鉄拳、或いはロケットパンチ
「皇族のガキぃ!」
空気を裂く鉄拳。ブーストナックル。
文字通りの鉄の拳。本来であれば怖いものだが、ビームに比べれば恐れるに足りない。
とはいえ、何時の間にやら術者の姿がない。コクピットにでも逃げられたか。
確かにおれは今よりも強いゲーム本編のおれと攻撃防御はそう変わらないと言った。だが、それ以外のステータスまでも同じだと言った覚えはない。
非常に巨大、そして動きそのものは鈍重。それが一般的なゴーレムというものだ。確かに鉄拳を受ければ3発で死ぬだろう。ビームと鉄拳コンビネーションでもまた。だが、そんなもの。
「当たると、思うな!」
振り下ろされる拳の前で急制動、インパクト点をずらし、勢いを殺すように、その鉄の拳に手をついて前転。ゴーレムの腕の上に乗り、そのまま駆け登る。
「なっ!?」
腕は横へ。振り落とそうというのだろうが……
そもそも鉄拳だけはスローモーションかという鈍重な動きにならないように腕にブースターをつけて、その加速で当てにいくほどに元々の動きはノロい。
単なる基本動力だけでの横振りなど、ノロマすぎて振り落とされる謂れはない!
今更な行動のうちに、頭上まで辿り着き、
「りゃぁぁっ!」
鉄棒を、光へ向けて突き下ろす!
ガキン、鈍い音。
「っと、堅い!」
しっかりとコアらしき蒼い光に当てた。だが、ロクなダメージはない。
……いや、僅かにヒビは入ったようだ。蒼い光が、漏れ始めて……
「っと!危ない危ない」
そのまま、背後に飛び降りる。後ろに土を巻き上げて蹴ってくる足はそのままステップで避け(所詮は勘によるめくら蹴り、そうそう当たる軌道でもない)、見守る。
一拍の呼吸を置いて、ゴーレムの頭が上を向く。そこから、蒼い光が天へと向けて走った。
多分魔力コアをやれただろう。ビーム撃つためには、動力コアをある程度剥き出しにする必要がある。だから、行けると思ったのだ。
致命必殺、どうしようもない弱点を抜く、防御無視の切り札。
……だが
鈍い音とともに、鉄の巨人の腕が上がる。
「生きてるか」
コアは上段から打ち抜いたはずだ。だが、動くということは一つでは無かったのだろう。だが、構わない。とりあえず、ビームは潰した。
「ビーム発射口か。
それで、次はどうするってんだ皇族さんよぉ!」
「さあ、どうしようか」
どうしようもない、というのが答えだが、そんなことは言わず。
言ってしまえば、どうしようもなくなるのは此方だ。
そうだ、おれは弱い。一年も、だ。あの日から一年もあったのだ。だというのに、6歳にもなって、鈍重なアイアンゴーレムの一機"程度"に苦戦するなんぞ、おれしか有り得ない。
だからこそ、そんな事実はおくびにも出さず、笑って見せる。その笑顔がちょっとひきつってたのは許してほしい。そこまでポーカーフェイスは出来ない。
あと、致命必殺が通りそうな場所は……と、挑発しながら周囲を回り、確認。
無さげだ。ビーム発射用に半分剥き出しになっていたあそこは兎も角、他はしっかりとした鉄製、それも魔法で錬成を繰り返した鋼だ。適当に整形した鉄格子の鉄とはモノが違う。素材は不純物がどれくらいなのか程度の差なんだが。
「……勿体無い。
ああ勿体無いなぁ」
「……何が言いたいのやら」
「商品を」
その瞬間、地を駆ける。
どうにも止められる物ではないから、ゴーレムに背を向け、
「殺さなきゃいけないなんてよぉぉっ!」
「アナ!」
間一髪、動けなかった少女を突き飛ばす。
その直後、ゴーレムの腕から、文字通りブースターで"飛んできた"鉄拳が、ついさっきまで少女が居て、今はおれが居る空間を突き抜けた。
「かはっ」
ギリギリで体は捻れた。背中にモロに食らうという
だが、ダメージは大きい。誰だよ当たると思うなとかほざいたの。
おれだけど。
「っ痛ってぇな」
肋骨折れたかもしれない。逆に言えば、痛みを堪えれば動ける程度の怪我という。師にとりあえずアレ倒してこいと数匹の土着のケダモノ相手にさせられた時の方がまだヤバかった。
流石に化け狐猪数匹と群れ長のオーガって六歳にぶつける群れじゃなかったと思うんだ、師匠。それくらいに勝てなきゃ皇族失格なのは確かだけどさ。
「お、皇子さま!?」
「伏せてろ、アナ!帰りが来るぞ!」
「皇子さまは」
「まずは誰を捨てても自分が生きることを考えるんだ、アナ!」
ロケットパンチ。ブースターで飛翔する鉄拳は、来た道を帰るようにして飛来。
流石に見えていれば楽に避けられ、アナも素直に伏せていた為普通に回避、あっちゃいけない方向に90度曲がった形で接続され、腕ごと回転して正規ポジションへ戻る。
ゴーレムなので可能な駆動ではあるのだろうが、見てて痛そう。90度は曲がらない方向に曲がってるぞその肘。
「おいゼノ!」
「あと一、二発はいけるな」
いや、凄く痛い。強がれる程度ってだけ。
つまりは、まあ、まだバカ言える程度には死にかけから遠いって事で。ただ、今のままでは死ぬのも時間の問題だった。
「エッケハルト、ちょっと前の言葉とは変わるけどさ。
アナを連れて逃げられるか?」
「時間を稼がれれば」
「待ってた答えだ」
「良いのかよ」
揺れる蒼炎の瞳。
「死にたくなんて無い。
でもまあ、誰か助けられたってなら、同じ死ぬならまだマシかなって」
痛む腹はおいておき、突き込んだ際に更に曲がった使えない鉄棒をゴーレムへと突きつける。
「はは!所詮、皇族といえど魔法さえ無ければこんなもの!」
「いや?親父なら素手でそのゴーレムくらい倒すぞ?」
「は?」
「残念だ。
刀さえあれば、おれもその木偶を切り刻んでやったのに」
エッケハルト等との距離はそこそこあった。その距離を届くような声で逃げろと言ったのは聞かれているに決まっている。
だからこそ、必死に口を開き、その鋼鉄の足を止める。
「なにぃ?
