第27ワ 望んでない再会。


 魔族一人、人間二人はセパールの閑散とした通りを歩く。

 すると前を一人歩く人間の男が、後ろから付いてくる二人に対して口を開く。


「分かった。会うのはいいが、決して横暴な態度は取るな。それと、まだ会わせる訳にはいかん」

「何故だ?」

「あの男はまだ寝ている。もし睡眠を邪魔でもしようものなら、この国が本当の意味で滅亡しかねん」


 この男から話を聞くかぎり『世界を新しく支配』だ『国を滅亡させる』だの、もし話が本当ならアンデットの件以前に放っては置けないな。剣聖と言われるコイツが、手も足も出なかったと言うなら、用心しておいても損は無い。


「分かった、その男が起きるまで待とう。だがお前は何処へ向かっている?」

「酒場だ。私はあの男が起きるまでに酒を用意しなくてはならん」

「そういえば、倒れる前も酒を欲していたな。そんなに酒が必要なのか?」

「ああ、あの男は酒がないと不機嫌になり何をしでかすか分からん」


 そんな事を会話をしていると、レッドナートはお目当ての酒場の前で足を止める。 

 そして酒場の扉を少し強めに叩く。


「マスター! 頼みがある」


 レッドナートがそう声をあげると、扉が開き酒場の店主が迷惑そうな顔で出てきた。


「剣聖様、悪いけど酒は売れないよ」

「頼む! 一樽でいいんだ、金なら倍払ってもいい」

「剣聖様、分かってくれ。俺も売ってはやりたいが、他の店が売らない中、俺だけ売ったらあんたと親しい関係だと思われちまう」

「わ、分かった三倍出そう!」

「剣聖様、お金の問題じゃねえんだこれは」


 と、そこまで二人の会話を聞いていた魔王は思う。王宮にいる男がどれほど危険な奴か知らんが、話を円滑に進めるためにも酒は必要か…


「バドラよ、手持ちの金はいくらある?」

「十万ほどは」

「そうか、分かった。店主よ酒はどれ位する? 我が買うのなら問題ないだろ?」

「樽で買うなら、五十は欲しいな」


 五十!? まったく足りないではないか。

 困ったな、さて、どうするか……


「店主よ今は十万しか無い。どうにかならんか?」

「流石に十万じゃ売れないよ」

「分かった。今は出せないが用事が終わったら、後日この男が言ったように三倍出そう。それならどうだ?」


 店主は魔王の提案に「うーん」と腕を組み考える。


「後日とはどれくらいだ?」

「少し話を訊きに行くだけだから、一日、二日もあればお金は払えるはずだ」

「うーん。……わかった。旅人さんを信じよう」

「そうか、助かった」


 すると二人の会話を聞いていたレッドナートが、魔王の肩を掴んだ。


「き、貴様!」

「な、なんだ!?」

「私は誤解していたようだ。どうやら貴様はいい奴だったんだな」


 魔王は目の前の男が涙ぐんでいたので、とりあえずそういう事にしといた。


「まあ、これで酒は手に入った。それで男はいつ起きる?」

「八、九時には起きてくるはずだ」


 あと三、四時間もあるではないか! 面倒だが待つしか無いか、せっかく買った酒も無駄にする訳にもいかないしな。


「それなら、我らは何処で待ってればいい?」

「いつも男が酒を飲んでいる部屋があるから、そこで待っていれば奴からくるはずだ」

「そうか、分かった」

「それともう一度言うが、絶対に横暴な態度はとるなよ」

「分かっている」


 ──三時間後。


 魔王達三人は、酒瓶やら食べかけの食事が散乱した部屋で男を待っていた。

 本当にここは王宮か? 誰か掃除をする者はいないのか? ……なるほど。王が逃げだして、王宮の使用人や兵も逃げ出してしまったのか。まあ、この国の現状はどうでもいいか。

 と、魔王がそんな事考えていると部屋の外から大きな声が耳に入った。


『おーい! レッドナート! どこだ、酒だ酒!』


 その声を耳にしたレッドナートはガタガタと震え、急いで部屋を出ていった。


『お、お待ちしておりました! お酒なら用意してありますので』

『おう、そうか!』


 剣聖や街の奴から話を聞き、どんな恐ろしい奴なのかと想像を膨らませていたが、声を聞く限りでは、ただのおっさんだな。

 ……ん? おっさん? この声何処かで聞いた事があるような……

 魔王がどんな人物なのか想像を膨らませていると、部屋の扉が勢いよく開いた。


「酒だ、酒だー!」


 そう声を高々にあげ入ってき人物により、魔王はフリーズした。

 ……あ、あれ? 嘘でしょ? え? 何なのこれ? ドッキリ? え、もしかして我何か幻覚系の魔法掛けられてる?

 何故、あの男がここに? 

 魔王がパニクりながらも一生懸命思考を働かせている最中、入ってきた男は自分の方に視線を向け固まっている魔王を見つけ口を開く。


「ん? てめぇは……ああ、そういう事か」


 男は呟くと、辺りをキョロキョロと見回し、焦点が合っていない魔王に近づいた。


「てめぇだったのか。回りくどい事しやがって」

「えっ? な、何の事?」


 男は胸ぐらを掴み魔王を宙に浮かせる。


「え、ちょちょちょ待って待って! 何ですか!?」

「とぼけたって無駄だ」

「え、ホントに待って! 我何かしましたか!?」

「しらばっくれるな。お前が教えたなら全て辻褄が合う」

「あの? 話がよく……」


 おっさんの右ストレートが魔王の顔面に炸裂した。

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