ひとつめ
「ある日……、女の子が、見知らぬ部屋で目を覚ましたの。何も無い部屋。女の子は手術台みたいなベッドに寝かされていて、手枷と足枷をはめられて、動けない」
「……怪談?」
「ソリッドシチュエーションやん」
「まあいいから、聞いて。女の子は周りを見回す。体が動かせないから、首だけ、こんな風にぐるっと回して、周りを探ってみる。壁も天井も一面真っ白。手術というより、実験室みたいな感じ。天井の隅に監視カメラ。赤いランプが光ってる。窓は無い。その代わり、天井付近に通風口がいくつかあるのが見える」
「ひかる、最近そういう映画見たやろ」
「違う違う。ほんとに聞いた話なんだって」
「なんか、面白そう」
「わくわくさせてんぞ」
「ふふふ……。女の子は、必死に抜け出そうとするけど、動けない。カメラに向かって呼びかけてみる。誰か、助けて、って。でも、まあ、そんな状況だし、カメラの向こうにいるのが黒幕だよね」
「普通はな」
「あ、そうそう、ドアもあるよ。でも、鍵が掛かってる」
「なんで鍵掛かってるってわかったん?」
「いや、なんとなく、そんな気がしただけ」
「作りながら話してるやろ」
「違うって。思い出しながら話してるから」
「面白いから、大丈夫だよ。それから、どうなったの?」
「助けを求めても、誰も来ない。手も足も痛い。ちょっと、トイレに行きたくなってきた」
「はよ行ってきいや」
「案内するよ」
「ちゃうちゃう。女の子がね、もよおしてきたの。怖いとか、怒りとか、そういうのどうでもいいくらい、とにかく漏れそうになってきた」
「今のとこ怪談要素ゼロやぞ」
「ああ、もう無理! 限界! この枷が外れたら……。そう思って、思い切りもがいたの。全力で、枷を引きちぎろうと頑張って……、ブチブチッ! 枷がちぎれた!」
「ええっ……。何やそれ、糸か何か?」
「金属のやつじゃない? よく映画とかで見る、鉄の輪っかみたいなやつ」
「超人やん……。ていうか何の映画見たん?」
「だから映画じゃないって。ほんとに聞いた話」
「それで、その女の子は、どうなったの……?」
「逃げちゃった。監視してた人も慌てて追いかけたんだけど、間に合わなかった。すごい速さで、闇の中に消えちゃった。ドアはぶち破られてた。立ち尽くす監視人。彼女はいずこへ……」
「もしかして、それで終わり?」
「うん」
「すごいな」
「でしょ?」
「通風口何だったん。ていうか、最後、なんか知らんけど監視側目線になってたし」
「面白かったよ?」
「みっつんは違いのわかるみっつんだね」
「気を取り直して、次、美津子いこうか」
「ちょっ、蝋燭消させて!」
「ああ、すまんすまん。あまりのことに気が動転してたわ」
「じゃあ消すよ。……ふーっ!」
「勢いだけは一人前やな」
「消えた……。パチパチ」
「盛大な拍手を!」
「ちなみに、その話、誰から聞いたん?」
「うちのお父さん、セキュリティ系でしょ。たぶん、そういう監視カメラの映像を解析する会社とかとも繋がりがあるんじゃない?」
「流出しちゃったのかな」
「そのカメラ、絶対ホームセキュリティのやつちゃうやろ……。ていうか、おとんから聞いたんか、その話……」
「なんかそういう話、色々あるみたいよ。セキュリティ業界怪談、みたいな」
「色々ある中から、このチョイスか……」
「でも、あるかもしれないよ……? その研究所に残ってたカメラを、どこかの警備会社とか、警察とかが回収して……」
「みっつん、もっと言って!」
「わかったわかった。とりあえず、次いこ」
「あたしの汚名を返上して!」
「うん……、頑張る」
「汚れてる意識はあるんやな」
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