第24話 天性
退治後、五山はすぐに二人を追った。いったいどこまで逃げたのか見当も付かないほどだったが、しばらく走ると微かな笑い声が聞こえた。五山がやって来ると、二人はけらけらと笑っていて、玲は「私より早い!」とずいぶん興奮していた。仁は、逃げ足の速い玲よりもさらに足が速かったのである。神業と呼ぶべき所業に、仁は「とんでもない」と首を振っていた。
仁は五山に気付くと頭を下げ、「お疲れ様でした」と挨拶をする。仁を見るや否や、五山はにたりと爽やかではない笑みを浮かべた。
「その脚はいったいどこで手に入れたんですか?」
「脚ですか?」
その速さの秘密を探るべく、五山は単刀直入に訊く。手に入れたも何も、もともと持って生まれて来たものなので、仁は返答に詰まった。玲はけらけらと笑っている。
「凄まじい速さですよ。御見それしました。なるほど、その脚ならば誰にも捕まらずにいられるわけですね。よく分かりましたよ。仁なら、僕たちがいなくても生き延びられそうです」
「まさか! もし私の足が速くても、ろくに食べずろくに眠れないままだったら、体力が落ちて走れなくなります。五山さんたちのおかげで、私はここにいるんです」
「別に、仁を追いやろうなんて気持ちはありませんよ。しかしその速さは良いですね。実に良い。気配に聡くなくても、これはこれで良いじゃないですか」
五山の機嫌は良かった。五山は真剣に、仁へ足が速くなる方法を訊いたが、仁は困ったように微笑むばかりだった。五山に「良い」と言われたことが、とても嬉しかったらしい。練習をしたわけでもなく、普通に生活しているだけなので分からないと言うその表情は、頬が赤らみ活気に溢れている。仁の足の速さは、天性のもののようであった。しかし五山は諦めず、たびたび仁へ「走って欲しい」とせがむようになった。走る時の姿勢や手の振り方などを確認し、速さの秘密を探ろうというわけだ。仁はいつだって、快く了承した。どこか嬉しそうな表情でもあった。邪魔にならないどころか、役に立てる機会を得て、気分はぐっと上向きになったようだ。時折三人並んで競争をすることもあったが、仁の速さはまるで人外だった。仁と玲の後ろを走る五山は、決して足が遅いわけではないが、二人があまりに溌剌と走るため、「何ででしょう」と頭を抱えることもしばしばあった。五山は強いが、足の速さでは二人には勝てないのである。
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