おわり
「どうしたの、朱里ちゃん……?」
「いや、あのな」
「うん……」
「美津子」
「……変な、話?」
「いや……、あのさ、あたしが転校してきたばっかりの時、一人だったあたしに、美津子が話しかけてきたの、覚えてる?」
「うん……、覚えてるよ」
「あの時、なんで話しかけたん」
「なんでって……。あんまり、はっきり覚えてはないけど……」
「そっか」
「どうして、そんなこと聞くの……?」
「いや、ええねん」
「朱里ちゃん……」
「すまんな、変なこと聞いて」
「わたし……、わたしね、ずっと一人だったの。お母さんも、お父さんも、いないでしょ。おじさんとおばさんは、ほんとの娘みたいに優しくしてくれるけど、仲のいい友達もいないし、それに、昔の記憶もないって、きっと、変な子みたいだし……。ずっと、一人だったの」
「美津子……」
「だから、かな」
「あたしも……、言葉の違いって、思ってたより、ずっと大きくてさ。なんか、自分が、どっか別の世界からやってきた人間みたいに思えて、いつまで経っても、自分がよそものだって気持ちが取れなくて、気づいたら、一人になっててん」
「朱里ちゃんと仲良くなってから、ひかるちゃんも話しかけてきてくれたんだよね」
「あ、うん……。なんか、珍しい組み合わせができてて、面白そうだと思って……」
「面白半分やったんやな」
「うん……」
「面白かった?」
「うん、想像以上だった……」
「ひかる」
「ごめん。でも、面白いよ。あたしも、なんか、どこに行っても、ふと、ここが自分の居場所じゃないんじゃないかって気がする時があって。でも、最近は、思わなくなったな」
「コーヒーが、全く見つからへんまま冷めてしまいそうや」
「電気、点ける?」
「いや、けど、もう少し、このままでええかな」
「うん……」
「もう一周する?」
「ん?」
「次はさ、明るい話をして、一本ずつ、蝋燭を点けていくとか、どうかな」
「どうせおまえの話、おもんないやん」
「ちょっと、やけに風当たりが冷たいんだけど、隙間風入ってきてる?」
「まあ、ええやん。もうちょい、このままでいようや」
「朱里ちゃん」
「ん?」
「ひかるちゃん」
「うん」
「ありがとう、ね」
「おう」
「こんなわたしと……」
「いいよ、それ以上は無しにしよ」
「うん……」
「なあ、ひかる」
「なに?」
「どうでも、ええことやんな」
「うん。ただの、怪談だよ」
「何の話……?」
「いや、なんでも……、あっ!」
「え?」
「すまん、なんか、こぼしたかも」
「マジ?」
「大丈夫? 電気点けるよ?」
「あ、でも、ちょっ、待って!」
「あれあれ? 朱里さん、なんか、コーヒー以外の物が、こぼれてますよ?」
「うっさい、おまえもやんけ」
「えへへ」
「なになに? どうしたの……? 二人して……」
「なんもない」
「ふふふ……。じゃあ、今から三秒後に、電気を点けます」
「まさか……、みっつん、そのイントロは……」
「三……」
「美津子、しょうもないこと言ったら口が腐るぞ」
「二……」
「みっつん、今度こそ、あたしの汚名を!」
「一……」
「……」
「……」
「……なんだっけ、忘れちゃった!」
怪談 みつものがたり 細井真蔓 @hosoi_muzzle
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