第二章 路地裏の少女

*第81話 リトル・ガール・ブルー

裏口の階段に腰かけて少女は指を数えていた。


ひとつ ふたつ みっつ よっつ いつつ

むっつ ななつ やっつ ここのつ とお


そしてまた始めから数える。

何度も繰り返し数える。

ゆっくりと、ゆっくりと、同じ数を。


決して変わった事は起こらない。

必ず同じ答えがそこに在る。

それはとても安心する。


良い事なんて無くてもいい。

悪い事が起こらないなら。


「ジャニス!」


指導員に見つかった!

そりゃ~そうだわな。

姿が見えないなと言う時、大抵は此処に居る。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16818093073321649541


「またさぼって!みんなと一緒にお稽古なさい!」


再来週末に来る聖女様の慰問に備えて、歓迎の精霊歌をみんなで歌う。

それが嫌でジャニスは練習を抜け出したのだ。


此処は労働者の町キュポーラ。

王都のすぐ隣に在る移民の多い所だ。

工房とそこで働く者達で成り立っている。


此処にも精霊教会があって、その敷地内に小さな孤児院が併設されている。

現在は5歳から10歳までの7人が暮らしている。


「歌いたくない。」

「何を言うの?貴方をお祝いする為に聖女様は来て下さるのよ!」


今年の降霊の儀で3人が成人する。

ジャニスもその一人だ。

毎年、王都近辺で新しい契約者の誕生する孤児院を

アルサラーラが慰問しているのだ。


「だって・・・」

言葉を飲み込んだ、言ってはいけない・・・


「だってじゃありません!さぁいらっしゃい!」

仕方なくジャニスは重い腰を上げた。


(だってあんな下品な歌、歌いたく無い)


それを口には出来ない。

言えば何故かと聞かれる。

意味がわかるのか?と


かなりおかしな発音だけれども、あれは間違いなく日本語だ!

それもとんでもなく下品な歌詞だ!


(あんなもの歌えるものか!)


そう彼女は転生者だ。

前世での名は加藤雪。


大富豪JP・モルガンの甥、ジョージ・デニソン・モルガンと結婚し

「日本のシンデレラ」と呼ばれたモルガンお雪。


波乱万丈の人生だった。

決してそう望んだのでは無い。

運命に逆らえなかっただけだ。


流されて、流されて、溺れないように必死に生きていただけだ。


ある日ふと気が付いた。

生まれ変わったのだと。

どうやら孤児であるらしいと。


平凡な人生とは縁が無いらしい・・・

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