第三章 別れの曲
*第89話 聖女やめます!
かつては大陸一の名門として世界各国から留学生を迎え入れ、
また大聖女の出身校として隆盛を誇った王都の精霊院だが、
近年は国内の貴族と、総本山に入れなかった落選組の受け入れ先となっていた。
地元を優先する国王ナコルキンの意向により
数年前から王族と公爵家の者は総本山へは行かずに王都の精霊院に通う。
そして年が明ければ31年振りに聖女が入学する。
これを機に授業内容も総本山と同じ内容に変更された。
ジャニスがクラウスと出会ってから一年以上が過ぎたが、
あまり進展はしていない。
手紙のやり取りはしているが、たまにしか逢えない。
レイサン家からお茶会や舞踏会の招待状が送られてはいるのだが、
その度に教会が仕事を捻じ込んで来る。
明らかに妨害している。
王家も教会もジャニスとレイサン家および
ダモン家の接近を快く思っていないようだ。
精霊教会も一枚岩では無い。
エルサーシアを絶対視する聖女派と
あくまでも尊いのは精霊王ルルナであって
大聖女は契約者に過ぎないとする精霊派に分裂している。
王都の中央教会は精霊派である。
***
「どういう事ですかぁ!その日は駄目だって言いましたよねぇ!」
ジャニス付きの司教が飛び込みの用事を持ってきた。
「いやそれが、どうしてもと陛下がね。」
「私にも都合がありますよぉ~!」
「そう言わずに頼むよ。これも聖女の務め。」
また邪魔された・・・
「一体何なんですかぁ?王家からの呼び出しってぇ~」
「さぁ?私も詳しくは聞いて無いよ。」
「そんないい加減なぁ~」
「とにかく、もう決まった事だから宜しくね。」
そう言うだけ言って司教は部屋を出て行った。
「もうやだぁ~~~」
今度は逢えると思った。
断りの連絡をしなければならない。
これで3回連続でドタキャンしている。
「嫌われたらどうしよぉ~ねぇ~香子~
なんとかしてよぉ~」
「いやぁ~私に言われてもさぁ~」
「あんた精霊でしょうが~」
「精霊はサポート役なのよねぇ~
どうするかはジャニスが決めないと駄目なのよぉ~
そう言う設定なのよ~」
そうなのだ。
契約者の意思を全力で補助する。
それが精霊の存在意義だ。
その逆であってはならない。
「それが決められないから困ってるのよ~」
それでも幾つかの選択肢を示す事は可能である。
「聖女なんてものはあいつらが勝手に言ってるだけなんだからさぁ、
本当に嫌なら断っちゃえば?」
おいっ!
選択肢はどうしたっ!
まぁ確かに人型精霊との契約は聖女であるかどうかとは、
何の関係も無い。
教会が自分達の都合で聖女認定して祭り上げているだけだ。
実際、サナなんかは聖女認定される条件が揃っているが、
本人が嫌がり聖女の秘術を授かったと報告したので、
聖人となっているくらいだ。
「はぁ~でもさぁ~
王家の呼び出しを蹴ってクラウス様に逢いに行ったりなんかしたら、
却ってダモンの皆様に迷惑が掛かるわよねぇ。」
おぉ~!常識的な判断が出来るじゃないか!
どこかの大聖女様とは、えらい違いだ!
しぶしぶながら王家の呼び出しに応じて王宮にやって来た。
案内されたのは後宮パッサント宮殿。
王室のプライベートエリアだ。
何故こんな所に?
お茶会の体裁ではあるが、国王陛下と王后ビリジアンヌ
、王太子ウイリアムと王太子妃ナンシー。
そしてその嫡男カイザル。
なんだ?このメンバーは?
ジャニスはすっかり怖気づいてしまった。
「良く来てくれた聖女ジャニス。
挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16818093075442944114
無理ですよぉ~ん
「あ、あの~今日はどのような~?」
「うむ、そうじゃな。先に要件を済ませようかの。」
そう言って王は隣に目配せをした。
それを受け取ってビリジアンヌが話しを切り出す。
「貴方にはカイザルの妃になって欲しいと思っているのよ。」
「はぁ~・・・え?」
何言ってんだ?この人?
まったくの想定外の言葉にジャニスはポカァ~ンと口が開いたまま、
頭の歯車がカラカラと空回りしてしまった。
「おいっ!何をボーッとしているのだ!
私の妃にしてやると言っているのだ!
もっと喜ばぬか馬鹿者!」
「馬鹿者?」
「これカイザル。言葉が過ぎますよ。」
「ですがお祖母様!無礼なのはこやつです!」
ビリジアンヌから
ブゥ~っと膨れっ面で横を向いてしまった。
ジ~ンと
なぁ~んにも入って来ない。
気が付いたら帰りの馬車の中。
はて?
何があったのだろうか?
どうにか思い出してみる・・・
王子との婚約が内定したみたいだな・・・
誰が?
「ねえ、あれって私の事かなぁ?」
「それ以外に無いわね。」
「・・・」
その翌日、聖女ジャニスが行方不明となり、教会は大騒ぎになった。
<聖女やめます。
普通の女の子に戻りたいんです。
探さないで下さい。>
昭和のアイドルみたいな置手紙が一枚。
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