お正月🎍でちびっこトラブル(お正月コラボ)

ちっちゃくなっちゃった!

 こちらの作品は、MACK様が描かれたイラストを元に書いております。

 作者様の近況ノートにイラストが掲載されておりますので、こちらをご覧になった後にお読みください。


★MACK様の近況ノートより

https://kakuyomu.jp/users/cyocorune/news/16816927859455754927



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 ──なんだかいつもより目線が低い。


 目を開けてグレイルが最初に感じたのがそれだった。部屋のテーブルも、椅子も、見慣れた飾り棚も、全てが大きく見える。いぶかしみながらも視線を落としたグレイルは、自分の手がとても小さくなっていることに気づいて目を丸くした。


 ──なんだこれは? 何が起こった!?


 よく見ると、手だけでなく腕もいつもより白く細い。筋肉ではなく脂肪で覆われた腕は触るとぷにぷにしていてとても気持ちがよかった。

 無心で自分の腕をつつきながら、グレイルはぼんやりと先程までのことを思い出す。


 今日は元旦。恒例のメンバーでぬくぬくとこたつに入りながら、先ほどまでおせち料理をつついていたはずだ。レティリエとアルテーシアが料理をテーブルまで運んでくれ、フィーネがとても美味しそうにおせちを頬張っていたのを覚えている。その隣でカートがフィーネの口元を布巾で拭ってやっていて、自分は確かセスとお屠蘇で乾杯をしていた気がするのだが……。

 食後に出されたお汁粉を食べた所までは記憶があるのだが、その後どうなったかはさっぱり覚えがない。食べかけのお節料理が並んでいるテーブルを見た途端、周囲に誰もいないことに気が付き、グレイルはハッとした。


「レティどこだ! 皆も! いるなら返事してくれ!」


 誰もいない部屋に向かって声を張り上げる。すると、背後でキイッと何かが動く音がした。反射的に振り返ったグレイルの視界の端に赤い着物が映る。


「グレイル! ここにいたのね」


 そこにいたのはレティリエだった。どうやら別の部屋にいたらしく、扉を半分開けて顔だけ覗かせている。ほっと安堵のため息をついたグレイルは慌ててレティリエのもとへ駆け寄った。


「良かった。レティ、無事だったか」


 レティの全身を眺めながら、怪我がないことを確認する。だが、彼女の頭を撫でようと腕を伸ばした瞬間、違和感を覚えてグレイルの手がぴたりと止まった。

 レティリエは無事だった。だが、服装が先程までと全く違っていた。彼女が着ているのは桜柄に赤い色の華やかな着物。ふわふわの銀髪は二つに結われて小さな花飾りがついており、彼女が動くたびに狼の尻尾のようにぴょこぴょこ揺れていた。いつもと違う雰囲気の彼女に見惚れてしまったのも束の間、その姿がかなり幼いことに気付き、グレイルはハッとした。

 低い背丈、ふくふくのほっぺ、元々小さな手足はさらに小さくなっており、大きな丸い目もいつもの艶やかな感じではなく、可愛らしくパチパチとまばたきしていた。


「レティ、お前……小さくなったのか」


 グレイルが口を開けながら言うと、レティリエもこくりと頷く。


「グレイル、あなたもよ。昔のあなたに戻ってる」

「おわっ! 本当だ!」


 確かに言われてみれば低すぎる目線も、小さな体も、自分が子供になったと思えば辻褄が合う。だが、なぜこんなことになったのかはさっぱり検討がつかなかった。腕組みをしながら考え込むグレイルに、レティリエがツンツンとグレイルの着物の裾を引っ張る。


「とりあえず他の皆とも合流したいわ。皆も子供に戻ってるのかもしれない」

「あ、ああ。そうだな。他の部屋も探してみよう」


 言いながら、グレイルは心配そうな顔をしているレティリエをチラリと横目で見る。そんな場合ではないにもかかわらず、彼はある種の感動を覚えていた。


(昔のレティだ……)


 小さくなったレティリエを見て心の中で呟く。ちょうど自分が孤児院に来た頃、出会った頃のレティリエがそこにいた。当時はまだ恋愛感情や男女の機微も全く知らない頃で、毎日彼女と走り回ったり、喧嘩したりしていたものだ。あの時の自分は、まさかいつも隣にいる小さな女の子と夫婦になるなんて思っても見なかっただろう。

 昨夜もレティはもぞもぞと自分の腕の中にもぐりこんできてきゅっと自分に抱きついてきた。温かくて柔らかくて小さな彼女を抱きしめているうちに、愛おしいという気持ちが沸いてきて、そのまま……。

