第23ワ 掛け違い。


 朝日が顔を照らし魔王は目を覚ます。

 重い瞼を開けば、窓から眩しい日差しが部屋に差し込んでいる。

 少し目を瞑りボーッとすると、やっとベットから起きる決心が付いたのか、ガバッと起き上がる。


「そうだ、何処にいるのか訊いておかねば」


 独り言を呟くと、魔王は部屋を出て1階の受付があるカウンターに向う。

 1階に降りると、店主が少し驚いた様子で降りてきた魔王に声を掛けた。


「おや? もう出るのかい?」

「いや、違う。ちょっと訊きたい事があってな」

「なんだい?」

「昨日そなたから聞いた、剣聖が連れて帰ったという人物は、今どこにいるのか分かるか?」

「いや、それは分からないな。兵士なら知っているかもしれんが」

「そうか、分かった。我は少し外出してくる、もし連れが起きたら、宿に留まるよう伝えてくれないか?」

「ああ、分かったよ」


 店主にそう伝えると魔王は宿を出た。


 くっそ、昨日の兵士に聞いておけばよかった。流石にこんな朝から酒場は開いてないだろうが、夜まで呑気に待っている訳にもいかない。

 そう思い魔王はとりあえず酒場まで歩く。

 そんな道中魔王は、ふらふらと覚束おぼつかない足取りで歩く男を見つける。


 ん? あれは……昨日のカウンターで飲んでいた男か? まさか、こんな朝まで飲んでいたのか?

 まあいい、手間が省けた。


「おい、そこの者、ちょっといいか」

「んー、……お! 昨日の兄ちゃんじゃねぇか。どうしたこんな朝っぱらから?」

「一つ訊きたい、昨日聞いた剣聖が連れてきた人物とは、今どこにいるか分かるか?」

「あー、それなら…うっ! オエッ」


 汚ったねえな、どんだけ飲んだんだコイツは? 


「悪りぃ、悪りぃ。そいつなら王宮にまだいるぜ」

「本当か!?」

「ああ」

「その者に会いたいのだが、どうしたらいい?」


 魔王の質問を聞いた男は、吐き気を我慢しているのか、下を向いたまま答える。


「うー、気持ち悪ぃ。そんな奴に会ってどうするんだ?」

「ちょっと訊きたい事があってな」

「なんの用事か知らねぇが、今の王宮なら衛兵もいねぇから好きにしな」

「そうか、助かった」


 コレはラッキーだ。まさか、こんなに早く目的にたどり着けるとは、ダメ元で酒場まで行こうと思ったが、運のいいことに向こうから情報が歩いてくるとは。

 一度宿に戻って支度を整えよう。そう思い魔王は、一度宿に戻る。


 しかし、魔王はまだ知らない。この出来事はラッキーでは無く、アンラッキーだという事を。

 

 ──時は遡り、剣聖がおっさんを連れて(脅されて)帰った日。


「おう、ここがてめぇの国か」

「そ、そうだが、国まで案内させてどうするつもりだ?」

「てめぇには関係ねえ。それよりこの国の王に会わせろ」

「王に会ってどうする?」

「いーから、つべこべ言わず会わせろ。俺がその気になれば、国ごとふっ飛ばしてもいいんだぞ?」


 王に忠誠は無いが、私の計画のためにも、国という土地自体を消される訳にはいかない。

 普通なら国をふっ飛ばすと言われても現実味は無いが、この男が冗談を言っている様には感じられない。

 レッドナートはそう思うと、おっさんを連れ王宮へ帰還する。

 

 おっさんは、王がいる部屋まで案内させると、席に座る太った男を目にし、ぞんざいな態度で話し掛けた。


「てめぇが、王か?」

「レッドナート、こやつは誰だ?」

「お、王よ、こちらのお方は…」


 レッドナートは、説明しようと喋り出したが、おっさんの声がそれを遮る。


「ほう、てめぇが王か、誰から俺の居場所を聞いたかは知らねえが、攻撃されちゃあ黙ってる訳にもいかねえ」

「な、なんの事だ?」


 おっさんは、玉座の元へゆっくりと歩き出す。

 王は、得体の知れない男が近づいてくるので、助けを求める。


「レ、レッドナート、何なんだこやつは!?」


 剣聖という立場を上手いこと利用して、

王を動かし、国での地位を上げてきたレッドナートにとって、王にここで何かあっては困る。

 いずれ、王には退場して貰うつもりだがまだ早い。


「ま、待て。何をする気だ?」


 レッドナートが制止する様に声を掛けると、おっさんは歩みを止め、振り返った。


「先に手を出したのはお前らだ、俺を見つけ攻撃してきた以上、何も無しとはいかねえ」


 おっさんの言い分は、ごもっともだ。

 しかし、何か話が食い違っている様な気もする。

 レッドナートがそんな事を思っている間に、おっさんは王の目の前まで歩みを進めていた。


「一応訊くが、誰から俺の居場所を聞いた?」

「な、何の事だ?」


 返答を聞くと、おっさんは王の胸ぐらを掴み、恫喝する。


「今ならまだ一発殴るだけで許してやる。もう一度、訊いてやるから答えろ。居場所は誰から聞いた?」

「な、何の事だ? 質問の意味が分からんのだが」


 おっさんは、拳を握り振りかぶる。

 

 レッドナートは、止に入ろうと王の元へ走った。

 しかし、彼の思いも虚しく、王の顔面に拳はめり込んだ。

 バコッ、という音と共に王は玉座ごと後ろにぶっ飛ばされ、床を転がる。


「か、顔がぁぁあ!」


 王が痛みに声を上げている。

 このままでは、王が殺されてしまうかも知れない。

 そう思ったレッドナートは覚悟を決め、おっさんと王の間に入った。


「き、貴様これ以上は許さんぞ」

「そうはいかねえ。攻撃してきた挙句、俺の居場所を教えた奴も教えない。そんなのは許せる訳がねえ」


 この男は、何の事を言っているんだ?

 ……! も、もしかして、コイツ!


「き、貴様、もしや魔王なのか!?」

「あァ? んな訳ねぇだろ」


 魔王では無い? どういう事だ? この男の強さと、話から魔王だと推測したが、そうでは無いと言うのか?

 ……もしかして、私は何か大きな勘違いをしているのか?

 

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