怪談 みつものがたり

細井真蔓

はじまり

「いい……? じゃあ、消すよ」

「もう帰りたいよ……。どうして二人とも平気でいられるんだろう……」

「嘘くさい心の声が漏れてんで」

「消すね? はい……、消しました」

「消えた……。その時、カーテンが風もないのに……」

「フライングすんなって」

「結構明るいんだね、蝋燭って」

「うち、蝋燭なんてないよ」

「ほんまに、何でもあるよな。美津子の家は」

「お仏壇があるからかな」

「それにしてもおっきい家だよね。何やったらこんなに儲かるんだろう」

「儲かるかはわからないけど……、お医者さんだよ」

「この和室も百点だよね。いや、百十点」

「そうかな……? 使ってない部屋を急いで片付けただけだから、少し埃っぽいかも……」

「うちの使ってない和室でもよかったんだけど」

「おまえんちマンションやんけ」

「お兄の部屋使ってないよ」

「和室ちゃうし、たまに帰って来てるやん」

「それか、どこかの廃墟とか」

「そんな都合よく廃墟に和室ないわ。あっても畳グズグズやぞ」

「あ、ごめん、みっつん。別の部屋がいいってわけじゃないよ? ただ、この部屋が、ちょっと、怖すぎるっていうか……」

「廃墟言うてたやん」

「で、蝋燭ってどのくらいもつの?」

「一時間、くらいだと思うけど……」

「とっとと始めようや」

「カーテンが……」

「カーテンないぞ、この部屋」

「最初は、誰にする?」

「はーい、あたし行きます!」

「カーテン以外の話な」

「待って、ひかるちゃん……。最初に、ルール確認していい?」

「ルールも何も、百物語だよ」

「美津子にはちゃんと説明してなかったかもな。一人一個、怪談話をする。ほんで、終わったら、蝋燭を吹き消す。蝋燭は三本あるから、ちょうど全員一個ずつ話したら、部屋が真っ暗になって、ヤバいもんが現れる」

「ヤバいもんは流石にヤバすぎる」

「三人やから、百物語じゃなくて、三物語やな。さんものがたり」

「三つの物語だから、みつものがたり、の方が語呂がいいんじゃない?」

「なんか、わたしが主人公みたいで、いいね」

「みっつん、これ怪談だよ?」

「何でもいいから、はよ始めようや」

「じゃあ、順番は、ひかるちゃんが最初で、そのあとは……」

「みっつん、朱里あかりの順でいいんじゃない? 言い出しっぺがトリってことで」

「こういうのは最初の方が肝心なんやぞ?」

「任しといて」

「ひかるちゃん、怖い話、得意そうだもんね」

「はいはい、褒めるのは話が終わってからにしてくれたまえ」

「じゃあ、頼むぞ。まず一つ目の怪談、どうぞ」

「あー、あー、テステス。では、僭越ながらわたくしがハナを務めさせていただきます。えー、わたくし、産まれも育ちも江戸は浅草」

「そういうのいいって」

「オホン、では一つ目の話……」

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