら、問い詰めてやろうかなと思う。
いくら彼女が気まぐれだとわかっていても、三週間も何も言わずに家を開けっ放しにするのは無責任というか、もう少しどうして出かけるのかとか教えてくれてもいいじゃないかと思ったから仕返しだ。
マンションのエントランスを通って、いつもなら階段で上るけれど早く着きたかったからエレベーターのボタンを押した。ちょうど一階に待機していたようで、ウィーンと静かな音を立ててドアが開いた。
乗り込んで5を押す。ドアが静かにしまってゆっくりと上に上りだした。
彼女はもういるだろうか。まだ帰ってはいないだろうか。
どんな顔をしているのかも気になる。いつものポーカーフェイスなのか、それともしょげるなり、まさか笑ったりしているだろうか。
少なくとも、私の顔が今どうしようもなく緩んでいることは確かだった。
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