バレンタイン💝で恋愛あるある!(バレンタインコラボ)

バレンタイン城にて

 こちらの作品は、MACK様と眞城白歌様が描かれたイラストを元に書いております。

 作者様の近況ノートにイラストが掲載されておりますので、こちらをご覧になった後にお読みください。


★MACK様の近況ノートより

https://kakuyomu.jp/users/cyocorune/news/16816927859779370232(ヒーロー組 / 絵:MACK様)


https://kakuyomu.jp/users/cyocorune/news/16816927860616064494(マリオネ組 / 絵:眞城白歌様)


★結月花の近況ノートより

https://kakuyomu.jp/users/hana_usagi/news/16816927860929551295(白銀の滝組 / 絵:MACK様)



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 ここは聖バレンタイン王国の中にあるバレンタイン城。石造りでできた古城は豪奢な作りをしており、高い天井からはシャンデリアがいくつもぶら下がっている。大理石の床に敷かれた赤い絨毯は年季が入っていて、その鮮やかさを失っていた。おそらくここは大広間だろう。そんな古めかしい城の中を三人の男が歩いていた。


「それにしても……本当にこの中にいるのでしょうか。その、囚われの姫君というのは」


 白い騎士服を身に纏ったセスが柳眉をひそめる。彼が歩く度にサラサラと揺れる長い銀髪が、ろうそくの光に反射して煌めいていた。


「さぁな。俺達は騙されてるだけかもしれん」


 セスの隣を歩く黒い戦士服を着た獣人──グレイルが油断なく周囲に目をやりながら鋭く言う。頭の狼の耳が時折ピクリと動いている所を見るに、かなり神経を尖らせて警戒しているようだ。


「ここまで誰もいないのはおかしい。俺達はハメられたのか?」

「でも、情報の出どころが一通の手紙しか無いとは言え、困っている人がいるなら助けに行くしかないですよ」


 セスとグレイルに囲まれるようにして、ミルクチョコレート色の王子服を着たカートが微笑む。ピリピリと毛を逆立てているグレイルと、ニコニコと愛らしい笑みで歩くカートを見ながら、セスはため息をついて懐から一通の手紙を取り出した。

 そこに書いてあるのは、三人への依頼だった。魔王に囚われた三人の姫君を連れ戻してほしいという内容が書いてある。送り主は隣国の王様となっているが……


「無事に救い出した者には、姫を嫁にやるとも書いてありますね。ベタすぎる内容なので逆に不安になります……」

「女に釣られて来たと思われるのは心外だな。さっさとお姫様とやらを見つけて帰るぞ」


 不安気に眉をひそめるセスに、グレイルが不愉快そうに返す。そんな二人の従者を、カートは愛らしい微笑みと共に見ていた。


「まぁまぁ二人共。もうお城に着いてしまったんですからとりあえずお姫様を探しましょう? グレイルさんも、そんなにピリピリしないでください。案外可愛いお姫様が待ってるかもしれませんよ?」

「俺は女に釣られるような男じゃない」

「でもそういうことを言う人ほど真っ先にお姫様とくっついたりするんですから、フラグ立てないでくださいね」


 カートが優しく言うと、グレイルがむぅと口を尖らせる。なんやかんや言いながら、三人は次々と扉を開け、城の奥へと進んでいった。

 

 カートとセス、グレイルの三人はこことは別の国から来た者達だ。一国の王子であるカートは心優しく、また高貴な血を引く彼は為政者としての風格も備えている。そんなカートが、隣国から救いを求める手紙を無碍にできるはずがなかった。困っている姫君を助ける為に、一先ずバレンタイン城に来たものの、これまでに不自然な程警備が緩く、そして不気味なほどに無人だった。人気ひとけのない大広間を歩きながら、セスも腰に佩いた剣の柄を握る。と同時に、城の奥から微かに物音が聞こえ、前を歩くグレイルの耳がピクリと動いた。


「……今女性の悲鳴が聞こえた」

「本当ですか!? どこで?」

「あっちだ」


 カートの問いに、グレイルが広間の奥を指差す。三人はお互いに頷き合うと、城の奥を目指して走り出した。




※※※



 なんだか肌寒い気配を感じて、フィーネはパチリと目を開けた。視界に映るのは、豪奢なシャンデリアときらびやかな装飾で彩られた高い天井だ。美しい部屋だが、今までに来たことも、ましてや見たこともない場所だった。