 正月から煩悩だらけの記憶を思い出してグレイルの顔が赤くなる。そんなことはつゆ知らず、レティリエがそっとグレイルの手を取った。


「グレイル、あっちに行ってみましょう」

「あ、ああ。そうだな」

「どうしたの? なんだか顔が赤いみたいだけど」

「い、いや、なんでもない。本当だ」


 不思議そうに小首を傾げるレティリエの手を引っ張って別の部屋へ行くグレイルは、見た目は子供、頭脳は大人。記憶も大人。しかし情緒は中学生だった。



 結論から言うと、皆隣の部屋にいた。

 そして全員虎の着ぐるみをきていた。


「か……可愛い……」


 可愛い子虎達を見て、グレイルとレティリエは思わず頬がゆるゆるになった。そこにいたのはよちよち歩きの虎っ子達。年齢はレティリエ達より少し小さいのだろう。短い手足をちょこちょこ動かして動き回る姿は抜群に可愛すぎた。


 しかし彼らも中身は十七歳のままだった。


(アルテーシア……虎も似合うな)


 着ぐるみを着た虎セスは、目の前の虎アルテーシアを見てデレデレになっていた。ハロウィンの狼、クリスマスのトナカイ、そして今回の虎の着ぐるみ。正直何かに目覚めそうだった。コスチュームなんたらとやらに。そしてアルテーシアは子供の頃から美少女だった。この愛らしい女の子が大きくなって、あの清楚で可憐な女の子になるのかと思うと、自分が彼女の恋人であることも忘れて、ルシアに寄ってくる男を片っ端から大地に沈めたくなる。

 アルテーシアがセスに気付き、小さな体でてけてけと歩いてくる。思わず抱き締めそうになり、セスはそんな自分を戒めるために自分の虎の尻尾をぐいと引っ張った。


 一方、見た目は天使のアルテーシアは全く別のことを考えていた。


(きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんて可愛いんですか! セス!)


 可愛い二歳児姿のセスが自分の尻尾を引っ張っている。二歳児の愛らしい姿の中で十七歳の健康的な若い男子が己に抗っているとは知らず、アルテーシアはてけてけとセスに近づいてにこりと笑った。

 目の前のセスが自分の頬をつねる。可愛い。

 あまりの愛らしさに両手でぱちぱちと手を叩くと、目の前のセスが虎手袋で自分の顔にパンチをする。可愛い。

 アルテーシアがちびっこセスに萌える度に、セスの体にダメージが増えていくのだが、アルテーシアは知るはずもなかった。


 

 「か、可愛い……」


 一方、フィーネは鏡の前で自分の姿にうっとりと見惚れていた。フィーネも虎の着ぐるみを着ているのだが、竜クロ組の二人とは違ってミニスカ、ノースリーブとちょっぴり肌の露出が多めなキュートスタイルだった。この姿ならカートも絶対に可愛いと褒めてくれるに違いないとフィーネは鏡の前でガッツポーズをする。


「カート見てー! 食べちゃう……いや食べられてもいいわよー! 大人の意味で! がおー!」


 そう言って後ろを振り返ったフィーネが見たものは虎ではなかった。


 鏡もち。


 そこにいたのは鏡もち着ぐるみに着られていた赤ちゃん姿のカートだった。キメの細かいふにふにのマシュマロ肌にぷくぷくのいちごほっぺ。まん丸な空色の瞳はビー玉の様に透き通ってキラキラしており、ちょこんと頭にのったみかんが何とも愛らしかった。


「あぶぶ……ぷわー」 

「カート……! 可愛すぎるぅぅぅうう!!!」


 ピアと同じ血を引いているフィーネは地面にのめり込む勢いで倒れ伏した。



※※※


「で、どうしたものか……」


 無事に合流した六人はお互いの姿を見てため息をつく……フリをして内心互いの姿に萌えていた。狼夫婦は五歳程度、フィーネ、アルテーシア、セスの十七歳組は二歳程度、カートに至ってはゼロ歳の赤ちゃんだ。ちびっこ達が集まって皆で腕組みしながら考え込んでいる姿はなんとも可愛らしい。

