第39ワ アンデット鎮圧……?


 声高々にバックスと名乗った男は、一呼吸置くと室内を見渡す。暫く周囲を監察していたバックスであったが、何か目的の物でも見つからなかったのか近くにいる兵士に声を掛けた。

 

「失礼。国王様にお目通りを願いたいのですが、国王様はどちらに……?」

「王は……」


 尋ねられた兵士は、ばつが悪そうに口ごもった。そんな兵士の様子を見たバックスは、不思議そうに首を傾げると室内に居る人間に聞こえるように声を張り上げる。


「この中にどなたか、国王様にお目通りのお願いをお取り次ぎ出来る方はおられませんか? ご報告があるのですが!」


 バックスの声が礼拝堂に響き渡ると、兵士達は各々顔を見合わせた。しかし、皆渋い顔をするだけで誰も口を開こうとしない。

 そんな中、バックスにシルビアと呼ばれていた女性はニコッと一人笑みを零す。


「あらー、かっこいいバックスくん。しっかり副隊長やってるじゃない。わたし感心しちゃったは」

「茶化さないでください、真面目な話なんですよ!」


 すると、そんな二人のやり取りを見ていた男が口を開く。


「……王には諸事情あって今はお会いすることは出来ない。差し支えなければ代わりに私が聞こう」

「貴方は?」

「私の名はレッドナート。この国では剣聖と呼ばれている」


 剣聖と聞き表情を強張らせるバックス。


「なんだ?」

「聞きましたよ。噂では魔王討伐に向かったとか?」

「ああ、そうだが今その話はいいだろ? それより報告とはなんだ」

「──そうですね、失礼しました」


 そう言ってバックスは一礼すると姿勢を正し、レッドナートに告げる。


「グリンデート王国騎士団、副隊長バックス。我が王の勅命により騎士団員を引き連れ、アンデットの大群を殲滅したことをここに報告いたします」


 そう告げられたレッドナートは信じられないといった感情と、危機から脱したかも知れないといった感情が入り混じり疑心混じりに聞き返す。


「……そ、それは本当か?」

「ええ、間もなく街全体の鎮圧も終わるかと」


 その言葉に辺りの兵士達は緊張の糸が切れたように、ガクッと膝から崩れ落ちる者、レッドナートと同じくまだ信じられないと言った様子で各々言葉を交わす者など様々な様子を見せていた。

 

 そんな様子を見てかねてかバックスは念を押すように自信たっぷりで口を開く


「信じられないようでしたら外に出てご確認ください。騎士団員はいてもアンデットの大群は消えているはずです」


 バックスの言葉にそれまで近くで黙って聞いていた戦士長は呟いた。


「本当に終わったのか……」

「はい、我が騎士団の誇りに懸けて嘘偽りでは無いです」


 バックスの言葉を聞いた兵士は戦士長の肩に手を置く。


「戦士長、一瞬でもあんたに従った事を後悔した俺らが馬鹿だった。あんたは英雄だ!」

「いや、あの状況の中、俺を信じて付いてきてくれたお前らこそ英雄だ。だが一番の英雄は──」


 戦士長はそう言葉をつぐむと近く立つ魔王に顔を向け、肩に手を置く。


「な、なんだ?」

「旅人よ、お前のあの作戦が無かったら俺らはただの飲んだ暮れのまま死んでいただろう。感謝するぞ」

「そうだ、兄ちゃんお前こそ英雄だ!」


 そんなやり取りを尻目にレッドナートは、バックスに対し剣聖としての気品を醸し出し謝辞を述べる。


「自国に危機が降り掛かるやもしれぬ中、我が国を救ってくれた貴国に対し、国を代表して貴殿に礼を言おう」


 そう言うとレッドナートは頭を下げた。


「いえ、礼なら我が王に。そして──」


 バックスはそう言うと、シルビアの方に顔を向けるとレッドナートに彼女に謝辞を述べるように手で促した。


「そちらのシルビア様にお願いします」


 レッドナートはそう促されシルビアの顔を覗くと彼女はニコッと微笑む。


「失礼、こちらの女性は?」

「そのお方は我が国の大聖女でありながら、勇者の母君でもあらせれるシルビア様。シルビア様が居なければここまで無傷では来れなかったでしょう。我々はシルビア様が浄化したアンデットの残りを狩っていたに過ぎません。なので礼ならそちらのシルビア様にお願いします」


 暫くの沈黙の後礼拝堂に、えぇぇぇぇ!!? と言う男達の声が響きわたった。


「な、なんだと!?(何歳なんだこの女は!?)」


 流石の魔王も驚きを隠せない様子でそう言葉を零した。


「そ、そうでしたか。大変失礼致しました。国を代表してお礼を申し上げます」


 レッドナートがそう深々と頭を下げるとシルビアは微笑んでいた。


「ではシルビア様、こちらに。部下に護送させますので」 

「ん?」


 バックスが促すようにそう言うと、とぼけた様に口に指を当て首を傾げるシルビア。


「いや、ん? じゃなくて後のことは我々にお任せください」 

「それがねえ、そう言う訳にいかないのよー」

「まさか、まだアンデットの大群が!?」

「いや、もうアンデットは大丈夫だと思うんだけど……」

「だったら帰りましょうよ、何かあったら王に怒られるの僕なんですよ!」

「ちょっとこの国観光したいなぁ、なんて」

「ダメですよ! なに言ってるんですかこんな状況で、さ、帰りますよ」


 そう言ってバックスがシルビアを連れて帰ろうと彼女に歩み寄ると、突然礼拝堂の中を眩い光が包んだ。

 突然の出来事に誰もが目くらましをくらっていると「ごめんねー、バックスくん」とシルビアの声が聞こた。


 そして、ようやく視界が戻った頃礼拝堂にはシルビアの姿は無かった。


「ま、まずい、逃げられた!」


 バックスは焦った様子でそう言うと、勢い良く礼拝堂の外へと飛び出して行った。


 礼拝堂の中では呆気にとられた魔王達が立ち尽くす。

 すると、魔王の近くの長椅子で寝かされていた女性が目を覚ました。

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