種の夢
こんな夢をみた。
私は道を歩いていた。ふと気づくと、足元に何かの種があった。私は立ち止まると、その丸い種を拾い上げて、しばらく眺めていた。よくよくじっと見ていると、その種が私の目にそっくりだと気づいた。なるほど、見れば見るほど良く似ている。しだいにその思いは強まった。まるで時間とともに、種が目へと変化しているかのようにも思えた。しかし、種が芽になることはあっても、目になるはずは無かった。やはり元からその種は私の目にそっくりだったのだろう。
その種は私の目と本当にうりふたつで、見つめているとどんどん違いが分からなくなってくる。私が拾ったのは「私の目にそっくりな種」ではなく、「私の目」だったのだろうか。しかし、目が道端に落ちているはずもない。落ちているとすれば種であり、やはりそれは「私の目にそっくりな種」でしかありえないのだ。そもそも私に属していないものが、「私の目」であろうはずがない。
それともあるいは、これまで「私の目」だと思っていたものは、この種の仲間だったのだろうか。しかし先ほどの議論と同様に、私が私の目によって物を見ている以上は、目は種なんかではなく、「私の目」であることは間違いないと思えるのだ。つまり結局のところ、この種は種以外の何ものでもなく、私がこの種を捨てたところで私の目を捨てることにはならないのは明白なのだが、私はその種を失うのが何となくもったいない気がして、ポケットにそっとしまい歩きつづけた。
そうして歩きながら、仮にこの種が私の目だったとしたら、私がどんな光景を目にしただろうか想像した。想像される風景は、私の目がこれまでに見てきたものからの類推でしかない。しかし、そうやって想起されるイメージは過去の体験のいずれとも同一ではない。そんな風に、長い間たっぷりと種が見たであろうことについて考えた。
しばらくして何気なくポケットのあたりに手をやった。指先にそっと、小さな芽が触れたのを感じた。
夢n夜 FinallyBinary @finallybinary
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