恋愛あるある② 看病-2
一方、裏方では。
「見たか? なんて素晴らしい純愛なんだ……!」
「すごいねー。セスお兄ちゃんもルシアお姉ちゃんも綺麗だったねー」
モニターの前でローウェンが男泣きに泣きながら感激しており、その隣でラディオルが興味深そうに画面を見つめている。ピアは相変わらずマリオネ組のモニターを眺めていたが、その手にはブラックコーヒーのマグとカカオ98%のチョコレートが握られていた。まさかこのコラボ作品でこんなに美しい純愛シーンを見られるとは。ありがとう竜世界クロニクル。
まだ恋愛にはそれほど興味のないラディオルが、机の上に頬杖をつきながらケイオスぬいぐるみをつんつんとつつく。
「シッポを入れてみたら面白いかなって思ったんだけど、意外と綺麗にいったねー。でも、これでセスお兄ちゃんとアルテーシアお姉ちゃんも記憶を取り戻したから、後はカートお兄ちゃんとフィーネお姉ちゃんだけだね」
「狼の二人は消化試合みたいなものだろう? キミはどうするんだい」
「まぁ見てろ。これを置いておいた」
そう言ってローウェンがドヤ顔で小さな小瓶を掲げる。中にはピンク色の液体が入っていて、とぷんと微かに揺れていた。ラベルには「BIYAKU」の文字。ラディオルが不思議そうに小首を傾げる。
「んん〜? 狼のお兄ちゃん、その薬はなあに?」
「これはね、大人がハイテンションになっちゃうジュースだよ。子供は知らなくて良いことだね」
「おい待てこらR18、ボクの可愛いフィーネとカートが出てる作品とお前らのいかがわしいのを一緒にするな! お前らはムー●ライ●ノベ●ズにでも行ってろ!」
「お前こそカク●ムに喧嘩を売るな!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ大人二人の言ってることがイマイチわからないラディオルは、二人の横でミルク80%のチョコレートの紙を剥いていた。
ブラックコーヒー(無糖)を飲み干したピアがガン! とマグを机に置く。
「大体お前らのせいで最近はこの作品にレイティングマークをつけるかつけないかの寸前なんだからな! 隙あらばアダルト路線に持っていきやがって……次にやったら出禁にするぞ!」
「ぐぬっ……そういうお前はどうするんだよ、魔導士様よ」
ローウェンが歯噛みしながら言うと、ピアが人差し指を立ててチッチッチと得意気に横に振る。
「ボクは天才だからな。アイテムより強力な助っ人を呼べるように手配しておいた」
「なっ……アイテムではなく助っ人だと!? さすが天才魔導士。やるな!」
「二人のどちらかが助けを呼べばいつでも助っ人を召喚できる。だが召喚はランダムだ。誰が来るかはボクにもわからない。大方、あっちの世界で暇してるやつが出てくるだろう」
「なんだかキャバ●ラみたいなシステムだな」
ろくでもない会話をしている大人をよそに、モニターではどんどんと時は進んでいく。
────────
一方こちら白銀チーム。小屋の中に入ったレティリエとグレイルは、とりあえず二人揃ってベッドに腰掛けた。二人は記憶を取り戻したからか、特に体に異変は無いようだ。
「私達、セスさんとカート君達が出てくるまでここで待っているべきなのかしら」
「他の小屋に入れないのであればそうするしかないな」
「そうよね……」
レティリエが呟くように言い、チラリとグレイルを仰ぎ見る。鋭い金色の瞳を見て、レティリエが恥ずかしそうに目を伏せ、何か逡巡したかと思うとポスンと彼の肩に頭を乗せた。
「レティ?」
「折角二人だけなんだもの。少しだけこうしていてもいい?」
「あ、ああ。俺は構わないが」
なんでも無いように言うも、肩に感じる温かくて柔らかい感触につい意識がいってしまう。なんだかちょっと甘い匂いもする、そんなことを思っているうちに、レティリエが嬉しそうに尻尾をパタパタさせながら胸元に頬を擦り寄せてきた。
「ふふ、子供の頃はよくこうやって並んでお話してたわよね」
「そうだな。懐かしい」
「私、あの時はこうなるなんて思ってなかったもの。今も信じられないくらい……でも私、今とっても幸せだわ」
そう言ってレティリエがグレイルの腰に抱きついてきた。今までずっとこうすることができなかったからか、彼女は二人だけの時に少しだけ子供っぽくなるのだ。今までの彼女の境遇に思いを馳せ、グレイルもその細い腰に手を伸ばしてグッと引き寄せる。なんだかちょっといい感じの雰囲気になってきたのを察して、グレイルも彼女の白い肌にそっと唇を落とした。腕の中のレティリエがピクリと動き、微かに身動ぎする。
「待ってグレイル、こんなところじゃダメよ」
「なんでだ? 別に二人だけなんだし、構わないだろ?」
「でも、このコラボ作品は今までちゃんと健全な内容で来たんだもの。私達のせいで他の人達を巻き込むのはやっぱり良くないと思うわ」
「むう……そういうものなのか」
「ええ。これを書いてる人はこの作品を除けば短編も含めてすべての作品にレイティングマークをつけているわ。このままだと不健全作家の称号をつけなきゃいけなくなってしまうのよ。ね、だから我慢しましょう」
レティリエが孤児院の子供に言い聞かせるようにたしなめる。実は前回の山小屋でもちゃんと彼女の言いつけを守って我慢したグレイルだった。だが、彼女の頼みであれば仕方がない。黙って頷いた瞬間、突然頭に殴られたような衝撃を感じでグレイルは眉間に手をあてた。彼の異変を察知したレティリエの顔色がさっと変わる。
