隕石

@rabbit090

第1話 気まぐれの雨

 ひっそりとしたカフェでひとりカフェラテをたしなむ。

 私にとっては、嗜む、なのだ。カフェラテはおいしい。というかコーヒー類はカフェラテしか飲めない。だっておいしくないじゃん!と思う。

 甘いものしか受け入れられない。私の心は辛口で、どうやら人を信頼できない。こんな性格のままではよくないと分かりながらも、一人読書にふける。

 偶然町の中で誰かに出会う。そんなことを期待しながら一向に何も起こらない。ひどく退屈で、ひどく虚しい。でもそんなことは今まで繰り返してきたから、きっと私は何かを新しく始めないといけないのだ。

 何者にもなれない。そう悟ったのは最近のことで、でも何かをしないと苦しくなる。そう思って手を染めてしまった。

 私に似つかわしくないとは重々承知だ。けれどもう戻れない。私、尻田真雪じりたまゆきは麻薬の密売人になった。

 30歳。もうそんな年齢になってしまった。無駄に重ねた時間を日々後悔している。というか、もうどこにも行けないようにもどかしい。こうやって毎日、ダメな自分を認識せざるを得ない。

 やるべきことははっきりとわかっている。というかわかってしまった。だけどだれにも頼れない事情があって、こうしている。そんなことは誰にも伝わらないし、伝わってほしいとは思うけど、別にいいかなとも思う。

 ただ町の名中で居心地の悪さを感じていて、私の居場所はないという風に突き付けられている。だから魅かれてしまったのだ。あの彫刻のような美女に。

 ただ立っているだけで美しい。私の好みのみめカタチ。だが彼女は、タバコを吸っていた。私がこの世で最も嫌悪しているもの。私の母親が身につけて離せなかったあのタバコ。

 なんであんなに美しくて若い女の子があんなものを身につけているの?誰?あの子にあれを渡したのは?自分でも不思議なくらいふつふつと湧いてくる感情に驚きつつも抑えられない。

 「貸しなさい!」私はタバコを奪い取る。

 彼女は、驚いた顔で言う。「これ、タバコじゃないですよ。」

 「麻薬だから。」

 なんだか不敵な笑みってやつを、ドラマとか映画以外で初めて見た気がした。でももう遅かった。気付いたら、何だろう。

 私は麻薬の密売人として、毎日目覚めている。

 どうしてこなったのか、なんて物語の主人公みたいなこと言ってみるけど、ただそうなったとしか言えないのだ。きっときっかけなんてそういうもので、私は何かの本質を知りたいと切に願う。

 幼いころの悲しかった記憶、走馬灯のように回っている。だけどこれは走馬灯じゃない、はっきりとした幻覚だ。幻覚なのに、どうして?悲しかった記憶なんて思い出したくない。はずなのに私はただ自分の胸を締め付ける。

 大したことない、そう言い聞かせて眠ったはずなのにどうしてこんなにぐちゃぐちゃしているの?

 ねえ、何で?

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