「何……ここどこ?」


 パチパチと瞬きをすると、視界の端にピンと立った銀色の三角耳が映る。


「あら、フィーネちゃんが目を覚ましたわ!」

「本当ですか? ああ、良かったです。ずっと目を覚まさないから心配していました」


 レティリエとアルテーシアが瞳に涙をためながらフィーネの顔を覗き込む。事態を把握しきれていないフィーネが手をついて体を起こすと、手の下でかたりと硬質な音がした。見ると、自分が寝かされていたのは黒く塗られた木製の箱だった。中にはふわふわのパステルカラーの飾りがいくつも敷き詰められており、身を起こした弾みでフィーネの体からも飾りがいくつかこぼれ落ちる。その不可思議な光景がまるで花を敷き詰められた棺桶のようにも見えて、フィーネはぶるりと身震いした。


「何これ……気持ち悪い」

「私達も起きたらこんな感じだったんです。気味が悪い……」


 フィーネの隣で、アルテーシアも不安気に声を震わせる。フィーネは一先ず木箱の中から出て、凝り固まった四肢を伸ばした。ぐるりと周りを見渡し、可愛らしいドレスに身を包んだレティリエとアルテーシアを見て首をかしげる。


「あれ? そういえば……私達なんでこんな格好してるんだっけ?」


 ここに来る前に何をしていたかは記憶がない。気がついたらここで寝かされていた、という状況に、寝起きの頭では理解が追いついていなかった。というか、なぜ自分達がドレスを着ているのかもわからない。レティリエは胸元がざっくり開いたセクシーなブルーベリー色のドレスを着ているし、アルテーシアはラズベリー色のキュートなお姫様ドレスを着ていた。ふと自分の体に視線を落としたフィーネは、その愛らしさに目を輝かせた。


「何これ可愛いっ!」


 フィーネが来ていたのはピスタチオカラーの淡い緑色のドレスだ。おそろいの長手袋も身につけており、髪の毛にも可愛らしく白いリボンが結ばれている。腰に巻かれたリボンはチョコレート色で、可愛らしくも甘すぎないカラーリングだ。事態の深刻さも忘れてフィーネはウキウキと自分の体を眺め回していた。反対に、レティリエとアルテーシアは不安そうに周囲を確認している。


「一体ここはどこなのでしょう。こんなに大きいお城なのに、誰もいないというのが怖いですね……」

「ええ、一先ずここを出ましょう。誰もいない今がチャンスかもしれないわ」


 年長のレティリエが声を低くしながら言う。彼女の言葉に、フィーネも慌てて頷いた。


 棺桶の様な木箱は、広い部屋の中央にでんと据え置かれていた。高い天井と豪奢な造り、大理石の床に敷かれた真っ赤な絨毯といい、ここはどこかの城の中のようだった。家具や装飾品は置かれておらず、だだっ広い空間に木箱がたった三つだけ置かれているのが何とも不気味な光景だ。三人は身を寄せ合いながら部屋の奥にある大きな扉をそっと開けた。扉を開く時に錆びついて固まった蝶番が軋んだ音を立て、三人はビクリと肩を震わせた。


 次の部屋も全く同じ作りだった。小さい家なら数軒建ってしまいそうなほど広い部屋には何の家具も置かれておらず、石造りの壁に均等にかけられている肖像画が無言の圧力をかけてくる。床には真っ赤な絨毯が敷き詰められており、三人は恐る恐る部屋に足を踏み入れた。


「このお城、なんだか怖いわ」

「ええ、誰もいないのも不気味ですね……」


 フィーネの言葉に、アルテーシアもきゅっと胸の前で両手を握りしめながら返す。と同時に、前を歩いていたレティリエがピタリと足を止めた。


「……なんだか変な匂いがするわ」

「変な匂い……? 確かに言われてみればなんだか甘い匂いがするような……」

 

 フィーネが首を傾げている横で、レティリエが静かに目を伏せる。狼である彼女は、人間よりも少しだけ鼻が良いのだ。


「これはもしかして、チョコレート?」


 レティリエが目を開け、不思議そうに周囲を見渡した時だった。

 突如真っ赤な絨毯から茶色のチョコレートが滲み出てきて、勢いよくレティリエの足に絡みついた。


「きゃぁぁぁぁぁ!!」


 足を取られたレティリエが悲鳴をあげる。アルテーシアとフィーネも助けようと駆け寄るが、次々に絨毯からチョコレートが滲み出し、まるでアメーバのように床で蠢いているのを見て息を飲んだ。


「いやぁぁぁぁ何これ!」

「きゃぁぁぁチョコレートのお化けです!!」


 レティリエの前に立ち塞がるアメーバチョコレートが二人の行く手を阻み、レティリエを助けることができない。その間にチョコレートのおばけがどんどんと彼女の体にまとわりついていく。


「いやっ……やめて!」


 体を這うおぞましい感覚に、レティリエが悲鳴を上げた時だった。

 突如ふわりと体が浮いたかと思うと、次の瞬間にはレティリエは逞しい腕の中にいた。ハッとして見上げると、背が高く体格の良い男が自分を抱き上げている。そのまま飛ぶようにチョコレートのおばけから離れると、優しく床に下ろしてくれた。


