ものいい

 三年前のことだった。当時、マイはまだ力士を自称するようになっていなかったが、拒食症をこじらせて生理が止まり、入院していた。危うく命を落とす瀬戸際だった、と医者には言われた。


 俺はマイの見舞いに行き、個室のテレビを付けた。たまたま、相撲をやっていた。


「大関高安、御嶽海に破れて土! この瞬間、小結貴景勝の初優勝が決まりました!」


 だそうだ。


「力士ってさ。みんな太ってるけど、あれは太っててもいいんだよね」

「そうだな。マイも、元気になるためには、少しは肉を付けなくちゃな」

「ふじくんは、あたしが力士みたいになったら嬉しい?」

「はは。そうだな、こんな風に入院しているよりは、マイが元気にまわしでも締めて、土俵に上がって相撲を取ってる姿を見る方がいいかもな」

「分かった。じゃあそうする」

「は?」

「あたし、力士になる。ううん、今からあたしは力士。だから、ごはん、ううん、ちゃんこを食べるの。……どすこい」


 このときが、マイが語尾にどすこいと付けるようになったその初めだった。

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