皇族のガキィ、貴様が、武器でこのゴーレムを倒すだとぉ?」
「倒すさ
刀一本で十分だ。魔法なんぞ、必要ない」
必要があっても使えないのだが、そんな要素は貶す為には不要なので語らない。
「やってみるか、皇族さんよぉ!」
「刀があれば、もうやってるよ」
乗ってきた。
基本、ゴーレム使いというのはプライドの塊だ。だって、自分より遥かに強いゴーレムを扱えるのだから。特定属性でなければスタートラインにすらたてず、立っても上手く魔法書を読んで使えるようになる者も少ない。
ゲーム的に言えば、ゴーレム作製関係の魔法書を使用出来る職業の素質持ちが少ない。
自分より、そして周囲より圧倒的に強い巨人を使える者は、当たり前のように選民思想に染まる。
ゴーレムは強い、多数群れて魔法を乱発しなければ、同レベルの雑魚どもは自分のゴーレムに勝てないではないか。つまり、ゴーレムを使える自分は同レベルの雑魚どもの上位者、選ばれしものなのだと。
だからこそ、挑発に弱い。てめぇのゴーレムなんぞ、一人かつ物理で十分だ、ここまでの侮辱を受けて、キレない選民思想などそうは居るものか。
「ガキィ!」
両の腕を突き出し、射出。
ダブルロケットパンチ。だが、それはどちらもおれを狙う。
そうだ、それで良い、その為におれは……
その時、空を裂く音が、耳に届いた。
「飛竜?」
空を舞う、雄大なドラゴン……というか前脚が翼と一体化しているのでワイバーン。その上に立つ、一人の男。
おれの師、レオンの師、そして、西方に伝わるという、名前の無い流派の師範。
「情けない、何をしている」
「師匠、武器がないので苦戦している、と言えば?」
「……あれば、勝てるか?」
空から落ちてくるのは、そんな言葉。
……どうやら、ワイバーンに乗って西方から帰ってきていたらしい。早いことだ。
帰りつこうかというその時、打ち上げた光を見て何事か
「……何だ、貴様!」
「勝てるか、ゼノ!」
「無論!」
「ならば、勝て!」
地上が燃える中。それでも判別のつく二本角の偉丈夫は、何でか高下駄で飛竜の背に仁王立ちしたまま。
ところでカッコつけですか、師匠。上に立つ意味ないと思うのですが。
その男は背に背負っていた一本の皮袋を抜き放ち、投げ落とす。
「やらせるかぁっ!」
鉄拳飛翔。二つのロケットパンチは、それぞれ宙に羽ばたく飛竜と、投げ落とされた皮袋を狙うように軌道を変えて飛んで行き。
「せぇいっ!」
弾かれて取りにいけないなんて起きないように、鉄棒を投擲、弾き飛ばされる前に弾き、軌道を変えて皮袋を守る。鉄拳は空しく空を切った。
「が、そっちの男はなぁぁっ!」
が、もう片方の拳はそのまま役目を果たすために飛竜へと襲い掛かり……
「やはり、か。
こんな程度に苦戦するな。名前に泥を塗る算段でもあるのか」
迅雷一閃。雷でも閃いたかという速度で光が走ったかと思えば、縦に真っ二つにされた鉄拳が、ブースターも消えて落ちてきた。
「……は?」
「首級を持ってこい。それくらいは出来るだろう?」
片腕を叩き斬られたゴーレム、というかその術者がすっとんきょうな声をあげるなか、皮袋をキャッチ。
中身は当然ながら、一本の短い刀。
「良い刀だ」
カッコつけである。見てもいないのに分かりはしない。というか刀の目利きは苦手だ。
ただ、師匠が今のおれの為にと西方の鍛冶に作らせたというおれの体格に合わせた子供のための抜刀用の刀。なまくらな訳もない!
「……見せてやるよ。
言ったはずだ、刀さえあれば、おれでも行けると。
アイアンゴーレム……その木偶、叩き斬る!」
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