ふたつめ
「ええと……、これは、なんとかシュタインって人のお話です」
「アインシュタイン?」
「伝記やんか」
「ごめんね、ちょっと、名前忘れちゃった……」
「フランケンシュタイン?」
「あっ、そうそう! そうかも……」
「タイトルでネタバレしちゃった」
「怪談……」
「じゃあ、話すね……。むかしむかし、あるところに、一人の博士が住んでいました」
「おっ、昔話」
「博士は家族がいなかったので、一人で寂しく暮らしていました。ある日、孤独に疲れた博士は、自らの子供を作り出すという、禁断の実験を始めてしまいました」
「ちなみにフランケンは、怪物の方じゃなくて、作った人の名前ね」
「うんちくはええから」
「けれど、数々の難しい実験を成功させてきた博士も、人間の作り方はわかりませんでした」
「ちなみにフランケンは、博士でもなく、ただの大学生ね」
「黙って聞けや」
「博士は、まず初めに、土を材料に作ってみました。でも、動いたと思ったら、ぼろぼろに崩れてしまいました」
「それ、フランケンじゃなくて、ゴーレムじゃない?」
「次に、博士は粘土を材料にしてみました。今度は上手くいくかと思いました。けれど、干からびて、割れてしまいました」
「魂はどこから調達したの?」
「ええと……、どこだろう、それも作ったのかな。ごめん、わからない……」
「そっちの方がすごいよ。むしろそっちのエピソード聞きたい」
「確かにな。まあ、とりあえず最後まで聞くぞ」
「中途半端でごめんね……。次は……、そうそう、鉄くずで作ってみました。次こそ成功かと思いましたが、錆び付いて動かなくなりました」
「あちゃー、ロボでもダメだったか」
「博士は考えました。人間を、無機物から作るのが間違っているのではないか、と」
「なんで無機物から始めたんや」
「次に、博士は豚の肉を使ってチャレンジしてみました」
「軽い語り口だけど、絵面は最強に怖いよね」
「けれど、豚肉の子供は腐ってしまいました」
「豚肉の子供……」
「博士は考えました。人間を作り出すのに、別の物で代用しても上手くいくはずがない。博士は悩みました。最後に、試してみたいことはある。しかし、そうすれば、人の道を踏み外してしまうだろう」
「まだ踏み外してないつもりだったんだ」
「博士は覚悟を決めました。そう、博士は最後に、人間の肉を使うことにしたのです」
「原作に近づいてきたね」
「いや、もうそのフランケン詳しいアピールいらんから」
「フランケン、テストに出るよ?」
「何の教科やねん」
「博士は人間の肉を手に入れようとしましたが、どこで入手できるかわかりませんでした」
「墓場の死体を暴くんじゃなかったっけ?」
「えっ……、でもお墓の中には骨しかないよ……」
「フランケン、日本の話だったんだ」
「おかしいな……、確かそう書いてあったはずなんだけど……」
「まあ、いいやん。美津子、すまんな、茶々入れて。続けてや」
「うん……。それで、博士は人を殺すことにしたんです。とある満月の夜、博士は月明かりの下で、一人の女性に目をつけて、ナイフで刺し殺しました。死体を屋敷に運ぶと、バラバラにして、子供の形に組み直しました。そして、とうとう、実験は成功したのです。おしまい」
「……え?」
「終わり?」
「うん。ここで終わりだよ」
「子供はどうなったん?」
「うーん、それは書いてなかったけど、二人で幸せに暮らしたんじゃないかな」
「消化不良すぎる」
「なあ、美津子。あんたさっきから、書いてあった、って言うてるけど、何かで読んだん? その話」
「……朱里ちゃん、鋭い。名探偵みたいだね」
「よっ、浪花のホームズ」
「……そう、実は、これ読んだ話なの」
「でも聞いた感じ、あたしの知ってるフランケンじゃないんだよなあ。色々混じってるのかな」
「ええとね、この部屋で読んだの」
「……なんか今、今日イチでゾッとした」
「この部屋?」
「そこにタンスがあるでしょ……? 昔、その引き出しの奥で見つけた本に書いてあったの」
「……これ、ヤバいやつ?」
「どの引き出し?」
「確か、一番下の引き出しの奥の方に、貼り付けてあったと思う……。上の引き出しの裏側に貼ってあった感じかな」
「……いっちゃう?」
「あたしに聞くなって」
「みっつん、いっちゃっていい?」
「いいけど……、ずいぶん昔だから、もう無いと思うよ?」
「せーの、で、いくよ」
「おまえ一人で開けえや」
「意気地なし! もういいよ、開けるよ。三秒後に開ける。三……、二……、一……、メアリー!」
「……何かある?」
「待って、あるとしたら奥でしょ。ええと、……何もない」
「でしょ? ずっと昔の話だから」
「……なんか妙に疲れたな。で、メアリーって誰なん?」
「えっ、あたしそんなこと言ってないよ」
「そんなんいいから」
「誰って、フランケンの作者だよ」
「……それで、美津子が見たってのは、どんな本だった?」
「……待って、今の、すごく……面白い」
「なんや、美津子のツボに入ったらしいぞ」
「みっつん、あたしが言うのもなんだけど、今のは無いわ」
「……はー、はー、苦しい……。ええと、本っていうか、ノートみたいな感じ……だったかな、と思う」
「誰かのネタ帳じゃない? 小説とかの」
「この部屋を、誰が使ってたかにもよるな」
「ここは、前に働いてた、お手伝いさんが使ってた部屋だよ」
「すごい。お手伝いさんって都市伝説かと思ってた」
「でも、ずっと前、わたしが小さい頃に辞めちゃったから……」
「ふうん、でもお手伝いさんがわざわざ妙な話を書いたノートを引き出しに隠した理由がわからんな」
「ていうか、これ、もともとフランケンの話でしょ?」
「もしかしたら……、そのノートとか、フランケン……シュタインとか、いろんな話が、頭の中でごちゃ混ぜになっちゃったのかも……。ごめんね」
「よくわからんけど、とりあえず、蝋燭消そか」
「もやもやは、全部吹き飛ばしちゃおう!」
「なんか……、緊張するね。じゃあ、いくよ……」
「もっと強く吹かんと」
「苦しい……」
「頑張れ!」
「んっ……」
「消えた! 十七歳おめでとう!」
「一本だと、流石に暗いな」
「ちょっと……、怖いね」
「ようやく雰囲気出てきたってことやな。お膳立てはじゅうぶんや」
「さて、きみは最後にどう締めくくってくれるのかな? この波瀾万丈なパーティーを」
「これでも地元じゃ、怖い話させたら並ぶ者無しって言われとったからな」
「よっ、浪花のイナジュン」
「漏らす前にトイレ行っといた方がええんちゃう」
「さっきあんなに怖がってたくせに!」
「はいはい。じゃあ、いくで……」
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