その九、エクラ、お客を迎えるのこと

 あのぉ、ほんとにあたしでいいんですかぁ?

 うふふ、ありがとうございます。あたしまだお外で仕事をするの慣れてないんです。


 はい、ですから粗相があるかもしれませんけど、そのときはすいませんね。

 やだ、そんな事言わないでください。恥ずかしいです。

 やだあ、もう。

 それより早速行きましょう。早く二人きりになりたいです。


 はい――、あ、あの――

 いえ、腕につかまっていいですか?

 ありがとうございます。わぁ、暖かい手してますねぇ。こう言う手で抱かれるととてもうれしいんですよね。

 うふふ、後で楽しみにしてますね。


 あ、こっちです。この路地の奥です。ほら、あそこです。


 あら、そうなんですか? あたしみたいな辻の売り姫と遊ばれるのも?

 へぇ、そうなんだ。うふふ、辻は娼館の売り姫と遊ぶのとはまた違いますから楽しんでってくださいね。

 あ、ここです。この中です。えと、ちょっと待っててくださいね。


 女将おかみさーん。居ますかぁ?

 エクラですぅ。いつものお願いしまあす。


 お客さーん。おあしの方お願いしますぅ。辻は前払いなんです。あたしじゃなくて女将おかみさんに預けてくださいね。

 すいません。箱だと後払いなんだけど辻はいろいろ違うんです。おあしについては面倒を減らすのに宿の女将おかみさんにお願いして預けるのが作法なんです。

 あぁ、それは大丈夫ですよ。追加も受け付けますから。うふふお客さんの好きな事をおっしゃってくださいな。

 はい。ありがとうございまぁす、女将おかみさん。お部屋は二階の三番ですね。じゃこれいつもの鍵ですね。はぁい。


 お待たせいたしました。さ、行きましょう。

 あ、ここ階段急ですから気をつけてくださいね。

 えぇ、あたしは辻に入ってからはいつもここで――、きゃっ!

 あ、すっ。すいません。滑っちゃった。

 やだもう、お酒こぼれてるぅ。女将おかみさーん。ここ濡れてますう。

 ごめんなさい。お怪我しませんでした?

 あの、あたしは大丈夫です。それより入りましょ。


 えっと、鍵は――、

 さ、どうぞ。とりあえず、お召し物の上着をどうぞ。お預かりします。

 お客さん。先ほどの方とはお友達なんですか? へぇ、じゃぁよくお二人で花街に?

 へぇ、おさななじみですかぁ。もしかして、お仕事もご一緒?


 あら、あちら軍人さん? お客さんは? 大学で? わぁ、頭いいんですねぇ。

 そんなこと無いですよぉ。とてもたくましいですよ。うふふ。

 さ。まずは何になさいます? お酒でもお取りしましょうか?

 はい。かしこまりました。シャンペンですね。あの――あたしもご一緒してよろしいですか?

 わぁ、ありがとうございます。じゃちょっと待っててくださいね。


 あ、これですか? この紐を引くと下の女将おかみさんのところにつながってるんです。

 あ、来ました。

 あの、シャンペン一本とグラス二つお願いします。はい。

 お客さん、すいません、酒代のおあしお願いします。はい、ありがとうございます。

 それじゃ、お酒が来るまで何かしましょうか? お体お揉みします?


 はい、わかりました。それじゃベッドへどうぞ~、お召し物脱いでくださいね。

 はい、ありがとうございます。さ、こっちに横になってください。

 さ、どうぞ――、


 うゎあ、凝ってますねぇ。学生さんにしてはずいぶんお疲れですよね。

 え、そうなんですか? 軍学校の士官さんなんですか? すごぉい。

 それじゃお疲れになるの仕方ないですよね。

 え? あのご一緒にいた方がですか? あの方が先輩?

 口うるさい先輩が一緒だと気疲れしちゃいますよね。あ、これ内緒ですよ。ふふふ。


 あ、来ました。ちょっと待っててくださいね。

 はい、ありがとうございますぅ。


 はい、お待たせしました。よく冷えてますよ。今お開けしますね。

 はい、任せてください。これでも――、っと、あれ? うんっ――

 あれ? おかしいな。ふんっ――

 だめぇ、開かないですぅ。

 はい、すいませぇん。え、ナイフですか? はい。ありますよ。ちょっとまっててくださいね。

 えっと、あ、あった。はい、どうぞ。でも、これでなにをされるんですか?

 はい――、わぁ、すごぉい。

 上手ですね。ナイフで栓を抜くなんて始めてみました。

 へぇ、学校で教わったんですか? 先輩――あの方ですか? へぇ、

 私も先輩から色々教わってるんですよね。はい、どうぞ。

 お互い頑張りましょうね。はい、それじゃ乾杯!


 ふぅ、おいしぃ。


 あら、お客さん、飲みっぷりいいんですねぇ。もう一杯飲まれます?

 はい、どうぞぉ。

 え? そうなんですか? まったく飲めなかったんですか? そうなんだぁ、そうですよね。先輩やお仲間から勧められると嫌でも飲まないといけないですよねぇ。


 わたしぃ、分かるんですそう言うの。えぇ、売り姫も箱に入って商売を覚えるのに、まず最初にお酒を覚えさせられるんです。売り姫の仕事をしていて、お客さんより先に酔いつぶれる訳にはいかないし、もしお酒を勧められてもアタシ飲めませんなんて口が裂けても言えませんから。


 だからお酒にも強くならないといけないし、酔わないように誤魔化す方法なんてものも先輩から叩き込まれるんです。

 あ、多分、飲み比べしたら勝つ自信ありますよ?

 ホントですよぅ、もしよろしければ勝負します?

 あはは、冗談ですよ。お客さんを酔いつぶれさせたら愉しんでいただけませんから。先輩からも女将さんからも、売り姫はお客さんを愉しませて笑顔になっていただくのが商売――、入ってすぐにそう教えられましたから。


 え? 売り姫の世界に入ったきっかけですか?

 つまらない話ですよ? 貧乏な田舎村で口減らしに売り飛ばされた――、ほんとよくある話です。

 え? いえいえ、そんな謝らないでください。あたしこれでも自分の仕事が好きなんですよ。それにこの仕事しているからお客さんにも会えたんですから。

 そうですよぉ。ふふっ、だから今夜はもっと愉しんでくださいな。

 さ、そろそろお召し物を脱ぎましょう。お立ちになってください。お手伝いしますね。

 わぁ、すごい筋肉ですねぇ、やっぱり軍人さんて違うなぁ。


 さ、ベッドにお座りになってくださいな。アタシも脱ぎますから。

 今夜はいっぱい楽しみましょうね。

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