*第54話 引っ越しやさかい

「ちょっとぉ!どうして離宮なの?」

「アーミアの隣が良いわ!」


双子がゴネている。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330668958925015


カイエント城は元ニャートン帝国の皇宮である。

やたらと広い。

延々と続く城壁に囲われた中に幾つもの宮殿が点在している。


林には野生動物が生息し、湖にはネッシー海獣オージーが泳いでいる。


「いやあそこは本宅やさかい家族だけですねん。

おたくらは、お客さんですよってに離宮でおます。」


かつての内裏だいりを本宅として使用している。


「シモーヌだって住んでいるじゃないのっ!」

「のっ!」

うちは筆頭侍女としてええ加減にせぇよぉ~

師匠の傍に居らんとあきませんねん。ホンマ、うるさいガキんちょやなぁ~


双子の引っ越しと入学準備を仕切るようにとエルサーシアから任されたものの、

転生者では無い、言うなれば本物のお姫様の相手をするのは初めてだ。


なにせ大公家のお姫様なのだ。

”殿下”と呼ばれる立場だ。

男爵位であるシモーヌでは、本来なら口を利く事すらはばかられる、

雲上人なのである。


だが、長年エルサーシアと共に過ごして異常な体験を重ねて来たシモーヌは、

良い塩梅にぶっ壊れていた。


「もっと近くにも離宮が在るじゃないの!」

「どうしてこんな端っこですの!」


サラアーミアたってのお願いである。


「湖もあるし景色よろしいですやん。」

「あれは何ですの?浮かんでいるのは!」

「気になって景色どころではありませんわ!」

「あぁ、あれは師匠の契約精霊ですわ。体はデカイけど大人しいでっせ。」

「怖いのよっ!」

「アーミアは何所?連れて来なさいよっ!」


いとはんアーミアは勉強中ですわいな。」

「サラーラでも良いわっ!」

こいさんサラーラもですがな。」

「じゃぁ誰と遊ぶと言うのよっ!」

「二人で遊んだらよろしおますやん。」

「二人では海賊ごっこが出来ないでしょう!」

「しょう!」

「知らんがな!」


「あぁ~もう!うっとおしいんじゃぁ!」

シモーヌの契約精霊ヤンキーモモが切れた!


背中に”愛羅武勇”の金文字刺繍の入った特攻レディースガウンに、

ひらひらのミニスカート。

片手にステッキ代わりの竹刀と、真っ赤なゴム長靴。

コンセプトが全く分からない。

でもパンツが見えるから良しとする!


「ごちゃごちゃ言ってねぇ~で、さっさと中へ入れっ!」

「じゃぁ貴方でも良いわ!」

「貴方が海賊ねっ!」

「は?」


「私がお姫様をやるわ!」

「いやちょっと待てや!」

「では勇者は私ね!」


「きゃぁ~~~助けてぇ~~~」

「勝手に始めるな!」

「おのれっ!海賊め!」

「なんとかしてくれシモーヌ!」


後は頼んだでぇ~~~スタスタスタスタスタ~~~

「シモーヌ~~~~~!」


逃げ足上等!

オォ~!ラピーヌ~~~!


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