*第92話 禁じ手

ジャニスがダモンの地で暮らすようになってから2年が過ぎた。

オバルト王家は相変わらずにジャニスを寄越せの一点張りだ。


当然ながらお断りだ!


王都のレイサン邸はぐるりと柵で囲まれ、出入りが禁止された。

コブシ歌劇団にも圧力が掛けられて、アルサラーラは退団を余儀なくされた。


また、ダモン家はログアード辺境伯の爵位を剥奪されて、

新しい領主として第二王子のロンミルが辺境伯に任ぜられたが、

赴任は出来る筈も無い。

そもそもダモンの地は王家の所有では無いのだ。


北方ラーアギル山脈に住まう戦闘民族ダモン。

彼らの武力を欲したオバルト王国は、

王家との婚姻によって併合する事を提案した。


400年前の事である。


それを受け入れたダモンはログアード領となり、

辺境伯を徐爵されたのだ。

剥奪されたからと言って惜しくは無い。


国境には王国軍一個師団が配置され、街道は封鎖された。

同盟関係は崩れ去った。


ジャニスは泣きながら

「どうか私を差し出して下さい。」

と懇願したが、

其方そなたを差し出せばダモンの誇りを失う事になる。

それは死よりも恐ろしいのだよ。」

とクラウスは言った。


「私の妻になっておくれ。」

とクラウスは言った。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16818093075797155019


ダモンの一族もレイサン家も祝福した。

ジャニスとクラウスは夫婦となった。


***


「陛下、ご覧ください。

彼女達が、我らの救世主となる者で御座います。」


帝国軍元帥サジアン・ゲライスが得意げに研究の成果を披露する。

カヒ亡き後、ゲライス家の当主となった男だ。


バルドー帝国を訪れたオバルト王ナコルキン。

案内された軍事施設で彼は見た。


年の頃は12歳くらいだろうか。

50人の少女が整列している。

その全員が人型精霊の契約者だ。


「良き眺めであろう?」

皇帝エリトール・ガンビはご満悦だ。


「まったく同じ顔だな・・・」

「当然であろう?クローンじゃからな。」


若き日のエルサーシアと同じ顔。


バルドー帝国がやりやがった!

恐らくは若草姉妹の細胞を使ったのだろう。

単体での力は及ばないが数で勝負する算段だ。


「上手く行けば来年には100体を追加出来ます。」

「どうじゃな?これならば勝てるであろうが。」

「ちゃんと制御出来るのだろうな?」

「抜かりは無い。テロポンを使って洗脳しておるからの」


濃度を調整したテロポンと教育プログラムを駆使した洗脳で、

クローンサーシア達は忠実な戦闘兵器に育てられていた。


その瞳に光は無く。

ただ命令を聞く為だけの耳が司令官の言葉を待っていた。


「気に食わない顔だ。せいぜい殺し合うが良いわ。」


憎しみを吐き捨てて、ナコルキンはきびすを返した。

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