その十、ロコル女将、見守るのこと
おや、エクラも仕事が始まったみたいだね。
箱抜けして日が浅いってのに、飲み込みも早いし、客足もいい。
ありゃ、モノになるねぇ。
おっと、2階の4番の部屋の呼び鈴だ。
おーい、誰か注文聞き行っとくれ! 2階の4番だ! 間違えるんじゃないよ!
しかし、ここんとこ大きい船が立て続けに入ってくるから回転がいいねぇ。部屋の空きが出ないのはいいことだけどさ。
おや、誰かと思えば、ルーアンじゃないか。
しばらく顔を見なかったけど元気だったかい? へぇ、常連さんと船旅かい、風流だねぇ。
へぇ、お客さんがねぇ。気前のいい御仁でなによりだ。この子も色々苦労してるから大切にしてやっておくれよ。売り姫が幸せになれるかどうかは常連の客人次第だからね。
幸せそうなこの娘のために酒を一本おごってやるよ。
いいっていいって、あとで持ってかせるよ。あぁ、そのまえにおあしを預かるよ。
あいよ。確かに。
おや? へぇ、あの客、ルーアンのこと抱いて登ってったよ。解ってるんだねぇ、あの子のこと。
片足のきかない売り姫なんて苦労するだけだと思ったんだけどさ。
ありゃあ、身請けするのももうじきだね。世の中も捨てたもんじゃないねぇ。
あら? 誰かと思ったらマルキムじゃないか。
どうしたんだい? 珍しいね。アタシんとこに来るなんて?
あ? あぁ、免許の更新かい。ベル、エクラ、ルーアンに――ジャニスか。
ちょうどいい、4人とも上で仕事してるよ。うまく、客ひっかけて楽しくやってるさ。
あいよ、書類だね? 預かっとくよ。連中に明日にでも病院行くように言っとくよ。
それより休んでったらどうだい? おーい、黒ワイン一杯持っておいで。
いいってことさ。あんたもたまには羽目外しなよ。頑張り過ぎだって言われてるよ?
あんたの事、アテにしている売り姫の子もいっぱい居るんだからさ。
お、ごくろうさん。そら、一杯やんな。ほろ酔いくらいなら大丈夫だろう?
はは、当然だろう? あんたとの付き合い、何年になると思ってるんだい?
あたしゃ、辻売りやってたあんたの母親の苦労もよく知ってるしさ、売り姫の世界に身をおいてる女の苦労は骨身に染みて解ってるからこの連れ込み宿もやってるんだけどさ。今の御時世、なかなかうまく行かないもんだねぇ。
ん? いやね、ちょっと頼みたいことがあってさ。うちの常連の売り姫の子が一人、顔を見なくなったんだよ。アイシャって子でね辻売りで3年目だ。仕事に慣れてきて一番危ない時期なんだよ。
そうだね、ここ半月ってとこかね。
あぁ、旅に出るとも何とも聞いてないし、他の売り姫の子に聞いても誰も知らないってんで心配なんだよ。
官憲の連中に聞いてもあいつら腰が重いだろ? アタシらが聞くより旦那方みたいなのが言ってくれる方が確実だからね。
そうさね。攫われたりしてたら事だからね頼むよ。
なんか最近、またこう云うのが多くってさぁ。ホント、隣のトルネデアスの金持ちって女をなんだと思ってるだろうね。ほら、ハーレムとかってやつ。
あぁ、アタシもそう聞いてるよ。最近、廃止になったって言われてるのは知ってるけどさ。その割にはあんまり状況が変わってないように思うんだよ。
ほんとかい? それ? 隠れハーレムねぇ、そりゃかなり厄介だねぇ。女の人生、狂わせるような極悪人なんか、見つけ次第、首はねちまえばいいんだ。男と女は助けあって生きるのが世の中だってのにさぁ。
あ、悪いね、愚痴を聞かせちまって。
おや、そろそろ行くのかい。気ぃ付けるんだよ。それじゃ、アイシャの事、くれぐれも頼んだよ。
おやおや、今度はジャニスの部屋の呼び鈴だ。
おーい! 誰か行っといで! 2階の7番だよ!
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