「おい、大丈夫か!」

「あ、あなたは……」

「自己紹介は後だ。まずは目の前のこいつらを片付けるぞ」


 彼の言葉につられて視線を戻すと、白い騎士服を着た長髪の美しい青年と、チョコレート色の王子服を着た美少年が化け物相手に剣を振るっていた。

 チョコレートのアメーバおばけが床で蠢いたかと思うと、突如手のようなものが伸びてきて、アルテーシアの足首を掴む。


「きゃぁぁぁ!」


 アルテーシアが悲鳴をあげた瞬間、セスが庇うように目の前へ出て剣を振るい、チョコレートの腕を切り落とした。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい……ありがとうございます」

「良かった、俺から離れないで」


 セスの言葉にアルテーシアが頷き、セスの背後に身を隠す。一方、カートもフィーネを狙うチョコレートのおばけ相手に、剣で応戦していた。 

 今、チョコレートのおばけがフィーネめがけて手を伸ばし、その華奢な体を掴もうとする。だが、チョコレートの腕がフィーネに触れる前にカートが前に躍り出てその腕を真っ二つに切り裂いた。


(きゃーーーーん! かっこいい!!)


 目の前で自分を守る王子様の姿に、フィーネはメロメロだった。敵を捉える空色の瞳、動くたびに揺れるサラサラの金茶の髪、無駄のない動きで敵を倒す美少年の姿は、まさしく童話から出てきた王子様そのものだった。

 グレイルもレティリエを背に庇いながら歯向かってくる化け物を鋭い爪で引き裂き、三人はあっという間に化け物を沈めてしまった。敵を殲滅せんめつしたことを確認したグレイルがくるりとこちらを振り返る。


「大丈夫か? 化け物に捕まっていたようだが」

「は、はい。大丈夫です……」

「そうか、なら良い」


 胸の前で両手を握りながら、蚊の鳴くような声で言うと、グレイルがふっと微笑んだ。その優しい笑みを見て、レティリエの胸がきゅっと締め付けられる。とくとくと胸の内側を叩く心臓を抑えるように、レティリエは静かに胸に手を当てた。


(やだ……私どうしちゃったのかしら)


 先程まで死ぬほど怖い思いをしていたはずなのに、思い出すのは、自分を庇う大きな背中と助けてもらった時の逞しい腕の感触だった。抱きかかえられた時に感じた厚い胸板を思い出し、レティリエは頬を赤らめながらうつむいた。もう一度あの腕の中で彼の体温を感じたいだなんて、そんなはしたないことを思ってしまう自分が恥ずかしくてたまらない。


 グレイルの前で俯くレティリエの横では、セスがアルテーシアの前で跪き、騎士の礼を取っている。


「助けが遅くなって申し訳ありません。お怪我はありませんか?」

「え、ええ。だ、大丈夫です……」

「申し遅れました。俺はセステュ・クリスタル。王国に仕える騎士です」


 セスが胸に手を当てながらアルテーシアの前で一礼する。騎士の作法の通りに手の甲に口づけをしようと彼女の手を取るが、その瞬間にアルテーシアの肩がピクリと震えた。瞳に逡巡の色を宿した後、ややためらいがちにその手を引っ込める。


「助けてくださったのは感謝しています。ですが……その、顔をあげてください」


 セスを見つめるブルーグレイの瞳が細められ、声が硬質な響きを伴う。やんわりと拒絶の意思を伝えられたセスは少しショックを受けながらも、「失礼いたしました」と恭しく一礼した。


 一方で、フィーネはもう既にカートにメロメロ状態だった。チョコレートで汚れた剣を拭い、しっかりと鞘に収めたカートがフィーネの手を取ってにこりと微笑む。


「助けに来ましたよ、お姫様。さぁ帰りましょう」

「あ、あの! 助けてくれてありがとうございます!」

「いいえ。これも僕達の務めですから」


 そう言ってカートが目を細める。乙女のハートを射抜くその涼しげな目元が自分を見つめていることに気づき、フィーネの心臓が大きく鼓動を打った。


(きゃーーー! もうすっごいカッコいいんだけど!!)


 どこからどう見ても完璧な王子様姿のカートに、フィーネはもうキュンキュンだった。そんな彼女の内心など知らないカートは、フィーネに優しく微笑んだ後、皆の方に向き直る。


「無事にお姫様達を助けましたし、王国に戻りましょうか」

「そうだな。とりあえずもと来た道を戻るか」


 カートの言葉にグレイルが頷く。三人の男達は、それぞれ助けた姫を守るかのように寄り添いながら出口に向かって歩いていく。三人の姫達もそれぞれの想いを胸に抱きながら、男達に連れられて城の外へと向かった。

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