第31話 捜索

 あくる日から、武智五山の捜索が開始された。悪鬼の血を浴びたとして、要注意人物に指定されたのだ。悪鬼の血を浴びたら悪鬼になるなんてものはただの噂であったが、噂が真実として語られることは往々にしてある。仁のように賞金が出るわけではなかったが、五山の似顔絵はあちらこちらに配られた。見た人は、情報を提供しろというわけである。

 それにより、五山たちは不自由な生活を強いられた。以前から彼らは転々と各地を移動して暮らしていたが、指名手配された今の生活は、さらに不安定だ。身を隠しながら移動を繰り返し、気の休まる時はない。二人は言葉少なに身を寄せ合って夜を過ごした。五山は眠らない夜が続いた。いくら五山でも、ずっと眠らずにい続けるのは無理だ。それでも、捕まるわけにはいかないと、五山は緊張を保ち続けた。捕まれば、五山が何よりも愛する自由がなくなってしまう。二人はひっそりと暮らした。

 仁がどうなったか、ある時二人は身を隠しながら情報を得た。立ち寄った町で、「黒塚仁が殺されたぞ!」と歓喜の声を上げる人々を見たのだ。

「やったのは田郷元治らしい」

「やっぱり、あの人はやってくれると思ってたわ。一番強いんでしょう?」

「一番は武智五山だろう。でも、奴は悪鬼になったから……じゃあ一番は、やっぱり田郷元治になるか」

「いやいや、悪鬼にはなってないだろ? 悪鬼の血を浴びたんだっけ?」

「そうそう。悪鬼の血を浴びると悪鬼になるらしい。奴は自分の強さを過信してたから、自業自得だよ。次は武智五山が殺される番だな。田郷元治には頑張ってほしいよ」

 立ち止まることなく話を聞いていた玲は、うつむいて唇を噛み締めた。

 あの時の自分の選択が正しいものだったのか、自問自答しているのだ。玲だって、子龍が元治に逆らえないことは知っていたし、あの場で逃げれば仁が殺される可能性があることを知っていた。それでも、玲は選んだのだ。

 五山は顔を伏せ、足を速めた。

 仁は死んだ。何が正しかったのか、二人には何も分からなかった。

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