第2話 僕らの憂鬱
昼下がりに目にしたのは彼女の誘惑。
彼女っていうのは、僕の彼女。正真正銘、彼女なのだ。じゃあ、君に誘惑を仕掛けてきたんだろう、と思うけど、違うよ。僕じゃない。
「さあ、もう寝てしまおうよ。」
呟くのは幼い日の僕。
「・・・・・・。」
こうやって何も答えないのは由里子だけだ。
僕が何を話しかけても彼女は答えない。だから僕はきっと彼女の特別なんだと思い込む。理由も分からないのに、僕は思い込むのだ。
助けてほしいとか淋しいとか、そんなことを呟くのはいつも
僕たちは三人で一つだった。
僕の役目はふがいない奴。何もできなくて面倒くさがりで、おどけて見せるだけ。でもそれが仕事だと認識しているから、止めることはない。
だがほかの二人、由里子と樹生はただ漠然と無意識に役割を演じているみたいだ。由里子はただ黙って、黙って、黙りこくる。まあ僕に対してだけなんだけどね。つまり普段は、しっかり者ってことなんだ。そして樹生はすかしている。いけ好かない。大体イケメンだし。でも客観的にみるとイケメン、という役割を担っている。
僕は認識している。はっきりとわかっているつもりだ。僕たちは役割を与えられているって。三人で一つ、そういう役割を。
ほの暗い洞窟のような場所で自給自足。それが僕らに与えられた役割。そして、仕事ということになる。
なぜそうなったのかは分からない。ただ気付いたらこうなのだ。
誰かが呟く。
「なぜ?」って。「なぜ?」「なぜ?」
繰り返されるその呟きは、ただ漠然と皆の間に広がっていく。
言ったよね。僕らは三人で一つだって。
だから、なぜ?
なぜ、樹生と由里子がキスしているのか。
幼いころには感じなかったこと。僕らは人間だから、大人にならざるを得ない。そして置いてきた過去の僕らを壊す。
はっきりとした感覚はなかったの。
ただ気付いたら、樹生は死んでいた。なぜだかは全く分からない。私には全く分からない。
透明な衣装を身にまとって、一心不乱に泳いでいる。ひどく焦っているようだ。
「バシャバシャ」
水をかき上げながら、岸にたどり着く。
ここは、あそこではない。確信する。
私たちをずっと閉じ込めていた、摩天楼とでもいうべきか。ここは。
煌々と光る街を眺めながら、由里子の目は輝く。これまでに感じたことがないほど、爛々と火照る。真っ赤に染まったその顔のまま突き進む。大丈夫。私は大丈夫。飛び跳ねるような心地を鎮めよう。そうやって、たどり着いた。
「お嬢さん、どうしたの?」
知らない男に話しかけられた。彼の眼は語る。
恐怖の色を。
そのまま何人かの男に取り押さえられ、私はどこかへ連れていかれた。
鏡を見つける。
そこにうつるのは、全身を血に染めたいかれたおばさんだったのだ。
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