恋愛あるある③ 混浴-2
一方こちらは狼夫婦。
真っ白い煙に包まれて仲間の姿を見失った二人は、セス達と同じように小屋の前に立っていた。突然の事態に困惑していた二人だが、とりあえずそれ以外に何も無いのだからここに入るしかないのだろう。グレイルが辺りの様子を探るように耳をピンと立たせる。
「この匂いは……多分温泉だな。ここに入れば良いのか?」
「え、ええ。多分そうよね。この小屋以外何もないもの。じゃあ私とグレイルはここで別行動になるのかしら」
「そうだな。とりあえず中に入るか。俺のことは気にせずに、レティはゆっくり浸かっていていいぞ」
ソワソワとレティから目をそらしながらグレイルが答える。実は前回の看病イベントで大人が元気になっちゃうお薬を飲んでから、グレイルはそういう意味でとてつもなく元気になっていた。なんだかいつもよりやたらと甘い匂いがするし、レティの髪も肌も唇も全部キラキラ艶々しているように見えてどうにも落ち着かない気持ちになるのだ。
レティリエもそんなグレイルの様子を察しているのか、襟ぐりの布を引っ張って大きく開いた胸元を隠そうとしているのだが、正直に言って逆効果だった。このままでは人の姿のまま狼(隠語)になってしまいそうなグレイルは、ここで彼女と別行動になることに内心ホッとしていた。小屋の中に入って服を脱ぎ、ガラガラと扉を開ける。扉の向こうは湯気が立ち上る温泉だ。
グレイルは豪快にざぶりと湯に浸かり、ふうと息を吐く。そのままふと目の前の岩山に視線を送り──
めちゃくちゃ鉢合わせした。
「きゃぁ! グレイル、どうしてここに!?」
肩まで湯に浸かっていたレティリエが慌てて湯の中に体を沈める。それでも隠しきれない小山の膨らみがチラリと視界に入り、体の芯が熱を帯びた。その場に固まってしまったグレイルを見て、レティリエが恐る恐る視線を向ける。
「ごめんなさい、気が付かなくて。ここ混浴だったのね」
「いや、俺も気が付かなかった……というか今までの流れから考えるとわざと仕向けられた流れだな」
「え? どうしたの?」
「いや、なんでもない」
会話をしながらもグレイルはフイと目をそらした。当たり前だがレティリエは今裸だ。セスやアルテーシアの初々しいカップルとは違い、自分達はきちんとした夫婦関係であるがゆえに彼女の一糸まとわぬ姿を十分に知ってしまっている。だからこそ、意識しようとしなくても彼女が今どんな姿であるかを鮮明にイメージしてしまうし、自分しか知らないあんな姿やこんな姿やそんな姿まで思い出してしまい、グレイルは落ち着かなくなった。
(いかん、このままでは……)
グレイルは頭を振って慌ててイメージを外に追いやる。なんとこのコラボ作品、恐ろしいことに8万字も続いている。ここまで頑張ってノーレーティング(一部ギリギリ)で来たのだから、今回も勿論良い子も読める体裁にしておくのがベストだろう。折角なのであと2万字書き足してカクヨムコンに出すのも悪くない。ゆえにグレイルは頑張って理性を保っていた。
だが、先程ヤケクソになって飲み干した薬が体の中では元気に大運動会を開いていた。正直に言うと、本当は今すぐにレティリエを抱き締めたいし、髪も肌も声も匂いも全部を感じたい。
これ以上彼女と一緒にいると抑えが効かなくなると自覚したグレイルは、彼女の方を見ないようにしつつ湯船から立ち上がった。
「俺はもう出る。レティはゆっくり浸かっていてくれ」
「あっ……」
背後から微かな声が聞こえたが、聞こえなかったふりをして湯船の縁まで歩いていく。湯船から上がろうと床に手をついた途端、背中に何か柔らかいものが当たったのを感じた。振り向くと、レティリエが控えめに両手を伸ばして自分の腰に手を回していた。
「レティ、どうした?」
「グレイル、行かないで」
レティリエが寂しそうにポツリと呟く。いつもピンと立っている耳はしゅんと垂れていて、大きな金色の目は悲しそうに伏せられていた。
「さ、さっきの変なお薬を飲んであなたが今どうなってるのかはわかっているつもりよ。でも私、例え事情があるとしてもあなたに避けられるのは悲しいの」
「…………」
「さっきからずっと私のこと避けてるでしょう? 今は二人しかいないんだから、ここにいて欲しいわ」
腰に回されたレティリエの腕にキュッと力が入る。その瞬間、グレイルの中の本能が金メダルを獲得した。愛しい人にこんなことを言われてはねのけられる男なんて男ではない。どうせカクヨムコンだって、どのジャンルに出せば良いのかわからないのだから。
「レティ」
彼女の肩をガシッと両手で掴むと、その細い肩がピクリと震える。自分を見上げてくる大きな金の瞳の中に、仄かに期待の色があるのを彼は見て取った。彼女の体をグッと抱き寄せて顔を寄せると、触れ合った唇が微かに震える。一応彼女もグレイルの体をぐっと押して抵抗の姿勢を示すが、その力は弱々しい。
「だ、だめよグレイル。皆に迷惑がかかってしまうもの。私達我慢しないと……」
「大丈夫だ、検閲が入る」
「け、検閲? 検閲ってどういうこと?」
レティリエが慌てるが、構わずにもう一度口づけを落とす。自分の名前を呼ぶ声は、甘い息の中に溶けていった。そのまま彼女の腰を抱き寄せて軽々と持ち上げると、湯船のど真ん中にそびえ立つ岩の前に立たせた。レティリエの顔を見下ろしながら、両手を岩について壁ドンならぬ岩ドンを決行する。
