*第63話 氷の抜け道

タッタッタッタッタッタッ


まだ夜明け前の暗い部屋に駆け足の音が聞こえる。

庭師が起きるには早過ぎるし通りに面しているのでも無い。


タッタッタッタッタッタッ

タッタッタッタッタッタッ


次第に近づいて来る迷い無きリズム。


タッタッタッタッタッタッ

タッタッタッタッタッタッ


ズルッ!ドテッ!

コケたっ!


し、新~聞~~~んチリ~ン チリ~ン


閉まっている筈の窓をすり抜けて、一部の新聞が飛び込んで来る。

ちょっと汚れてる・・・


ま・・・まさかこれは!


「あら、精霊新聞だわ。」

すっとルルナが拾い上げる。

不定期で送られて来る精霊界の業界新聞である。


「また何かあったのかしら?」

取り敢えずは一面のチェックである。


<デーデルン公国に聖女誕生!>

大見出しでトップを飾るに相応しい大ニュースだ!


「え!嘘でしょう?」


*************


精霊契約を行うには祭壇に立ち契約の意思を示さなければならない。

祭壇は精霊教会の管理下に在り、使用するには許可が必要である。

当然に契約の内容は登記される。


だが教会の把握していない祭壇が存在する。


北の氷の大地エギ・キキル・デアル

北極圏に位置する大陸。

その奥地、前人未到の世界でも、ひっそりと祭壇は尋ね人を待っている。


「こげな所に祭壇ばあるちゃんねぇ。それにしてん寒かぁ~。」


モコモコの防寒着を貫く寒さにデーデルン大公ドルフは辟易へきえきした。

同行させている法師の力では、この氷点下を遥かに下回る極寒に

すべも無かった。

それを思うと、まるで春のピクニックの様な軽装でこの地を闊歩かっぽした

エルサーシアの魔力が、如何に強力であるかがうかがえる。


「うふっ!まだ遠いのかな?」

「いえ、あの小山に入口が御座います。」


洞窟を発見した調査隊のかしらが答える。


「もう少しだからね。うふふふふ。」

「はい!お父様!」

「このくらい平気ですわ!お父様!」

「楽しみですわ!お父様!」

「お、おしっこ~~~!」


「まぁ!エイミーったら!」

「出かける前に済ませなさいよ!」

「その辺でしなさいな!」

「漏れる~~~!」


え~~~っと・・・

そんなこんなで、わ~わ~言うてる内に洞窟の入り口に着いた。


「なんか人ば通ったごたるね。」

洞窟自体は自然の物だが、整地されて道が出来ている。


「はい、我らが来た時にはすでに。」

「うふ!まだ新しい道だね。うふふ。」


そう!ここは以前にエルサーシア達が、

リコアリーゼの精霊契約をするために訪れた所だ。


生れたばかりでも契約が出来る事をおおやけに知られるとマズイかも?

と思ってこっそり来たのだ。

結局はバレてしまったが。

ハニーのせいで・・・


「滑るから気を付けるのだよ、うふふ。」

「はい!お父様!」


暫く進むと、つららの様な鍾乳石しょうにゅうせき

リムストーンと呼ばれる囲みに水が溜まり

棚田たなだの様に重なり合っている景色が広がる。


「うわぁ~奇麗!」

「ねぇ!ここでチラロイドしましょう!」

「お父様は真ん中ねっ!」

「うふふふ、はいはい。」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16818023211962907602


わ~わ~言いながら祭壇までやって来た。


「うふっ!さぁ、娘達よ。祭壇に登り祝詞のりとを捧げるのだよ。」

「はい!お父様!」


呪文は魔法を発動する為の依頼だが、

祝詞は精霊に捧げる賛辞さんじであると共に、

契約の意思表示となる。


『貴方と私のラブリーエンジェル!

魔法少女は俺の嫁!

月に誓ってお仕置きよ!』


四人姉妹の声がハーモニーとなり、洞窟内にこだまする。

空気そのものが光を発したかと思う程にまばゆい白に包まれる。


「はぁ~い!私リカちゃん!」

「私はイズミちゃん!」

「クルミちゃんだよぉ~!」

「吾輩はハルミちゃんであ~る!」


こんなん出ましたけどぉ~~~!


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