第28ワ 動き出す計画。


 突然のパンチに、剣聖、バドラが唖然とする中、おっさんは、そんな事とはお構い無しにふっ飛ばされ顔を押さえて悶絶している魔王にゆっくりと歩を進める。


「文句があるなら正々堂々来るんだな。こんな小国まで使って回りくどいことしやがって」

「な、なんの事だ?」


 おっさんは魔王の側まで来るとしゃがみ、床で這いつくばっている魔王を見下ろす。


「おかいしと思ってたんだ、勘違いで攻撃するなんて」

「はい? あの、仰っている意味が……」


 おっさんは拳を振りかぶる。


「ちょっと待ってくれ! 本当に分からん、何の事を言っているんだ!」

「じゃあ教えてやる。てめぇが、俺を倒すようにこの国の連中をそそのかしたんだろ?」

「???」

「それで失敗の報告を聞いて、てめぇが痺れを切らして出てきたって訳だ」


 魔王は必死で頭を働かせた。しかし、いくら考えても目の前のおっさんが何の事を言っているのか分からない。

 だが、何かしらの返答をしないと今にも殴ってきそうだ。そう思い魔王は口を開く。


「あ、あのー、なんの事を仰っているのかは存じ上げませんが、我は、城で起こった手掛かりがこの国にあるんじゃないかと思って訪ねてきただけなのだが……」

「ん? どういう事だ?」


 魔王は自分の城で起こった事と、セパールまできた経緯をおっさんに話した。


「ん? それじゃあ、本当にお前は勘違いで俺を攻撃しただけなのか?」


 話を振られたレッドナートは答える。


「はい、何回も申したように、本当にただ魔王関係者だと思って攻撃してしまっただけです」

「………ダッハッハッハハハ!」


 口を大きく開け笑いだすと、魔王の肩をバンバンと叩くおっさん。


「痛っ、ちょっ」

「悪りぃ、悪りぃ。俺の勘違いだ」


 笑いすぎて目に涙を滲ませるおっさん。

 泣きたいのはコッチの方だ。そう思う魔王の感情は無視して、おっさんは続ける。


「いやー、悪かったな殴っちまって。お詫びと言っちゃあなんだが…」


 そう言うとおっさんは、近くにいるレッドナートを呼びつけ酒を持ってこさせた。


「俺の奢りだ呑んでくれ」

「あ、ああ、それじゃあ頂こう」


 我が奢られているんじゃなくて貴様が奢られているんだ! ふざけやがって。なんて理不尽な野郎だ。

 

「では、我はこれで」

「まあ待て待て。俺も一人で呑んでるのも飽きてたところだ。少し付き合え」

 

 クソ、こんな所で油を売っている場合ではない。王宮に手掛かりが無いと分かった以上、さっさとあの洞窟を調べたい。


 ──その頃勇者は、


「フハハハ! どうだ驚いたか? 待ちわびたぞ魔王」

「な、なんだとー、何故貴様がそこに座っている(棒」

「……ダメダメ。もうちょっと感情込めて言ってくれないと」


 玉座に座る勇者はエノにダメ出しした。


「はい、じゃあもう一回いくよ」


 そんな様子を近くで見ていたネロはイリスに尋ねる。


「あの、イリス様。アレは止めなくていいんですか?」

「あなたの気持ちは分かるけど、辞めておきなさい。アレと話していたら頭が可怪しくなるわよ」


 勇者は「うーん」と鼻から息を吐くと、腕を組んだ。そして、暫く何か考え沈黙していると、ハッ! と何か思いついたように口を開けた。


「イリスさん、お願いがあります」

「な、なに?」

「魔王役をお願いできないでしょうか?」

「はい? 嫌に決まってるでしょ」


 勇者は困った。何故ならエノが人間だから雰囲気が出ないんだと思って、魔族のイリスに魔王役をやってもらえばしっくりくると思ったからである。

 しかし、断らてしまった。何故断られてしまったのか? 暫く考えているとイリスが断った理由でも解ったのか、「ああ」と頷いた。


「なるほどそういう事ですか」

「はい?」

「恥ずかしがらずに言ってくれればいいのにー」

「何を言っているの?」

「つまりイリスさんは、玉座に座ってみたいから魔王役を断ったんですね?」

「は?」

「でも、それだと僕がそのまま勇者役になっちゃうしなー、それじゃあシュミレーションになんないんだよな」


 イリスは両手を前に出し構える。


「あ、あれイリスさん?」


 魔法陣が展開されるとイリスは唱えた。


氷 柱 の 雨アイシクルレイン


 上空に氷柱が出現すると、雨のように勇者に降り注ぐ。イリスの魔法に目を輝かすエノ。


「あ、危ないですよ! イリスさん、何をするんですか急に!」

「うるさい! 死ねぇぇぇぇえ!」

「イ、イリス様、落ち着いてください」


 ネロに腕を捕まれなだめられると、フー、フーと肩を震わせ息を荒らげるイリス。


「イ、イリスさッ」

「喋るな! これ以上意味の分からない事を口走ったら殺す!」


 と、そんなやり取りをしていると、外から騒がしい音が聞こえ、一人下僕が走ってくる。


「た、大変ですイリス様!」

「なに!」


 何か怒っている様子のイリスに、ギロっと睨まれた下僕は一瞬狼狽うろたえたがそれどころでは無いので続ける。


「ア、アンデットの大群が攻めて来ます!」

「「!?」」


 勇者達は城の上の階に上り、城外を見回すとおびただしい数のアンデットが城に向かってくるのが目に入った。


「な、なんて数だ…」

「嘘でしょ…」


 絶句する彼らの意思は無視してアンデットは城を目指し行軍する。

 そして、とある城では一人の魔族が高笑いし呟く。


「クハハハ、さあ魔王、交代の時だ」

 

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