第63話 絶対零度
勝算はどこにあるのか。どういう理屈か、相手は魔力を吸い取ることができるようだ。それによって、俺のループコンボが封じられてしまったわけだ。
そう考えると、基本的に一撃で勝負を決める必要がある。とはいえ、外傷は彼女の魔法で回復してしまう。
彼女に勝つために必要な条件は……。
即死させるor回復ができない状況での敗北を強制。前者はSランクのギネカを即死させるほどの超火力は用意できない。(刀での貫通すら、回復しきってしまうので俺たちにはどうにもできない)
加えて、彼女は雷龍を目覚めさせ使役していた。つまり、あの術式も彼女が生みだしたものだ。あの神域の術式を書き上げたのならば……魔法の腕も俺とは比べものにならないほどだろう。
つまり、俺の得意分野も彼女には通じない可能性が高い。
そのうえ、彼女は近接戦闘術も高い水準でこなすことができていた。隙がない。あらゆる方向性でSランクの強さを誇っていた。
付けいる隙があると言えば、俺たちに対する慢心くらい。
つまり、彼女が本気になる前に勝負を一撃で決める必要があった。それを可能にするかもしれない手札が一枚だけある。
「……」
俺は雷龍の雷を宿した宝石を見た。この宝石を活用すれば――この状況を覆すことだってできる。
「サクラ。俺に勝算がある。隙を作ってくれないか?」
「――かなり難しいオーダーですけど、ここでそれができないとまたクラノスさんにバカにされちゃいますもんね。やってやります!」
拳を握ってサクラは頷いた。頼もしい反骨精神だ。
「作戦会議は終わった? 何をしても意味はないと思うけれど……うん、でもまぁ足掻くのは大事だし、諦められたら面白くないからね」
地面を蹴り、サクラが疾走。俺はそれに続き、彼女の背を追った。
刀を翻して、ギネカに斬りかかる。ひらり、ひらりとギネカは紙一重でサクラの斬撃を回避していくが、その回避に合わせて俺が宝石によるアシスト。恐らくギネカからすれば鬱陶しい以上の効果はないだろう。けれど、できることはやりたかった。
「ありがとうございます」
姿勢を低くして、下から上へ、刺し穿つように放たれるのは刀による突き。しかし、サクラは懇意的にそれを外しているらしかった。
「……」
そもそも、彼女に当てる気が見当たらない。そんな印象である。
「これはあまり使いたくありませんでしたが――必殺」
紙一重で回避された際、サクラがさらに刀を翻す。それに合わせて、刀が煌めいた。
これは……魔力?
その刀に宿る確かな魔力反応を見て、俺はサクラが行おうとしていることを確信した。彼女は何らかの魔法を行使しようとしている。
「必中――斬」
あまりにも、あんまりな直接的なネーミングを呟いて、サクラはそのまま刀を振り降ろした。
あれがただの斬撃とは思えないが、刀身自体になんらかの魔法が施されているわけでもない。ただの攻撃ならば、ギネカに見切られてしまうが……。
やはり、サイドステップを踏み回避するギネカ。
しかし、その直後――異変は起きた。回避したはずのギネカの肩が見事に割かれ、鮮血が吹きこぼれる。
「……!」
明確な隙が、彼女に見える。
サクラはやってくれたようだ。俺は駆け寄り、宝石を握り絞め――握りつぶした。
腕に迸る雷撃。それを俺は腕に刻んだ魔方陣で回収する。クラノスを治療する際や、リグとの戦いでやった魔力の濾過とも言える行為。それを行った。
腕の焼けるような感覚も、既に慣れたものだった。
そのまま、魔力を氷の術式へと回せば――。
「魔力過剰装填・術式暴走――絶対零度!」
ギネカの身体に触れ、俺の右腕にありったけの魔力をぶちこんだ。
当然、この魔法の火力ですらギネカを致死に至らせない。俺の持ちうる最大の火力ですら、彼女に取ってはちょっとした傷程度だろう。
けれど、それでよかった。
氷というものを、最大限活かす。凍てつかせるという概念そのもので、俺はギネカに触れたのだ。
「その程度の魔法で私がどうにかできるわけが――っ! まさか」
「ああ、そのまさかだ」
右腕が凍っていく。けれど、そんなことは気にせず俺は続行。雷龍の雷を魔力変換し、本来俺では持てる筈のない魔力量を暴走させさらに肥大化させた。
その分、俺への跳ね返りも膨大になるが……そんなこと、気にしていられなかった。
ともかく、俺は氷の凍てつかせるという属性に注目しギネカに撃ち込んだのだ。
一撃で殺せなくても、一撃で行動不能にできればいい。つまり、一種の封印魔法。それが、この絶対零度。
「なるほど……そう来たか……。うん、悔しいけれど、今回はここまでのようだね。にしても、なるほど。これはもしかしたら、もしかするかもしれない!」
「……?」
「ああ、いや。此方の話さ。気にしないでおくれ。ああ、もう少し楽しみたかったなぁ。前菜は時にメインよりも甘美で美味しいのだけど……」
そこまで言って、ギネカは凍結。
俺は凍った右腕に応急処置を施しつつ、地面にへたり込んだ。
「死んでしまったのですか?」
「いや。多分死んでない。でも、ちょっとショックだったな」
「はい……」
「……と、流石に魔力過剰装填を使うとリバウンドが激しいな」
魔力不足が祟ったか、意識が遠のいてきた。流石にもう大丈夫だと思うけど、元の世界へ戻るまでは気絶したくは……。
そこまで考えて、俺の意識は途絶えてしまった。
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