クリスマス🎄パーティ(クリスマスコラボ)

第1話 パーティの始まり

 こちらの作品は、MACK様と眞城白歌様が描かれたイラストを元に書いております。

 各作者様の近況ノートにイラストが掲載されておりますので、こちらをご覧になった後にお読みください。


★MACK様の近況ノートより

https://kakuyomu.jp/users/cyocorune/news/16816700429413949622


★眞城白歌様の近況ノートより

https://kakuyomu.jp/users/Hatori/news/16816700429494733208



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 はらりはらりとクリスマスタウンに雪が降っている。星がまたたく夜空の下にお菓子のようなカントリーハウスがたくさん並び、どこの家からも明るい音楽や楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 クリスマスタウンの中に立つ、とある一件の可愛らしいカントリーハウスからも、温かい光が漏れていた。


「はい皆、ここのちょっと先が上になってる所に飾りを引っ掛けるのよ。上手にできるかしら?」

「はーい!」

「じゃあ順番こに飾ってね」

「わかったー!」


 レティリエが優しく言うと、彼女の周りを囲っている小さな子供達が元気に返事をした。それぞれ小さな手にクリスマスの飾りを持っている。子供達はレティリエに駆け寄ると、次々に彼女の着ているドレスに飾りをつけ始めた。

 今夜はクリスマスパーティだ。今レティリエが着ているのは緑色のシンプルなドレスだった。ツリーに見立てられたその緑のドレスは、子供達が飾りをつけていく度にどんどんと華やかさを増していく。子供達も、次第に出来上がっていくツリードレスにきゃっきゃと楽しそうにはしゃいでいた。

 子供達に囲まれているレティリエの姿を見て優しい気持ちになりながら、セスは彼女の近くに寄った。


「レティさん、お疲れ様です」

「あらセスくん。クリスマスの飾り付けは終わったの?」


 セスの声にレティリエがくるりと振り返り、にこりと微笑む。セスも空っぽになったダンボール箱を抱えながらにこやかに頷いた。


「はい。バッチリですよ」


 セスが指差す方を見ると、部屋はすっかりクリスマス仕様になっていた。有に百人は入りそうな大きな部屋の真ん中にはオーナメントで豪華になった大きなクリスマスツリーが据えられ、壁一面には赤と白の靴下が飾られている。天井からはキラキラのモールが垂れ下がっており、クロスがかけられたテーブルの上にはキャンドルやお菓子、ケーキが山と乗っている。

 部屋の中にはたくさんの子供達がいて、あちこちで楽しげに笑ったり歌ったりしていた。


「いや〜ほんと君達助かったよぉ。ありがとねぇ」


 セスとレティリエが優しい気持ちで子供達を見ていると、突然背後から間延びした声が聞こえた。振り向くと、子供くらいの大きさのトナカイのぬいぐるみが二足歩行でトコトコとこちらに歩いてくるのが見えた。


「あら、トナカイちゃんこんばんは」


 レティリエが声をかけると、トナカイのぬいぐるみはペコリとお辞儀をした。


「君達のおかげで今年も無事にクリスマスパーティができることになったよぉ。本当にありがとぉ」

「いいえ、これくらいお安いご用よ」

「今年は人手不足でサンタも繁忙期でさぁ。でもすごい助かったよぉ。子供達もすっごく喜んでるもん。同僚から君たちのことを聞いて声をかけてよかったぁ」

「同僚……あぁ、あのかぼちゃだね」


 トナカイの言葉を聞いて、セスは合点したように苦笑いをする。かぼちゃというのは、以前ハロウィンタウンで出会ったジャックオランタンのことだ。どうやら最近はサンタも高齢化が進み、年々すべての子供達にプレゼントを届けることが困難になっているらしい。人手不足に悩んでいたトナカイに、「ものすごく働いてくれる良い人達がいるよ」と教えてくれたのがジャックオランタンだったということだ。まるで人材会社の社員のような会話だが、ファンタジー世界にも不況の波が押し寄せているのだから仕方ない。

 そういうわけで前回ハロウィンタウンで出会ったセス達はまた別の空間へ呼び出され、ひと仕事をすることになったわけなのだ。ただ、今回の仕事はとても簡単だった。子供達の為にプレゼントを配り、楽しい時間を一緒に過ごすだけ。ノルマや課題もない為に、セス達も楽しくクリスマスのパーティーを楽しんでいるのだった。

 

 セスは手に持っているダンボール箱を床に置き、クリスマスツリーに目を向ける。ツリーの前で子供達に囲まれているのは、トナカイの格好をしたアルテーシアだった。


「じゃあ次は何のお歌が良いですか?」

「ジングルベル!」

「きよしこの夜!」

「えー! あわてんぼうのサンタクロースがいい!」


 アルテーシアの周りを囲んでいる子供達が口々にリクエストをする。アルテーシアもニコニコと笑顔でとても楽しそうだ。


「じゃあジングルベルから歌いますね」


 そう言ってアルテーシアが胸に手を当てて歌いだした。鈴の音のように美しい、よく通る歌声だ。吟遊詩人である彼女が歌うと、クリスマスソングも透き通るように滑らかに響く。

