第39話 確信

 暗闇の中寝床についたところで、玲はふと気配を感じた。今までに感じたことのない、どろどろとした粘着質な気配だ。人か悪鬼かも即座に判別が付かなかったが、悪鬼ではなさそうだ、と玲は感じた。はっと上半身を起こす。

「ねえ、五山」

 五山の目は開いていた。すぐさま身体を起こし、辺りに注意を向ける。玲が戸口を指差すと、五山は刀を握り外の様子を伺った。鋭い視線が闇を突き刺す。気配は、しだいに近付いて来た。五山にもはっきりと分かったようで、「こんな時間に何の用でしょうか」と低く言う。

「多分人だよ。すごく嫌な感じ。五山反対派かな?」

「迷惑な話です。ずいぶんと殺気立っているじゃないですか」

「五山、どうする?」

 玲が問いかければ、五山は言った。

「逃げなさい」

「……十六人だよ」

 目を閉じた玲が数えるのは、遠くで聞こえる足音だ。ここまで明確に分かるのは、玲が玲たる所以である。

「それくらいなら問題ありません。玲が人質に取られることが、一番の問題です」

 玲はあっさりと頷いた。戦いの場で、玲が出来ることはないと理解しているのだ。

「じゃあ、子龍のとこに行ってくる。事情を話せば、応援に来てくれるよ」

「必要ありません。その頃には全て片付いていますよ」

「往復で二十分くらいだと思うけど」

「十分で片付きます」

 いつもの調子の五山に、玲は薄く微笑んだ。いくら襲ってくる彼らが刀の使い手であっても、十六人程度の人間に五山が負けるわけがないと知っていた。玲はこっそりと家を出ると、田郷の屋敷へ走った。五山なら心配ないと知っていても、早く知らせたいという気持ちが前面に出たのだ。屋敷に着き、玲が大声で喚き立てると、子龍が驚いた様子で出て来た。元治は怒りながら、「またお前か」と子龍の隣に立っている。彼らの環境は随分と変わったが、二人の関係性は以前よりも良好なようだ。玲が急いで説明をすると、子龍はすぐに「行く」と言った。元治もつられるようにして頷いたので、玲は「いらない」と断ったが、子龍に宥められ、三人は走って家へ向かった。

 玲は、気持ちがしだいにざわつくのを感じた。五山が人間にやられるとは思わないが、嫌な気配がしだいに増していく。玲はこの先に、大勢の気配を感じた。十六人だった奴らは、今では倍にまで増えている。

 玲ははっと青ざめ確信した。

 五山を悪の根源だと信じる奴らは、仁のいない機会を狙い、五山の命を奪おうとしている。

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