第12話 直観

「それにしても、探すのは大変だよ。私の直観力を持ってしても、そう簡単に見つかるもんじゃないね」

「玲はいつもそう言って、簡単に見つけてしまうんですから信用ならないんです」

「何だと?」

「だって、そうでしょう」

「褒めるのなら、もっと分かりやすく褒めてよ」

「じゃあ、もし僕が玲を褒めたら、玲はどうするんですか」

「え? あーでも、褒められるのも良いけど、何か欲しいかも」

「花より団子ですよね」

 五山は言うと、その場でしゃがみ込んだ。この先、道は三つに分かれている。

 吟味するように考え込むと、「あっち」と五山は真ん中の道を指差した。

「僕はあっちが匂いますが、玲はどうですか?」

 今、二人が探すべきは、あの女性の夫である。単純に、悪鬼の気配を追えば良いわけではない。難題に、玲はあっさりと答えを出した。

「やっぱり私たちって気が合わないね。私は完全に右と見た」

「じゃ、右で」

 五山はあっさりと言うと、玲を連れて右の道を歩き出した。

 玲の察知能力を会得したいのか、五山はよくこういうことをするが、あまり意味はないようだった。玲の能力は特殊なもので、悪鬼に出会い瀕死状態になった以降に会得したものだ。五山であっても、真似出来るようなものではない。しかし、五山は諦めるということをしないのだ。分かれ道に出会うたび、二人はそんな問答を繰り返しひたすら歩いた。食事をし、暗くなると野宿をした。朝になるとまた玲を頼りに歩き出す。昼に差し掛かった頃、玲は「近いよ」と確信して言った。

「その心は?」

「匂いがする。あの人が持ってたお香だよ」

 玲はくん、と鼻を動かした。五山も同じようにするが、何の匂いもしないと首を振る。「悪鬼の気配もするから、絶対そうだよ。良かったね、引きちぎってはいないみたい」

「では、ここから先は僕が一人で行きます。玲は適当なところで待っていて下さい」

「大丈夫?」

 玲の言葉に、五山は心外だという顔になる。

「当然。僕がやられると思ってるんですか?」

「違うよ。ちゃんと分かるかなって思って」

「ああ、そっちですか。この先、真っ直ぐですよね。なら大丈夫です」

 五山はそれだけ言うと、玲を置いてさっさと歩いて行く。玲は背中を見送ると、「さっきの木の下にいるからねー!」と叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る