「グレイル……?」
「レティ、俺はお前が可愛くて仕方ない。だから多少手荒になっても許してくれ」
「え? ちょっとどういうこ……きゃぁ! やだ、そんなところ【検閲の為削除】だめ!」
「レティは【検閲の為削除】が【検閲の為削除】んだな。可愛い」
「そんな恥ずかしいこと言わないで。もう、グレイルのバカ!」
レティリエが瞳に涙をためながら恨めしそうにキッと睨んでくるが、それでも腕の包囲から逃げる素振りは見せない。彼女は気づいていないようだが、言葉とは裏腹にお尻の付け根にある尻尾が【検閲の為削除】ていた。そんな姿を見せられてしまったら、もう【検閲の為削除】かなくなる。
腰を屈めて【検閲の為削除】に軽く牙を立てると、レティリエが【検閲の為削除】になった【検閲の為削除】をして、【検閲の為削除】ながら首にしがみついてきた。
「グレイル……私、私……!」
「レティ、こっち向いて」
「嫌よ、恥ずかしいもの!」
「可愛いから良いだろ。正直、お前の顔を見ていると俺も【検閲の為削除】になってくる。レティ、【検閲の為削除】もいいか?」
「だっ……だめ! グレイル、お願い【検閲の為削除】いで!」
「レティ、すまない。俺はもう【検閲の為削除】」
「【検閲の為削除】」
「【検閲の為削除】」
「【検閲の為削除】」
…………
「おい、あいつら一生出禁にしろ」
すべての場所を見通せる神の部屋では、ピアがローウェンに最後通牒を渡していた。
※※※※
そして視点は神の部屋(笑)へ移る。
「おい。お前らの所はスレスレが多すぎて頻繁にモニターにモザイクがかかるぞ。どうにかできないのか」
「いや、ふざけすぎたのは認める。まさかあいつらが本気で一線越えるとは……」
ピアがブラックコーヒーをがぶ飲みしながらジト目で見てくる中、ローウェンが必死に原稿に黒線を引きまくる。彼の手元にある原稿は、思ったよりも検閲箇所が多すぎてほとんど文章が読めなくなっていた。さすが狼夫婦。
ローウェンが必死に検閲を入れていると、バタンと部屋の扉が開き、ラディオルがニコニコと満面の笑みで入ってきた。
「ただいまー! 二人の看病終わったよー!」
「おお、ラディオルお疲れ様」
「うん、でもルシアだけじゃなくてセスも倒れちゃったから、アロカシスと二人で運ぶのは大変だったよー! ルシアは軽いけど、セスは意外と重たかったからなー」
「まぁ子供とは言え騎士見習いだからな。結構鍛えているんだろう」
ピアが親友であるヘイグの姿を思い浮かべながら呟く。同じく騎士見習いから始まり、今や騎士団長となったヘイグは昔から体格が良かった。今のセスくらいの時に彼の裸を見たが、どこもかしこもムキムキしていてつい見惚れてしまったのを思い出す。いや、幼馴染なんだから一緒に風呂に入ることくらい普通にあるだろう。一体何を想像したんだ。なんでもかんでもすぐにそういういかがわしい妄想をするのはやめなさい。
「うーん、でもさ、のぼせたんなら二人共早くあがればいいのにねー。なんで倒れるまでお風呂にいたんだろう。我慢比べでもしていたのかな?」
「まぁある意味では我慢比べだよな……」
アロカシスが散々悪ふざけで二人の体を描写するものだから、セスもルシアもお互いの体を見てはマズイばかりにとすっかり湯船から上がれなくなってしまったのだ。付き合いたてのカップルらしい初々しい反応だが、少し暴走しすぎたのは否めない。
「十分楽しませてもらったし、そろそろこの空間も終わりにしないとな。狼の二人に至ってはあんなんだし」
「そもそも俺達も勝手にここに連れてこられただけだしな。好き勝手に操作していいと言われたからやりたいようにやらせてもらったけど」
ピアの言葉に、ローウェンも腕組みをしながらうんうんと頷く。最初は記憶を無くして初々しい反応するカップル達をからかってやろうというくらいの気持ちだったはずなのだが、段々と道を踏み外してきている気がする。ここら辺で止めておかないと、レーティングをつけるつけないどころか運営から作品ごと消される可能性があるのだ。
側で大人たちの話を聞いていたラディオルがこてんと首を傾げる。
「でもまだマリオネのおにいちゃんとおねえちゃんは記憶が戻ってないよね? どうするの?」
「そういえばそうだった……!」
すっかりいつも通りの二人に見えたが、実はまだカートとフィーネは恋人同士だったという記憶を取り戻していない。今のままでもあんまり変わらない気がするが、本編で幸せそうな二人を見たからには、やはり元の仲良しカップルにしてあげたいと思うのが親心だろう。ローウェンが肘でピアを小突く。
「お前の所の可愛い家族達だろう。早くなんとかしてやれよ、天才魔導士様」
「はぁ、仕方ない、ボクが一肌脱いでやるしかないな」
意外にも乗り気のピアを見て、ローウェンが不思議そうに首を傾げる。
「何か策があるのか?」
「ああ。ボクを誰だと思っているんだ。ラザフォード国一番の宮廷魔道士様だぞ」
そう言ってブラックコーヒーを飲み干したピアが、マグをテーブルの上に置く。
モニターを見つめる彼の金色の瞳がキラリと光った。
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