「グレイル! どうしたの!?」
「いや、なんでもない……少し目眩がしただけだ」
「大丈夫? 熱はない?」
レティリエが心配そうな顔をしてグレイルの額に手を当てる。正直に言うと少しだけ体が熱くて気怠い感じはあるが、武力を持たない狼達は体が丈夫にできており、少しの不調くらいは気にならない。だが、愛しい彼女が心配してくれるのも悪くないと思ったグレイルは、ふっと微笑んだ。
「まぁすることもないし、ちょうどここにベッドがある。ここで一眠りしておくか」
「そうね、確かにいつもよりあなたの体が熱い気がするもの。私がお世話してあげるからあなたはここで寝ていて」
そう言ってレティリエがパッと破顔し、立ち上がってキッチンに向かう。そのまま彼女は鼻歌を歌いながら料理を始めた。グレイルもなんとはなしにベッドの上で横になりながらその後ろ姿を眺める。時折左右にぴょこりと動く銀色の尻尾が可愛くて、グレイルの胸中もじんわりと熱くなった。
あけすけなことを言うと、男は皆マザコンだ。好きな子に心配されれば嬉しいし、お世話されるのはもっと嬉しい。むしろお世話されるのが嫌いな男なんてこの世にいるのだろうか、いやない(反語)
暫くすると、レティリエがスープとおかゆを持ってベッドの側の椅子に座った。小さなスプーンにおかゆを乗せてフーフーと冷ましてくれる。はい、と差し出されたおかゆを口にしたグレイルは、内心で鼻の下が伸びまくっていた。これが小説で良かった。漫画だったら絶対に見せられない顔をしていた。いかんいかん。
ご飯を食べ終えた後は、レティリエが布団をかけてその上からポンポンと撫でてくれた。自分がでっかい図体をしていることも忘れて大人しくされるがままにお世話をされる。正直最高すぎて、このまま寝たら昇天するかもしれない。
そんなことを思っていると、何かに気がついたのか、レティリエが「あら!」と呟いてサイドテーブルに置いてある紙を手に取った。
「見て。紙に何か書いてあるわ」
「これを仕組んだやつからか? 何て書いてある」
「この不思議な病気は用意されている薬を飲まないと治らないって書いてあるわ。この部屋の中に薬があるみたい」
「薬? そんなものあったか」
「そうねぇ……あるとしたらこの中かしら」
そう言ってレティリエがサイドテーブルの引き出しを開ける。すると、二段目の引き出しの中にピンク色の液体が入った小瓶が入っていた。レティリエが小瓶を手に取ってグレイルの前に掲げる。その瓶に書いてあるラベルを見た瞬間、グレイルは盛大に吹き出した。
そのラベルに堂々と書かれる「BIYAKU」の文字。グレイルは無言でそれを受け取ると、ガラガラっと部屋の窓を開けた。
「オラァァァァァァァ!!」
渾身の力で小瓶をぶん投げると、美しい軌跡を描いて小瓶がぶっ飛んでいく。ぜいぜいと大きく息を吐きながら振り返ると、レティリエが目を丸くしていた。
「グ、グレイルどうしたの! 薬が……」
「いやなんでもない。今のは忘れろ。俺は薬が無くても寝てれば治る」
「そ、そう。それなら良いんだけど……」
わけがわからないままにレティリエが頷き、グレイルも再びベッドの中に戻る。あんないかがわしいものを彼女に見られなくて良かった。だが、なんとなく嫌な予感がして、グレイルは黙ったまま最後の引き出しも開けてみた。
中には無数の小瓶が引き出しいっぱいに並べられていた。全てにピンク色の液体が入っており、ラベルにもちゃんと「BIYAKU」と書かれている。
(一体誰だこんな頭の悪いことを考えたやつは)
それを考えたのが村一番の頭脳を誇る村長だと知らないグレイルは内心で悪態をつく。だが、このピンクのいかがわしい羅列をどうしようかと思っている隙にレティリエがその一つをヒョイと手にとってしまった。
「レ、レティ、それは」
「びやくって書いてあるわ。びやくって何かしら、グレイル知ってる?」
「い、いや、知ってるとも言えるし知らんとも言えるな、うん」
「び『やく』って書いてあるから、これってお薬のことよね? うーん何のお薬かしら……美しくなるお薬?」
「よしわかった。頼むからお前は一生そのままでいてくれ。いいな?」
小瓶を手にしながら考え込むレティリエの肩を軽く叩く。まぁここに卑猥な物があったとしても使わなければいい話だ。多少の不調くらいなら我慢できる。そう思って引き出しを閉めようとした途端、レティリエが何かに気付いて引き出しの中に手を入れた。
「グレイル、まだ紙が入っているわ」
「なんだと? 何て書いてあるんだ」
「えっと、この中に一つだけ本物の薬が入ってるんですって。それを飲まないとグレイルの体は治らないらしいわ」
「…………」
実質「ナントカを全部飲まないと出られない部屋」というやつだ。なんだか俺達の部屋だけ趣旨が違くないか? と思わなくもないが、グレイルはその中の一つを手に取ると蓋を開けて一気に飲み干した。
「きゃっ! グ、グレイル、大丈夫なの?」
「これくらい平気だ。悪いが話しかけないでくれるか」
「わ、私も手伝うわ。何本か飲めばいいのよね?」
「いや! 俺に任せろ。そうだな、お前はそこでエールを送っていてくれ」
半ばヤケクソになりながら無心で小瓶の中身を次々に飲み干していく。多分全部飲み切る頃には悟りを開いているかもしれない。
レイティングすれすれの白銀カップルは今日も平常運転だった。
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