 アルテーシアが歌い終わった途端に子供達がわぁっ!と歓声をあげる。


「お姉ちゃん声綺麗〜!」

「おうたのお姉さんみたい!」

「素敵〜!」


 小さな子供達の中でも、特に女の子が憧れの眼差しでアルテーシアを見つめる。アルテーシアも子供達の頭を優しく撫でながらニコニコと笑っていた。


 はたまた別の場所では。


「黒猫サンタ、フィーネだよ! 皆メリークリスマス〜!」


 フィーネが可愛いサンタの格好で投げキッスをすると、子供達が歓声をあげる。


「フィーネちゃん可愛い〜!」

「アイドルだー!」

「AKBみたい!」


 こちらも大盛況だ。カートにヒロインの座を奪われがちだが、フィーネも本来はとびっきりの美少女だ。可愛く愛想を振りまいている姿は、子供達にもキラキラ輝いて見えるらしい。フィーネも彼らの声援に答えるかのように次々とポージングを決めていく。だが、少しだけ調子にのった為かフィーネが勢いよくポーズをつけた途端、つるりと足を滑らせてしまった。


「きゃっ!」


 小さな悲鳴と共に彼女の体がぐらりと傾く。だが、フィーネの体が床にうちつけられることはなかった。


「大丈夫? フィーネ」


 フィーネを横抱きにして受け止めたのはカートだった。フィーネがハッとして上を向くと、明るい空色の瞳と視線が合う。カートがフィーネを見て優しく微笑み、フィーネの「カート大好きメーター」がぎゅぅぅぅぅんと跳ね上がった。


「すごーい! かっこいい」

「王子様みたいー!」

「私もやってほしい」


 主に女の子達がうっとりしながらカートを見る。トナカイの格好をしているし、ホットポンツからは生足が覗いているが、今のカートはどこからどう見てもかっこいい王子様だ。もう一回やって!とおねだりする子供達に、フィーネとカートもサービス精神旺盛で答えていた。



 一方、別の場所では。


「可愛い…」

「可愛い…」


 部屋の隅で飾り付けをしていた黒髪金目コンビが、作業の手をとめてうっとりした顔で一点を見つめていた。グレイルとピアだ。グレイルの視線の先には、笑顔で上手に子供達の相手をするレティリエがいた。


「ああ、確かに可愛いな」


 つと目を横にそらすと、グレイルの隣にいるピアも同じ方向をじっと見ていた。その目は眩しそうに細められている。彼もレティリエの美貌に見惚れているのだと思い、グレイルは内心で誇らしくなった。


「おお! お前もわかってくれるのか!」

「当たり前じゃないか。今日の衣装もよく似合ってる」


 そう言ってピアがレティリエ……ではなく、隣りで彼女と話しているカートを熱っぽく見つめる。


「スタイルも良いしな」


 ピアがカートの太ももをガン見しながらうっとりと言う。


「わかるか! 俺も常々そう思ってるんだよ!」


 グレイルがレティリエのふっくらした胸元を見ながら言う。


 その時、わーきゃー騒ぎながら子供達が二人に駆け寄り、カートとレティリエに飛びついた。いたずらっ子の男の子がカートのトナカイの被り物をエイっと引っ張ると、むき出しの白い肩が露わになり、あまえんぼの女の子がレティリエに抱きついて胸元に顔を埋める。カートが恥ずかしそうに顔を赤らめ、レティリエが優しく女の子を撫でた。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 あまりの尊さにグレイルとピアは共に地面に転がって悶絶した。


「見たか!? なんて美しいんだ! ヴィーナスの化身かと思ったぞ!(レティが)」

「君もわかってくれるか! もはや神に愛されて生まれてきたと言っても過言ではないほどの尊さだ! あんな可愛い子は他にいないぞ!(カートが)」

「お前は話がわかるな! 今度あの美しさについて語ろうじゃないか!(レティの)」

「もちろんだとも! ボクは多分あの可愛さについて一晩中語れると思う。(カートの)」

「お前に出会えて良かったぞ!」

「ボクもだ!」


 お互いがお互いのパートナーを褒めてくれているのだと勘違いしている幸せな二人は、ガシッと固く手を握りあった。



 そしてまたまた別の場所では。


「セス、お疲れ様です。少し休憩をしたらどうですか?」


 声をかけられ、セスが振り向くとそこにはトナカイの衣装を着たアルテーシアがいた。きゅっとしまった細い腰と、服の間からチラリと見えるおへそがなんともセクシーだ。前回のハロウィンの衣装も愛らしかったが、今回のトナカイも抜群の可愛さだった。


