*第43話 どうにもとまらない

陸軍諜報部室長ネリオット・エースは、

一向に終息の気配が無いテロポンの蔓延に頭を悩ませていた。


供給元は壊滅かいめつした筈だ。

あれから100日以上が過ぎた。

もうすぐ年も変わる。


「そろそろ品切れにならないとおかしい。」

「事件の発生件数を見ると相変わらずです。」

主任捜査官ワイアトール・アープも首をひねる。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330667956509922


「ドコからの報告は?」

「カーランのルートは確かに止まっています。」

「宝石の中に結晶を隠すやり口だったな。」


船から降ろし、税関を通して倉庫に運ぶ。

そこで選別して闇に流す。

それがカーランルートだった。

だがそこから先が不明だ。


輸入元の宝石商はテロポン結晶の混入に関しては、

まったく知らなかった。

ただし荷受けを担当していた男が行方不明だ。

数名の作業員も同様に消えていた。


「複数ルートの一つに過ぎなかったか。」

「おそらく。」

「案外にスケープゴートだったのかも知れないな。」

「今にして思えば分かり易い状況でした。」


一国だけ被害が出ていなかったのは誘い水だったのかも知れない。


「踊らされたか・・・」

「カーランに気を取られ過ぎました。」


今頃は別のルートから大量に流入しているだろう。

してやられた。


「いっそのこと聖女殿にバルドーを潰して貰いたいのだがな。」

「聞いて呉れますかねぇ?」


バルドー帝国のゲライス家が諸悪の根源である事は判っている。

だが今は証拠が無い。


例え証拠を押さえたとしても、相手が国家である以上、

国内法は通用しない。

外交的に解決する以外には収束しないのだ。


しかし聖女なら一気に解決が出来る。


天下御免の向こう傷!パッ!!

大聖女エルサーシア!

人呼んで、嫌々面倒くさい女であ~る。


前回はたまたま身内に害が及んだから動いたが、

そうでなければ知った事では無い。

先の大戦で活躍したのも別に国の為ではない。

実家のダモン家が参戦したから、さっさと終わらせようとしただけだ。


「またターラム大公にお願いしてはどうだろうか?」

「いやぁ~それは・・・」


「何か問題か?」

「もし断られたらメンツが潰れますよ。」

「あぁ~それもそうかぁ。」


「どうしたものかなぁ~」


*********


凍てついた地面を覆う分厚い雪の層。

その表面をう様に積雪の音が漂う。


雪は音を食べながら降る。

そして落ちた時に小さく溜息をつく。

はぁ~と抑揚の無い溜息の群れ。


そんな鬱々うつうつとした冬の山間やまあいに、

もうもうと蒸気が立ち昇っている。


温泉だ!

硫黄の匂いが立ち込める。


所々にある湧出口には何本もの配管が設置されている。

それはやや離れた所にある施設に引き込まれている。


高さは低いが、結構な長さだ。

十棟ほどが並んでいる。


「順調に生育しておるな。」

「うむ、年明けには収穫が出来るだろう。」

「ここで採れたものが一番に質が良い。温泉の効果かの?」

「さもあらん。」


作物の生育状況を確認する二人の男。

一人はカヒ・ゲライス。

もう一人もそれ相当の身分だと思われる。


施設の中では麻黄が栽培されている。

ここだけでは無い。

他にも数か所の栽培地がある。

本命は此処だ!


何所だ?

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