第二部第一章 双子襲来

*第52話 リコアリーゼの結婚

オバルト歴1553年 冬

ゴロニャートン州カイエント辺境伯領都ノーベルン

聖女一家の居城では盛大な披露宴が執り行われていた。

ニャートン王国の”元”王太子アイシュタと長女リコアリーゼの結婚披露宴だ。


”元”と言うのには理由が有る。

彼はレイサン家の婿養子になったのだ。

代わりに弟のニルボアが立太子した。

王太子が他家の婿養子になるなど、異例中の異例だ。


経緯はこうだ。

本来なら精霊院を卒業してすぐに結婚する予定だった。

ところが間際になってカルアンがゴネた。

「まだ早い!まだ子供だ!」

お前は10歳のエルサーシアと結婚したじゃないかっ!

何を言ってやがる!

自分の事は長~い梯子を登って棚に上げた。


とは言え、領主のカルアンがサインしなければ、

貴族院への届け出が出来ない。

天上から逆さ吊りにして鞭でしばきあげても頑として拒否をした。


ルルナの電撃にも耐えた。

慣れって怖ぁ~い・・・


「根性だけは大したものですね。」

「さすが私のカルアンですわ!」

何故か惚れ直してしまうエルサーシアであった。


「困りましたねぇ、どうしますか?」

「アリーゼと離れるのが嫌なのでしょう?彼方あちらから来て貰いましょう。」

「え?王太子ですよ?」

「第二王子が継げば宜しいのよ。」


良い事を思いついた!

と言わんばかりのエルサーシアである。

実は淋しかったのだ。

娘が大好き!


早速にゴリレオ王を呼び出した。

一国の王を?

そんな簡単に・・・


速攻で来た~~~

呼ばれて飛び出てジャラカジャァ~ン!

「なんね?なんね?おいに話ばあると?」

いやぁ~嬉しそうだ。


「アイシュタ殿下を婿養子に頂戴な。」

「良かばってん段取りばあるけん。」

「どのくらいかしら?」

「一年待ってつかーさい。」

「えぇ良いわよ。」


と言う訳だ。

カルアンも渋々ながら承知した。

気が変わらない内にと書類にサインさせた。

そして今年。

晴れて結婚の運びとなった。


この世界には”結婚式”が無い。

神前で愛を誓う風習が無いのだ。

それどころか”神”の概念が無い。


だって精霊が目の前にいるもの。

困った事は精霊にお願いすれば、大抵の事は解決するのだ。

”神様に祈る”なんて発想は生まれない。


人間にとって精霊は

「理由は解らないけれど人間が大好きな不思議な生き物」

と捉えている。


結婚式は無いが披露宴は開く。

大々的に執り行う。

貴族は家の威信を賭ける。

延べ五日間の大宴会だ!


「アリーゼお姉様!おめでとう御座いますわっ!」

「ますわっ!」

「有難うレイラ、ライラ。」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330668668961285


フリーデルとタチアーナの娘。

エルレイラとエルライラだ。

双子の姉妹である。

サラアーミアと同い年の11歳になる。


「あぁ~早く年が明けないかしら。」

「楽しみですわね。」

来年は彼女達も総本山の精霊院に入学する。


「まだ後陽の三週目よ。半年以上も先の話ですわよ。」

「待ちきれませんわっ!お姉様!」

「そうですわっ!お姉様!」


在学中は二人ともカイエント城に居候する事になっている。


「あら?アーミアはどこ?」

「そう言えば見て無いわね。」

獲物を探す狩人の目だ!


*******


奴らが来た!奴らが来た!

怖い!怖い!怖い!


その頃、サラアーミアは自室の衣裳部屋の隅っこでうずくまっていた。

幼い頃から苦手だった。

同じ顔に両側から挟まれて、強引に付き合わされるのだ。


「アーミア!暇でしょう?」

あうあうあうこれからお勉強

「暇よね?一緒に遊びましょう!」

うわうわうわだからお勉強

「何をして遊びましょうかしら?」

もごもごもごねぇ聞いて

「海賊ごっこが良いわ!」

ふにゃふにゃふにゃかんべんしてちょ~だい

「私は勇者様が良いわ!」

ごにゅふにゃもご私はやりたくない

「では私が海賊ね!アーミアは囚われのお姫様で良いわね!」

もひゅ~あひゅ~お母様~助けて~


返事をする隙も与えずに、勝手に結論を出して引きずり廻す。

アーミアの対人恐怖症が悪化したのは双子が原因かも知れない。

来年から一緒に暮らすなんてとても耐えられない。

どうにか回避できないだろうか?


「見ぃ~つけたぁ~~~」

「たぁ~~~」


「ぎゃぁぁぁ~~~!!!」

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