「う、うん……そうするよ」

「はい、ジュースです。どうぞ」


 アルテーシアが渡すジュースを受け取り、二人並んで椅子に座る。普段の清楚な格好をしているアルテーシアとは違って、控えめながらも所々に露出のある服を着ていると思うとドキドキして隣を見ることができなかった。アルテーシアはジュースを飲みながらにこやかに子供達を見つめている。セスは横目でアルテーシアを見ると、ぐっと両の拳を握った。


「あの、アルテーシア……」

「はい、なんですか?」

「あ、いや……なんでもないよ、ごめん」


 微笑みながら小首を傾げるアルテーシアを見てしまうと、その後の言葉が続かなかった。本当はもっと素直に自分の気持ちを伝えたいのだが、まだ付き合ったばかりの自分には難易度が高すぎる。そんな自分に情けなさを感じながらも、セスはアルテーシアのブルーグレイの瞳を見つめた。


「あの……さっきの歌、すごく綺麗だったよ」

「本当ですか? 嬉しいです!」

「うん、やっぱり吟遊詩人だね。声がすごく澄んでた」


 やっとのことで言葉を絞り出すと、アルテーシアがふふっと嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。この世界には、輝帝国やエルデ・ラオには無い歌がたくさんあるんですよ。私も色々と歌ってみたくなりました」

「あ、ああ。俺もいくつか聞いたよ。西野カナとか大塚愛とか、可愛い曲が多いね」


 言いながらセスもこの世界に来てから曲をいくつか思い出す。中でも西野カナの『トリセツ』はすごく良かった。結婚する男性に向けて「私の扱い方を覚えてね」と甘えるような歌詞が女の子らしく、これをアルテーシアに歌ってもらった日には可愛すぎて自分が自分ではいられなくなってしまうかもしれない。

 そんなことを思いながらアルテーシアの方を見る。


「ルシアはこういうの歌いたいって思ったのとかある?」

「そうですねぇ……」


 人差し指を唇に当てながらアルテーシアがこてんと可愛く首を傾げる。


「X JAPANの『紅』とかカッコよかったですね。あとマキシマムザホルモンの『爪爪爪』とかも興味があります」

「え゛っ!!」


 思わず濁音で叫んでしまった。まさか彼女の口からゴリゴリのロックやヘビーメタルの名前が出てくると思わなかった。いやまってくれ、デスメタルを歌う吟遊詩人ってなんだ。ヘドバンするルシアが頭の中に浮かびそうになり、慌ててシッポに頬釣りする愛らしいルシアのイメージで上書きする。あぁ〜〜ルシアはやっぱり可愛いな〜〜!!


「ふふ、冗談ですよ」


 アルテーシアがオロオロと慌てるセスを見て、いたずらっぽく微笑んだ。その愛らしい笑みが嘘でないことを願いたい。


「だ、だよね。ルシアも冗談なんて言うんだね」

「ええ。さっきの歌は喉が痛くなりそうですし。少なくとも吟遊詩人をやっているうちは無理ですから」

「え゛っ」


 では吟遊詩人を引退したら歌う気はあるのか。本日二度目の濁点が出たが、もうセスは聞かなかったことにした。


※※※


「皆お疲れ様だよぉ。子供達は皆帰ったよぉ」


 間延びした声が部屋に響き、トナカイのぬいぐるみがテコテコとこちらに歩いてきた。夜も遅くなるにつれてひとり、またひとりと子供達が帰っていき、広い部屋には手伝いにきた三組だけが残っていた。


「ここからはパーティーだよぉ。今日一日働いてくれてありがとぉ。いっぱい食べたり飲んだりしてねぇ」


 そう言ってトナカイが手に持っているベルをリンリンと鳴らすと、テーブルの上に山盛りのクリスマスディナーが現れる。巨大なローストチキンに彩り鮮やかなサラダ、キッシュに真っ白なクリスマスケーキ。山盛りのチョコレート。思わぬご褒美に皆目を輝かせた。


「大人組にはお酒もあるよぉ。未成年はジュースねぇ。じゃあ帰る時間になるまで楽しんでぇ」


 トナカイのぬいぐるみはそう言うと、テコテコと歩いて建物を出た。

 外は一面の雪景色だった。真っ白な雪と家々から漏れる温かい光がクリスマスタウンを彩っている。トナカイは家に帰るためにサクサクと雪を踏みながら歩いていたが、やがてはたと足を止めた。


「あっ。さっきのチョコレート。もしかしたらチョコレートボンボンだったかもぉ」


 ポツリと呟く。だが「まぁいいや」と気持ちを切り替えると、トナカイは雪の中をテコテコ歩いていった。

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