 考え込んでいると、フィーネがぽんと手を叩いた。


「そう言えば、兄様はいつどこにいてもカートが叫べば飛んでいくって言っていたわ! 兄様に頼みましょう」

「本当に来てくれるならとても心強いですけど……でもそんなことできるんでしょうか」


 フィーネの言葉にアルテーシアが小首を傾げる。可愛い。そんなアルテーシアに、フィーネがチッチッチッと人差し指をふった。


「大丈夫よ。カートが『ピアさん』って一言言えばいいだけなんだもの。さ、カート、兄様の名前を呼んで!」


 フィーネがカートの頭を撫でながら優しく言う。中身は立派な十五歳の男の子だということがわかっていても、なんとなくこうしてしまう。だって可愛いもん。カートの頬がポッと一瞬赤らんだが、彼はキリッとした目でこくりと頷き、口を開いた。


「ぱー……ぱ!」

「カート、『ピアさん』よ。ほら、言ってみて!」


 フィーネが両手で拳を握りながらエールを送る。カートもフィーネにつられてもう一度口を開ける。


「ぷーぷ! あー」

「カートどうしたの? 私の言うことはわかるわよね?」

「もしかしたら……だけど」


 小首を傾げるフィーネの横でレティリエがカートの口を優しく開ける。


「やっぱり。ゼロ歳の赤ちゃんだからまだ歯が生えていないのね。多分、私達の言うことはわかっているのだけど、うまく発音ができないんだと思うわ」

「なんだと?」


 レティリエの言葉にグレイルが唸る。彼の隣にいたセスもうーんと首をひねった。


「とりあえず、頑張ってカートに『ピアさん』って言ってもらうしかないですね。皆で応援しましょう」

「そうだな。よし、皆やるぞ」


 グレイルの言葉を皮切りに、皆それぞれカートの周りに集い、口々に応援する。


「カート、ほら『ピアさん!』」

「ぱー! あぷー」

「ぴあさん!」

「ぱーぱーあ!」

「ぴ あ さ ん !」

「ぴ ぴ え ぴ!」


 それはピコ太郎だ。


「カート、ゆっくりで大丈夫だ。ピア、だけでもいいぞ。ほら、せーの」

「ぴーぱーぱー……ぷ!」

「うわぁぁぁぁぁ惜しい! あと少しだったのに!!」


 グレイルとセスも前のめりでカートの様子を見守っている。レティリエ、フィーネ、アルテーシアも、手におもちゃを持ったりガラガラをふったりしてカートのやる気を引き出そうとしていた。

 その光景は、正月の集まりで昨年生まれたばかりの赤ちゃんを見守る親戚の集まり同然だった。



 結局、最終的にはカートが泣き出してしまい、「ぴー……ぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」の一言で天才魔導師は来てくれた。カート可愛さのあまり、ピアSECOMはわりとがばがば判定だった。


「なんだ。お前ら子供に戻ったのか。よしわかった、ボクに任せろ」


 最近このコラボ作品で良い様に使われているピアが両手を腰に当てて得意気に鼻を鳴らす。ピアは空の瓶を持ってくると、詠唱と共にまたたく間に薬を作製した。


「ほら、これを飲め。そうすれば元通りだ」


 ラザフォード国を代表する宮廷魔導師が自信満々に薬を手渡す。皆感謝に目を輝かせながら薬を口にした。



 ──結果、悪化した。

 端的に言うと、皆見た目と同じ年齢になった。



「おいレティ! それ俺のみかんだぞ! お前さっきも食っただろ!」

「だっていつもグレイルの方がいっぱい食べてるんだもん! これは私のよ! あっち行って!」

「なんだと! お前生意気だな! 良いからよこせよ!」

「きゃあ! グレイルが私のこと叩いたぁ!」


 ちびっこのままのグレイルとレティリエが取っ組み合いの喧嘩をする。その横で、虎っ子三人がワーキャー言いながら走り回っていた。


「きゃははははは!」

「あはははははは!」

「あっコラ! ルシア椅子からおりなさい! おいセスはズボンを履け! フィーネそれは食べ物じゃありません!」


 椅子の上でバンザイをしているアルテーシアをおろし、おむつ姿で走るセスにズボンをはかせ、虎のしっぽをもぐもぐしているフィーネの口から尻尾を引き抜きながらピアがあたふたする。その後ろで、カートがギャン泣きをしていた。


「カートきゅんどうしたのかな〜? おむつ? ミルク? 眠たいのかな〜?」


 ピアが不器用にカートを抱っこするが、機嫌の悪い時のゼロ歳児ほど手に負えないものはない。

 カートを抱っこしながらよしよしと背中を撫でるピアのお尻に、走っていたグレイルが突っ込んだ。


 こうして天才魔導師の一日パパ体験(?)は慌ただしく過ぎていった。



 二〇二二年もよろしくお願いいたします!

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