第2話
「どした?元気ない?」
私の向かいでおいしそうにご飯を食べていた凛が私の顔を覗き込む。
凛は表情が豊かで、よく笑いよく泣く。私には出せない表情をたくさん持っている。
それが私は、羨ましい。
今も、美味しそうにアジフライ定食を食べていたと思えば、心配そうな顔になって私の顔を覗き込む。
分かりやすい。
「ん?いやそんなこと、ないと思うけど…」
口から滑りでた言葉とは裏腹に元気がないという自覚はある。でもそれを二人に気取られたくはなかった。
「…そっか。なら、良いんだけど。」
凛が笑う。いかにも自然に引いてくれたのは私が触れられたくないと思っていることを悟ったからで、私はその優しさに気づいている。
そう、凛は表情が豊かで、人の気持ちを察することにも長けている。
私たちの様子を静かに見ていた江戸崎くんは、穏やかに言う。
「何かあったら、いつでも僕らを頼ってよ。話を聞くくらいなら、僕でも力になれるかもしれないし。」
彼はいつもそうだ。私達が話している時は穏やかに聞いている。友人、というよりは親みたいなひと。
「…ん。」
私はいつも、そんな二人に甘えてしまう。
「私そろそろ行く。」
食べ終わった唐揚げ定食のトレーを持ち、席をたった。私たちは四六時中3人で行動をするわけではないし、二人には二人の時間が必要だ。
二人を見ていると、尚のことどうして私のことを構ってくれるのか不思議なくらい仲が良い。
「ん。また明日!」
「うん。バイバイ。」
今も仲良く笑って手を振る二人が付き合い始めたのは、高校2年の中頃だった。二人は中学の頃から知り合いだったらしい。二人は側から見ていてもとても仲が良かった。
だからいずれ二人は付き合うだろうなと思っていて、でも付き合い始めてからも私といる時間が短くならなかったのは予想外だった。
唐揚げ定食のトレーを下げて、午後の授業の教室へ向かう前に自販機へ向かうと、自販機の中身が入れ替えられていた。そろそろ秋の品揃えに変えるシーズンということのようで、あたたかい飲み物のスペースが増えている。
彼女が好きな温かいミルクティーも並び始めた。彼女はもう、飲んだだろうか。
私はミルクティーが苦手だが、ミルクティーを飲んでいる時の彼女は好きだ。
水と炭酸で少し迷った末、結局私は一番安かった水を買って午後の授業の教室へ向かった。
「あ、高坂さんこんにちは。」
ふわりとした顔で笑う彼女は、大学に入ってから知り合った神谷さん。
「こんにちは。」
この授業でだけ会う人で、下の名前は未だに知らない。この授業の初めての時に隣の席に座って話して以来、何となくいつも彼女の隣に座る。
少し雑談をして、授業が始まったから前を向いた。午前の授業は二時間とも男性の先生だったけど、午後イチのこの時間は女性だ。
男性に比べて少し高い声はよく通る。ノートにシャーペンを走らせながら、なんとなく神谷さんの方を見ると彼女は真剣な表情で黒板を見ていた。
邪魔をしては悪い、それと何となく後ろめたい気がして慌てて前に向き直った。
神谷さんは、どことなく彼女に似ている。だから見てしまうし、そのことに後ろめたさを感じているのだと思う。
「じゃあね。また。」
講義が終わり、講義室の前で神谷さんと別れた。神谷さんはふわりと笑ってひらひらと手を振る。
私もそれに振り返して、くるりと後ろを向いた。講義室の前の窓は換気と称されて少し空いており、隙間風が寒い。
早く帰ろうと、つい早足になった。
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